第2章 第3話
ふたりについて辿り着いたのは本館2階の生徒会室だった。
部屋の前には掲示板にはさっきの落研のどうてい何たらさんが言っていた貼り紙があった。
校外での恥ずべき行為について
最近、特定の部が校外の電柱にしがみつき、恥ずかしい活動行為をおこなっているとの通報がありました。生徒会はこのような行為をしないよう厳重に申し入れました。
また今後、北ヶ丘高校の名誉を貶める恥ずべき行為に対し生徒会は毅然とした対処を取ることを通達します。
以上
「電柱で鳴くことより、あの高座名の方がよほど恥ずかしいと思うんだけどな」
そう呟いた理子先輩は久里須先輩と二言三言言葉を交わすと生徒会室のドアをノックして勢いよく開けた。
「何? あらこれは神湯さん」
デスクみっつに会議テーブルひとつのこじんまりした空間。ひとり中に居たのは肩下で切りそろえた銀髪に冷たい印象の切れ長の目を持つ女生徒。
「ご無沙汰ですね、世能先輩、いえ世能会長。今度は落研いじめですか?」
世能会長、ってことは、この人が生徒会長なんだ。
「これは言いがかりね、神湯さん。私はこの伝統ある北ヶ丘高校のことを思えばこそ正しい方向へとみんなを導いているだけですよ」
「貼り紙には通報があった、と書いてありますけど、その通報者って誰ですか?」
「そんなこと本人のためにも言えるわけないでしょ?」
「へえ~っ! まさか自分で自分に通報した、とかじゃないですよね」
その瞬間、平然としていた世能会長の表情が一瞬歪んだ。
「……何を証拠に」
「いや、そんな無粋なやからは会長以外にはいないと思いましてね。また点数稼ぎじゃないのかなって。一流大学への推薦もらうための活動実績が欲しいとか」
「どうしてそれを、じゃないっ! 何を証拠にっ!」
慌てふためくその顔が何よりの証拠だった。
ってか、口滑ってるし。
しかし生徒会長はすぐに落ち着き払って鼻で笑う。
「ふんっ。私のしていることは正しいことよ。校外で蝉の鳴き真似なんて学校の恥。あれが子供達の模範になる行動と言えますか?」
「無粋でつまらない理屈ですね」
「理屈ではなく道理よ。道理が通る以上、先生方もわたしの味方よ」
「アタシたちは高校生、色んな経験をすべきですよ? どうして生徒会が生徒の首を絞めるんですか?」
「神湯さん、あなた去年の騒動を覚えてるわよね」
「だからあれ以降、落研女子はズボン着用ってなったでしょ!」
「いいえ、落研はふざけたヤツらばかりだから、いつ何時ヘンなことをするとも限らないわ」
結局。
話は平行線のまま、最後は追い出されるように生徒会室を後にした。
「あいつはホント、物事の表面しか見ない女だな」
「だけど~ 目的はどうであれ~ 理論武装はしてますからねえ ね、王子ちゃん?」
「そうですけど落研の人、可哀想ですよ。あっ、ところでさっきの……」
生徒会室から部室へ戻る途中、わたしは「去年の騒動」について聞いてみた。
「ああ、去年の騒動な。あれは傑作だった!」
理子先輩の話では、去年落研の新入生女子がセーラー服姿のまま電柱によじ登って蝉したらしい。可愛く「みーんみんみんっ(はあと)」って。当然彼女の周りには下校途中の生徒達が集まりヤンヤヤンヤの大喝采。しかし、そのことを「恥ずかしすぎる行為」として生徒会へ通報したヤツがいた。当時の生徒会長は落研の部長や顧問とも協議して今後セミする女子はスカート禁止と言うルールができたって話だ。
「しかもその通報者は世能先輩だって噂なのよ。女生徒のスカートの下はブルマだったのにね。まあ当時の生徒会長さんが何とか穏便まとめたのよね」
「そんなことがあったんですか……」
昨日電柱で鳴いていた新入生の蝉もニコニコとして嫌がっている様子は全くなかった。目立ちたいとかウケたいヤツらばかりか、落研って。
ならば目立ちポイントを失った彼らのダメージの大きさは想像に難くない。
「ねえ理子先輩、久里須先輩、何とかなりませんか?」
「何とかって言ってもねえ……」
部室に戻る頃には木の回りには誰もいなかった。
そして、もう蝉の声も聞こえなくなっていた。




