カウントダウン22時間前 ~異世界人の葛藤~
まだ、続きます!もう少しだけ続きます!
ゴソゴソする気配に目が覚める。あぁ、まだ寝ていなかったのかと小さくため息をつく。そっと、部屋から出て行ったミコトを確認し体を起こす。
「あれは失言だったか」
いや、ミコトと一緒に戻ろうという考え自体がダメだったな。だが、抑えきれなかったのも確かだ。正直今でもミコトのことを手放したくねぇ。
「ラインティアが平和だったら良かったんだがな」
こんな平和な世界に住んでるミコトには今のあの世界は厳しいだろう。ましてや、魔法が使えないとかなり不便な世界だ。それなりの環境を整えないと迎えてやることもできない。
「遅いな」
水でも飲みに行ったのかとも思ったが、それにしては時間がかかりすぎだ。まさか、倒れてるってことないだろうな?
「行ってみるか」
そっと寝室の部屋を出て、リビングに行く。てっきりここにいるもんだろうと思ったが、どうやら違ったらしい。なら、どこだ?と辺りを見渡す。
「あそこか」
カーテンがなびき気がつかなったが、ベランダに座り込んでいるミコトを見つけた。月明かりに照らされて空に手を伸ばし、今にも消えそうなその儚げな光景に息を呑む。
「どこに行く気だ?」
慌てて掴んだその腕の感触ははっきりしていて少しホッとする。近づいて初めてミコトが泣いてることに気が付く。
「出て行って、中々帰ってこないから倒れてるのかと思っただろうが」
「ごめん。すぐ戻るから」
泣いてることを気づかれたくないのかとすぐに理解する。まったく、バレバレなんだよ。取り敢えず、タオルでも冷やしてくるかとキッチンに行く。ついでに何か作るかと冷蔵庫を見る。丁度いいものがあるな。鍋に火をかけ少し離れたミコトを見る。
「泣くな」
それが、自分のせいだとしても、ミコトの涙は見たくない。氷水で冷やしたタオルと、ホットミルクを持ってミコトの方に静かに近寄る。
「覚悟を決めないと」
一人でいったい何の覚悟を決めようとしてやがる。一人で抱え込むな。
「何の覚悟だ?」
「えっ??って、冷たい!」
こっちを振り向いたミコトの目元に冷たいタオルを置いてやる。お前が見られたくないなら隠してやるよ。ホラと空いた右手にマグカップを渡す。一口飲んだことを確認して、背中合わせに座る。ミコトの背中は泣いてたせいか熱い。
「で?泣きながら、何の覚悟を決めるんだ?」
体重を少しかけて聞いてみるとミコトは中々答えようとしない。ミコトの覚悟。それは、こっちに残るか、俺の世界に来るかそのどちらかの覚悟だろう。
「前に」
「えっ??」
「前に俺の世界は今戦争中って言ったの覚えてるか?」
あの時は、ミコトをあの世界に連れて行く気は正直なかった。
「正直、今の戦争は一瞬の油断もできないくらい酷い。だが、そんなの関係なくお前をつれていきたくなった」
そう、あの時とは違う。
「お前がいやだって言っても掻っ攫って連れて行きたいとまで思った」
今は手放したくないくらい、こいつのことが好きだ。
だんだん震えてくるミコトを安心させるようにミコトを包む。
「今も正直そう思ってる」
震えて今にも落ちそうなマグカップを取り上げ、その手を握りしめる。
「だが、あの環境にお前はやっぱり連れていけねぇ。ただ、お前をくるしめるだけだ」
「そんなの気にしないのに」
まるで、攫ってくれとも取れるその言葉に一瞬心が揺れる。ダメだ、揺れるな。こいつは今はここに置いていく。
「俺が気にするだろ」
だから、心を揺らしてくれるなと、握る力を強くする。
「前に異空間転移魔法を完成させたら迎えに行くって言ったが、あの言葉は撤回する」
「えっ!?」
そう、異空間転移魔法何か待っていられるわけがない。
「私のこと嫌いになったの?」
「何でそうなった?」
今までの流れからどうしてそんな方向に行ってしまうんだろうな。あぁ、迎えに来てくれないっていう意味にとったか。
「あぁ、なるほどな。違ぇよ。異空間転移魔法の完成なんて待てねぇからな。無理やりにでも戦争を終わらせて迎えに来る。時空間転移魔法を使ってでもな」
「そういうことって、いやいやいや時空間転移魔法はダメだからね!?」
ダメと言われても、お前に会える方法が見つからなかったら俺は迷わず使うだろう。それが、確実な方法なのは確かだ。
「最終手段っていう意味でだ」
そう、最終手段だ。きっとそれまでこいつは不安を覚えながら待つんだろう。何となくそう思った。
「ミコト」
「ん?」
「手、開いて、目瞑ってみろ」
だから、少しでも安心できるように。もし、俺が時空間転移魔法を使えなかった時の保険も含めてこれを託そう。
「えっ、これ!」
「この世界では恋人にはそうするもんなんだろ?」
確かはめる指は左の薬指だとルイが言っていたはずだ。
「魔力の強い魔石、クロノスクリスタルを加工したものだ。時空間転移魔法を作り出した魔石でもある」
「なら、これジルがもってた方が!」
ルイから託され、魔法で加工した時からこれはミコトに渡すと決めていた。
「それが戦争の火種になるのは目に見えてる。この世界でお前がもってる方が安心だろ」
それに。
「証という意味としてもつけてろ」
俺がこの世界にいた証。そして、ミコトを好きでいる証。その意味もこめて。ミコトの表情が明らかに変わったことを確認してもう一度聞く。
「で?何の覚悟を決めようとしてんだ?」
「んー、おばあちゃんになるまでジルを待つ覚悟かなぁー」
おばあちゃんって。そんなに待たせる気なんてない。だが、こいつはそんなに待っていてくれるのかと思うと嬉しくなる。
「大丈夫そうだな。なら寝るぞ」
「何、笑ってるのよ?」
「いや、おばあちゃんになるまで俺を待ってくれるんだなぁってな」
こんなことを言うと照れて突っかかってくるんだろう。そう思っていた。
「なっ!……、おばあちゃんになる前に迎えに来てよね」
拗ねた顔で、切実にいうミコトに俺は驚いた。あぁ、もちろんだろう。
「すぐに迎えに来る。だから、待ってろ」
「うん」
(だから、今はゆっくり眠れ)




