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0 迷宮の鍵

小さなご挨拶


AYAです。お越し頂きありがとうございました。

ここは。本日、公開予定をしておりました『都市迷宮』シリーズの最初の物語となる「京都 リ・バース」の予備的なサイトです。


深くお詫び申し上げます。

全く不完全なため、本スタートではありません。

予告とも違う、短い一片ではありますが。

長くお待ち頂いた皆様への、感謝と、お礼と、お詫びに変えまして。

このような不備な形で本当に申し訳ありません。

本スタートは。もう少し先になることも、あわせて告知致します。

ご理解のほど、伏してお願い申し上げます。

では。

 私は、どこにでも行けるの。

 ポスト・カードが一枚あれば。世界中のどんな街にも、どんな都市にも。

 印刷された風景写真を眺めて、目を閉じる。

 手の中のカードの風景を、頭の中に出来る限りはっきりと思い浮かべると。

 その景色が、現実になろうと、私に近付いてくるの。ぎゅううっと、距離が圧縮されていくような感覚。すぐ側で止まると、ぱん、と扉が開くわ。

 私はただ、扉の向こうを眺めるだけ。初めて見る建物であったり、初めて見る街角だったり、初めて見る遺跡だったり。

 目に見える限りすべての情景は、写真と同じ場面で、生き生きと動いているのに。

 私は扉の向こうには踏み出せない、踏み出してはいけないことを感じていたわ。

 このことは他の誰にも秘密。

 何時から出来るようになったのかも、もう覚えていないくらい小さな頃から、そんなことが出来ていた気がするの。

 ポスト・カードはいつも、お父様が出張先から送ってきてくれた。

 書き出しはいつも『ディア マイ・ユキムラ』。

 カードの風景写真を眺めて、お父様が居るだろう都市を想像したわ。

 そうしているうちに、カードの風景が、心の目で見えるようになった気がする。

 引き寄せることが出来るようになった気がするの。

 お父様に逢いたかったから……。お父様の居る外国の街の気配を、感じたかったから。

 帰国なさると時間が許す限り、私にカードの風景の国の話しを聞かせてくれた。扉越しに私も見たわ、と言ったら。少し驚いて。

「……いけない、事?」不安になった私に。

「いや。すこしも悪いことじゃない。ただ、他の人には出来ないことだから、聞いたらびっくりするね」

 更に不安になった私に。

「雪村舞。君は私の大切な大切な娘だ。何も心配は要らない」

いつもそう言ってくれるの。すごく安心できる言葉。お父様の娘だから、何も怖いことなんてない。

 この事は、お父様と二人だけの秘密に、って約束したわ。

「……お父様……」

 今は、どこに居るの?

 ……逢いたい……。

 私なら、どこにでも行けるわ……。今度こそ、近付いてきた風景の中に踏み出せる気がするの。

 来て。私の所に。世界中のどこにでも繋がる扉。お父様に逢いたいの。探さなきゃ……。

 私になら出来るわ。雪村修造の娘だもの。

 目を閉じて、顔立ちを思い浮かべる。うまく出来ない。なぜ? お父様の顔、頭の中に描けない? 

 逢えなくなって、まだ二ヶ月も経っていないのに?

「……お父様……。…………お母様、助けて……」

 その時。

 はっきりと聞こえた。

 堅くて重い冷え冷えとした鍵穴が擦れる音。断ち切るように、掛け金が重く落ちる金属的な音。

「……何……?」

 圧縮され、数限りなく私に近付いていた都市、街への入り口が閉ざされたことを教える音だと、すぐに気付いた。

 最初の施錠に呼応するように、同じ音が広がってゆく。同時に、扉が遠のいてゆく。

「……待って……、どうして……?」

 簡単なことだったのに……。何が起きているのかわからない。

 扉はすぐ側にあるのに……。

 何かが、鍵を……下したの?

 私がいけないの? もうお父様はこの世には居ないのに。世界中を探そうとしたから?

 私が、扉の向こうに踏み込もうと考えていたから?

 息が詰まりそう……。扉の回りには高い壁が出来ているわ。囲まれているの? 

 怖い……。誰か居るの? 鍵をかけたのは、誰?

 出して……! ここから。……怖いわ。

 だって私には分かる……。

 ここはもう、私が知っていた世界じゃない。

高い壁と、入り組んだ通路が続いているわ。通路の先には沢山の行き止まり。扉に行き当たる通路もあるけれど。鍵のかかった扉。

 開いて! どの扉でもいいから。鍵を開けて……!

「!」

 ……わからない……。…………どうしてなの?

 開けられない…………。

 私、もう何も出来ないの……?

 この扉があったから、世界中と繋がっているようで、ちっとも寂しくなかったわ。

 世界中を飛びまわるお父様に何時でも逢える気がして。世界の国々が、私にはとても優しい場所に思えたの。だから私も大好きだった。

 私は、……一人、なの?

 もう手は、届かないの?

 ……私は、何…………?

『……鍵…………』

 ! ……誰……?

『……お前…………』

 うまく意味が感じ取れない。言葉じゃないから。心に直接流れ込んでくる、言葉のイメージが。

 扉を開ける鍵、と、私? の事?

「何のこと? あなたは誰? あなたが鍵を掛けたの?」

 必死に、誰かの心の声の方向を探るけど。

「ここを開けて下さい! ……お願い……。私を一人にしないで……!」

『…………迷宮…………』

 ……ええそう。ここは迷路。とてもとても大きな、迷路の宮殿みたい……。

 お兄さん……。紫月兄さん、助けて……。

 私の、たった一人になってしまった家族。お父様が亡くなってからは、少し様子が違うの。手の届かないところに行ってしまったみたい。仕方がないの。お父様の事業を継ぐのは兄様だけだもの。兄様の邪魔をしちゃいけないもの。私が心配をかけられない。

 でも、お兄様の気持ちも、もうわからない……。

「!」

 辺りを囲う壁が、赤黒く閃きはじめて、まるで何かの胎動を始めたみたい。規則正しくゆっくりと。血液が脈打っている?

『……迷宮の……鍵…………は……』

「何? 何なんですか?」

 突然、呼吸が苦しくなる。誰かの言葉が、肺を押し潰しそうな圧迫感を増していて。

 明確な声へと変化する。低い男性の声。

『お前だ』


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