やっと少し冷静に
後は、七海の存在か。
「ちょっと、昔の彼女を生き返らせることになったから、しばらくの間、留守にする。」
その言葉に嘘偽りなんてないのだが、こんなことが彼女にすんなりと受け入れられると思うほど、俺も馬鹿じゃない。かといって、これほど非現実的なことを彼女に納得させるだけの説明は、出来そうもない。
どうしたものか。
嘘をつくのも必要か。
出来れば七海には、誠実でありたい。
嘘をつかない=誠実だとは言わないが、嘘をつく人間が不誠実であることは多い。
それに、男女間の嘘は、バレた際にまず浮気が脳裏を掠める。たとえそんな事実はなくても、人の心など、その人でなければ分からない。もし、それがどれほど七海にとっては些細な嘘でも、七海が俺に嘘をついたとして、その嘘が明るみに出れば、俺は裏切られたと思うだろう。ならば、その逆もあって当然だ。
俺は七海を好きだし、七海も俺を好いていてくれる。そんな感情が未来永劫続く保証はないが、続かない保証もないのだし、その現状に何の不満もないのだから、続ける努力はするべきだ。
仕事はまあ、問題ない。手に余るようなら、最悪、浩哉に丸投げすれば良い。
七海を説得する自信はない。
しかし、彼女に嘘はつきたくない。
そして、出来れば、波留が生き返るものなら、生き返らせてやりたい。
何の解決策も見出せないが、把握できる現状としては、こんなところだろう。
うん。現状が袋小路だということが判明した。
現状を打開するためには、もう一度波留ときちんと話すことが必須だな。前回は、俺が寝ている間に夢に出てきた。今回もそうだと仮定して、まったく眠くはないが、まだ残っている睡眠薬を飲んでみるか。
そうして、俺は、もう一度薬を飲んで、眠りに就いた。
駄目だった。
波留の姿はおろか、夢さえ見ることなく目が覚めた。
時計を見れば、一時間半しか経過していない。
どうやら、さっきまで熟睡し、風邪の症状も緩和した身体では、いかに薬の助けを借りても熟睡し続けることは難しいらしい。
どうしたものか。
波留の肉体があるとして、その場所は地元である可能性が極めて高い。そんな今の状態では地元に帰るわけにもいかない。
ここ数日の体調不良と寝不足で、仕事が少し滞っている。
もうじき七海の仕事も終わるだろう。
『昨日はプリンと、ポカリありがとう。
一晩ぐっすり眠ったらかなり回復したよ。
だから心配はいらないよ。
ただ、ちょっと顔見たい。
仕事終わったら、今日も来られるかな?』
もっと早く七海には連絡するべきだったが、事の大きさにかなり混乱していたらしい。
とりあえず、俺はメールを打った後、仕事を始める。
ピロリロリン。
『良くなった?良かったぁ~□
もちろん行くよ□
もうちょっとだから、待っててね□』
仕事中はあまりメールを返して来ない彼女からすぐに絵文字付きで返信が来た。
それだけ心配してくれていたのだろう。弱った俺を看病してくれたのも彼女だ。やはり彼女とは、この先もともに歩みたい。
彼女が来るまでの間、溜まってしまった仕事をこなす。
彼女を蔑ろにしてまで波留を生き返らせる意義は…?
ないんだよな。うん。