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地元

 結局、仕事は手に付かず、眠れぬ夜を悶々とし、明け方にうつらうつらして朝を迎えた。

 

 トーストとハムエッグで朝食を済ませ、一泊分の着替えを旅行鞄に詰めた。

 兄の法事以外では足の遠のいていた地元。まさかこんな形で帰ることになるとは思わなかった。

 

 七海の準備もあるので、一旦彼女の部屋により、自分の着替えと同じ鞄に荷造りをした。俺の一泊分の着替えだけではバックはスカスカだったし、荷物もなるべく少なく済まそうという魂胆からそうしたのだが、なぜか鞄はパンパンになった。

 

 慌ただしく準備を終え、新幹線から地元の電車に乗り継ぎ、何とか午前中には地元に着くことが出来た。

 俺は未だに悩んでいた。

 

 実家に顔を見せるべきか、見せざるべきか。

 

 七海を伴って地元に来るのはこれが初めてのことであり、結婚も視野に入れて付き合ってきたのだから、両親に紹介するのは吝かではない。しかし、波留の事もあり、母親の状態の事もある。傷が癒えるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

 

「実家、寄ってく?」

俺だけでは答えが出そうもないので、七海に聞いてみる。

「うーん。」

腕を組んで、考え込んでしまった。


 そりゃ、そうだよね。

 そんなん聞かれても困るだけだ。

 

 答えが出ないまま時が流れるに任せるのももったいない。

 

 俺は七海を昔よく通ったラーメン屋に案内した。

 昼時より少し早い時間だったからか、店に客はなく、カウンターで親父が新聞を広げていた。入って来た俺らをちらりと見やり、無言で新聞を畳みよっこらせと立ち上がる。恰幅の良い頑固親父。昔のイメージそのままの店主に俺は少し、ホッとする。

「懐かしい」

七海から零れた一言に違和感を覚えつつも、俺たちはカウンターに座り、俺はチャーシューメンを、七海は野菜ラーメンをそれぞれ注文した。

 

 波留もここでは、良く野菜ラーメンを食べてたっけ。

 

 俺はチャーシューメンを啜りながら、ぼんやりと思った。

 相変わらず、美味かった。

 

 昔ながらの、鳥ガラをベースにしたあっさりとした醤油スープ。良く煮込まれた肉厚のチャーシュー。すっきりとした麺。どれをとっても当時の思い出そのままで、七海の中に波留がいることを知っているからだろうか、まるでタイムスリップしたかのような不思議な感覚だった。

 お互いが無言のうちに食べ終わり、店を出た。

 

「やっぱり先に、ハルさんの所へ行こう。お家の事はそれからでも遅くないでしょ?」

店を出た途端に、七海に言われ、それもそうかと思った。


 一時間に一本しか出ないバスに乗り、俺たちは波留の身体がいるという病院へ向かう。

 

「この街で浩哉は育ったんだね。そして、ハルさんと出会った。」

バスに揺られながら七海が言った。

「うん。」

俺はどう答えたらいいのか分からず、それだけ言った。



 地方では有数の工業都市。これといった特徴もなく、これといった特産もない。平成の大合併の際に、近隣の市や町を飲み込み政令指定都市となった。圧倒的な車社会で、各家庭に一台どころか、二台や三台所有する家も珍しくない。そのため公共の交通機関では採算が合わず、交通網があまり発達しない悪循環。郊外に点在する巨大なショッピングモールに客を取られ、街中の活気は失われる一方だ。それが俺たちが育った街。俺にはあまり愛着のない街。

 

 車が無ければ不便で仕方のない街。俺の印象はそんなもんだ。

 

 そこここに思い出はあるのだが、感慨はほとんどない。

 

 だから、上手く言葉にすることもできない。

 

 七海にとっては、珍しいだろうが、波留にとっては慣れ親しんだ街の光景が彼女にどう映っているのか、そんなことが気になった。

 

 その後の彼女は流れる景色をじっと眺め、俺はこれからどうなる事やらと不安に感じている内に病院へ着いた。

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