第4章 第3話
夜、勉強を終えるとパソコンを開く。
わたしの妄想小説「魔女部におまかせっ!」の続きを書かなくちゃ。
そう思いつつ窓の外を眺める。沙耶っちは積極的だった。面白い映画があるんですよっ、とか誘ってたし。さすがのお兄ちゃんも気がついたんじゃないかな。だけどお兄ちゃんは「僕の恋人は二次元なので、リアルな映画はちょっと!」とか言って逃げてた。沙耶っち少し寂しそうだったな……
わたしは、何も言えなかった。一輪先輩と映画っていいな、と思っただけで何も言えなかった。
さあて、続きを書く前にお茶飲んでこよう……
居間に下りるとお兄ちゃんがぼうっとアニメを見ていた。しかしその視線は宙を彷徨って全然画面は見てない。
「どうしたのお兄ちゃん」
「あ…… 桜子は「四つ葉」ってペンネームの作家さん知ってるか?」
「誰それ、知らないよ」
「そっか……」
それっきりまた黙る。
「面白いの、その人の小説」
「あ、いや別にそういう訳じゃないけど」
へんなの。
お茶をグイと飲んで部屋に戻る。パソコンに向き直るとさっきの「四つ葉」ってペンネームの人を小説サイトの中に検索してみた。だけど、そんな名前の人はたくさんいて誰のことか分からない。やっぱすごい巨大サイトなんだな、ノベルメイト。
さあ、今日はもう少し書いて寝よう。
◆ ◆ ◆
翌日、校門をくぐると女子バスケ部のふたりがビラを配っていた。
「女子バスケ部で~す!」
「一緒にバスケしませんか~!」
わたしもそれを一枚貰って歩きかけると。
「あのっ、星乃さんの妹さんですよね! お兄さんにはホントにお世話になりました!」
「あっ、いえいえ……」
「わたしたちお兄さんの応援にも応えなきゃって、頑張って試合に出ることを目標にしたんです。お友達にバスケ好きな人がいたら紹介してくださいね!」
「あ、はい」
「お兄さんによろしくですっ!」
「あ、はいっ」
すっごい感謝されてるじゃん、お兄ちゃん。
だけど知り合いにバスケ好きとかいないのよね……
そういや昨日お兄ちゃんにも言われたっけ、バスケ部に入りそうな人いないかって。
何とか試合が出来る人数集めようと頑張ってるとお兄ちゃんも言ってた。だけどそれを聞いた沙耶っちが。
「新聞部の先輩に聞いたんだけど、女子バスケ部に人が入らないのって、理由があるみたい。今のバスケ部のふたりってすっごくなかがいいらしくって、しかも相当上手いから第三者は入りにくいんだって。それにひとりふたり入ったって試合ができる人数に満たないし、どうしてもみんな二の足を踏むとかで」
あれだけ頑張ってるのを見ると少し可哀想だけど……
その日の放課後、女子バスケ部が気になったわたしは、部室に行く前に体育館へと足を向けた。体育館では他の部が練習を始める前を使って、ふたりだけでパスの練習をする女子バスケ部の姿。やっぱり部員は増えてない。やがて真新しいユニフォームを身につけた女子卓球部が現れる。ま、以前よりマシだけど、所詮は卓球ウェアだよね。それに続いて卓球部の男子も現れる。お兄ちゃんはまだみたいだけど、今日も一輪先輩カッコいい…… って、見に来てるのバレたらなんだか恥ずかしいな……
わたしはそのまま体育館を後にする。
文芸部のあるプレハブ部室棟への近道を通る。ここ、基本は通路じゃないんだけど、この隙間を抜けると早いって最近知ったんだよね…… って、あれ?
体育館と校舎の間、角に立つ大きな緑の木の下に互いに向かい合った男女の姿。俯き加減にこっちを向いているのは神湯先輩、そしてその手前、後ろを向いているのは…… お兄ちゃん?
咄嗟に校舎の陰に身を隠す。
何を話しているんだろう…… って、聞こえる!
「ごめんなさい、さようならも言わないで……」
「きっと事情があったんだよね。それにもう5年も前のこと」
「…………」
5年前って、お兄ちゃん小学生じゃん!
「あの栞、まだ使ってくれてたんだ」
「ああ、アタシ、物は大切にするから」
「ははっ、偉いんだ」
「そんな翔くんだって大切に使ってくれてるんでしょ?」
「あ、うん」
……
何このいい雰囲気!
「だけど、あのマフラーも短くなっちゃったでしょ? 早く新しいのに取り替えないとカッコ悪いわよ」
「別にいいんだ」
「モテないわよ」
「別にいいんだ」
「永久に童貞で魔法使いになっちゃうかもよ」
「ははっ、構わないさ」
「………… どうしてっ!」
「…………」
どうなってるの?
覗いてみたい!
けど、ここから顔を出すと、きっと見つかっちゃうわ。
沈黙が長い……
「……どうして、優しい言葉を掛けてくれたの」
「ごめん。でも、ちゃんと言葉にしないまま、この気持ちのまま時間が過ぎるのは嫌になったんだ」
「…………」
「ごめん。にじょうさ…… いや、神湯さんが北ヶ丘の男子全員に明言した話は知ってる。だから僕の発言はきっと迷惑なんだと思う。でも、やっぱり、言葉にしておきたかった……」
「ううん、ありがとう」
「じゃあ!」
「でも、ごめんなさい。アタシは高校卒業したら……」
「やっぱり、そうなんだ……」
がさっ
「あっ!」
しまった。
深い落ち葉を踏んだみたい。
「…………」
まずいわ!
突然会話が止まったその場から、わたしは走って逃げた。




