異世界人と思い出作り
今回もよろしくお願いします
『ジルヴェスター』
あぁ、まともに俺の名前を呼べたのかと声の方を振り向く。
『どうした?お前も何かあるのか?』
今までにないその真剣な眼差しに苦笑する。お前にその顔は似合わねぇな。それがわかったのかルイも苦笑する。
『たいしたことではない。ただ、もし、向こうに私を覚えている者がいたら、こう伝えてもらえぬか?“あの時はすまなかった。私はここで楽しくやっている”とな』
『それだけか?』
しばらく待ってもそれ以上でない要求に驚く。大体ルイの言った言葉を伝えられる人物が向こうにいるのか、そこから問題だ。
『いるのか?向こうにお前を覚えているやつが』
『おらぬじゃろうの。けど、もしかしたらと思う私もおる』
おったら良いのぉと呑気に扇子を仰いでるルイに首を傾げる。
『まるで誰かのためのメッセージに聞こえるが?』
『何を言う。あの時がどの時かもわからぬし、色んな者に一度はすまないことをした自信はある。該当者は多いじゃろうて』
どんだけ、迷惑なやつだったんだろうなお前。いや、箱庭といい時空間転移魔法といい既に俺にとっては迷惑か。
『わかった。覚えているやつがいたら伝えておく』
探しても見つからないかもしれない相手はフィニの願いよりも難しいかもしれないな。
『あぁ、そうそうジル坊……』
「ジル?ちょっと!聞いてる!?」
「ん?」
ふと意識を戻してみると、目の前にはふくれっ面。とりあえず、頬を抓ってみると瞬時に叩かれた。
「何するか!」
「いや、面白い顔があったからな」
さらにキーっと怒るミコトに苦笑しながら悪かったと謝っておく。
「で?どこから案内してくれるんだ?」
頭を撫でながら聞くと、ミコトは拗ねた顔をしながらも目的地であろう場所を示す。
「まずはいっぱい遊ぼう」
一瞬にして満面の笑みで言ってくるミコトに頷く。早くと袖を引っ張るミコトに連れられ足を進める。本当、昔の俺なら女に引っ張られてどこかに連れていかれるなんて想像できなかったな。
「金魚すくい?」
ここだと連れてこられたのは大量の小さな魚が泳いでる店の前。金魚というのはこの目の前の赤や黒やまだらの小魚だろう。
「これで、金魚をすくうのよ!」
ジャン!と見せられたそれは、今にも破れそうな代物だ。やってみろとばかりに渡されるそれにどうするのかとミコトを見る。見てなさいよとばかりにそれを金魚の下に持っていき思い切りすくった。
「まぁ、そうなるだろうな」
「うるさいわね!取れる予定だったの!」
綺麗なフォームとは裏腹に水から出てきたのは破れた紙だけだった。自信満々にやるもんだから上手いのかと思ったんだがな。
「ジルだって取れなかったじゃない!」
「俺に繊細さを求めるな」
「あぁ」
「納得するな」
それは、それで腹が立つ。ミコトは取れなかったことが相当悔しかったのか、もっとこうと手首をひねっている。その捻る動作がまず間違いだと思うんだがな。
「あれ何だ?」
武器みたいなものが台に置かれ、その先にはぬいぐるみだのゲーム機だのが並べられている店に目が行く。
「あぁ、射的?あそこにあるおもちゃの空気銃で景品を倒すの。そしたら景品がもらえるんだけど、景品が重たくて当たっても中々倒れないのよ」
私はまず当たらないんだけどねと笑うミコトに何か想像がついてしまったのは黙っておこう。
「やってみて良いか?」
「ん?いいよ」
興味を惹かれて、店の前に行くと屋台の前には五本の銃が並べられていた。ミコトからやり方を聞くと目の間の景品を眺める。
「何か欲しい物があるか?」
「じゃあね。あれ」
そう指定された物に銃口を向ける。ちょっとばかり本気になってみるかと思ったのが間違いだったのは後の祭りだった。
「もう、勘弁してくれ」
涙目のオヤジに頭を下げられてしまった。一発目から景品を撃ち落とし、意外と簡単だと思ったのがいけなかった。
「この二つだけで後はいい」
両手にあった物から二つだけもらい後は返す。どっちみち歩くのに邪魔になるしな。
「ジルって凄かったのね」
おぉ!とこっちを見てくるミコトの手に欲しがっていたうさぎのぬいぐるみ二体を渡す。
「あんなの簡単だろう」
ちょっと本気になったとは秘密だ。ありがとうと景品を受け取るミコトのキラキラした表情に悪い気はしないがな。
「あっ、あれ食べよう」
しばらく歩いているとミコトが駆け出す。転げても知らねぇぞと思いながらその屋台の方に向かう。白くフワフワしたそれに見覚えがあった。
「雪華か?」
「何それ?」
一瞬、向こうと同じ物があるのかと、驚いたが、どうやら違うらしい。
「雪華はこれより少し小さい冷たくて甘い味がする実だ」
ミコトに白いフワフワした物体を渡される。本当に酷似してるが、これは冷たくないな。
「実なんだね。食べてみたい!」
どんなのだろう?と楽しそうに雪華、いや綿菓子を食べているミコトにいつか食べさせてやろうと思う。
「あっ、後向こうの方も」
楽しそうに指を指し示すミコトに苦笑する。
「おーい!そろそろ、花火が打ち上がるってよー!」
その誰ともない声と共に隣でビクッとミコトが震える。あぁ、とうとう来たか。
(本当のタイムリミットが)




