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やってきたのは異世界人  作者: 如月 玲
45/50

カウントダウン22時間前 ~美琴の覚悟~

またもや遅くなりました!がんばります!

(どうしよ……、眠れない)


 鼓動がいつもより早い。隣で寝てるジルに聞こえるんじゃないかってくらい音が煩い。


『冗談だ』


 差し出された手を握ろうかと迷った瞬間、その手は私の頭を撫でた。


『えっ?』


『悪い。質の悪い冗談だったな。ラインティアに戻るのは俺だけだ』


 だから、そんな困った顔するなと苦笑する。この話は終わりだというように、その後はまるで何もなかったかのようにされてしまった。


 けど、気づいたよ。あの言葉が冗談じゃないって。だって、ラインティアに戻るのは俺だけって言葉おかしいもんね。私が本当に行けないなら戻れるのは俺だけって言うはずだし。


(明日にはジルが元の世界に帰っちゃう。私はどうしたら良いの?)


 正直、ジルと離れたくない。それは本心だ。けど。向こうへ行ったらこっちに戻れる保証もない。そう思うと、色んな人の顔が頭をよぎる。まだ、こっちの世界を捨てる勇気なんてない。


 隣で寝ているジルを起こさないようにベッドから抜け出す。冷蔵庫からお茶を取り出し、パソコンのある部屋に入る。姐さんに相談をと思い、パソコンのスイッチを押そうと手をかける。


「あっ」


 ぶつかったそれが音を立てて机から落ちる。拾い上げたそれは、写真立て。中には幼い私と、あのどうしようもない父親が写ってる。さすがに、この父親を残しは行けないよなぁ。


 天秤の計りがどちらも重すぎる。こんな状態で姐さんに聞いても私が納得する答えは聞けない気がする。


 風にでもあたろう。重い足を進ませながら、ベランダの扉を開けると、なま暖かい風が入り込む。


 本当の始まりの場所はここだ。私が、あの指輪を投げ捨てたから始まった。あの時はびっくりしたよねぇ。だって、大きな音がしたと思ったらかっこいいお兄さんが血まみれで倒れてるし。その後、刃物を突きつけられるし。


「あの時まさかこんな悩みを抱えるとは思ってもなかったな」


 どうしてこんなに遠いんだろう。どうしてこんなに胸が締め付けられるの?


 リミットは明日。そう、明日なんだ。嫌でも来てしまう明日が来なければいいのにと祈ってしまう。


「ゃだよ………」


 口に出して溢れ出す感情に耐え切れなくて涙が溢れる。立っていられなくて座り込む。本当は泣き叫びたい。どうしようもないこの感情を叫んでしまいたい。けど、それをしたらジルが起きてしまう。落ち着こうと深呼吸をしようとするも出るのは嗚咽ばかり。


 あぁ、あの満月に近い月が憎いと思ったのは生まれて初めてだ。あの月がもう少し欠けてたら、もう少しジルと一緒にいられるのに。


「あと、少しだけ………」


 それだけでいい。せめて私の心の整理がつくその時まで。


「どこに行く気だ?」


 月の半分を手で隠そうと手を伸ばした時、後ろから腕を掴まれた。急に掴まれた腕と声の主にビクッと体が震える。


「出て行って、中々帰ってこないから倒れてるのかと思っただろうが」


「ごめん。すぐ戻るから」


 だから戻ってと促すと、ため息をつきながらも戻ってくれた。これで泣き顔を見られなくてすんだとホッと一息つく。


 とりあえず、この赤い目をどうにかしなきゃ戻れないなぁと手で目を仰いでみる。何度見てもあの月は欠けることなくどんどん満月に近づいている。


「覚悟を決めないと」


「何の覚悟だ?」


「えっ??って、冷たい!」


 戻ったんじゃ!?と驚いて振り向いた瞬間、目元に冷たい何かが降ってきた。慌ててそれを見るとそれは冷やされたタオルだった。ジルを見るとホラと今度はカップを渡してくる。


「甘い」


 カップに注がれたそれは蜂蜜入りのホットミルクだった。安心するその味にホッと一息ついてるとジルが背中合わせに座ってきた。


「で?泣きながら、何の覚悟を決めるんだ?」


 そんな確信をついた質問は困る。今悩んでることはきっとジルを困らせるものだ。


「前に」


「えっ??」


「前に、俺の世界は今戦争中って言ったの覚えてるか?」


 その言葉に記憶を思い起こす。そう言えば、私が告白をした時にそんなことを聞いた気がする。連れて行きたいけど、無責任なことは言えないから連れては行けないと。


「正直、今の戦争は一瞬の油断もできないくらい酷い。だが、そんなの関係なくお前を連れて行きたくなった」


 その言葉にドキッとする。


「お前が嫌だって言っても掻っ攫って連れて行きたいとまで思った」

 背中に当たる温もりが消えたと思った瞬間、後ろから抱きつかれる。


「今も正直そう思ってる」


 左手に持っていたマグカップを取られ、代わりにジルに手を握られる。


「だが、あの環境にお前はやっぱり連れていけねぇ。ただ、お前を苦しめるだけだ」


「そんなの気にしないのに」


「俺が気にするだろ」


 握られる力が強くなる。あぁ、きっとジルの心は固まってるんだ。何故かそう思った。


「前に異空間転移魔法を完成させたら迎えに行くって言ったが、あの言葉は撤回する」


「えっ!?」


 迎えに来てくれない?そういうこと?何で?どうして!?慌てて後ろを向くとジルも驚いたようにこっちを見る。


「私のこと嫌いになったの?」


「何でそうなった?」


 いや、だって迎えに来てくれないってそういうことなんじゃ。


「あぁ、なるほどな。違ぇよ。異空間転移魔法の完成なんて待てねぇからな。無理矢理にでも戦争を終わらせて迎えに来る。時空間転移魔法を使ってでもな」


「そういうことって、いやいやいや時空間転移魔法はダメだからね!?」


 それでこっちに来れるかもだけど、帰れなくなるじゃない。絶対ダメとジルに言うが、ジルは不敵に笑う。


「最終手段っていう意味でだ」


 本当だろうか、その顔をしている時のジルのいうことはあてにならない。


「ミコト」


「ん?」


「手、開いて、目瞑ってみろ」


 急になんだろう?えっと、手を開いて、目を閉じる?言われたとおりにやると後ろでゴソゴソ音がする。手を触れたと思った瞬間、もう目を開けていいぞと言われて大人しく目を開けると左手にさっきまでなかったものがあることに気づいた。


「えっ、これ!」


「この世界では恋人にはそうするもんなんだろ?」


 左の薬指にはめられたのはまるで夕日が閉じ込められたようなオレンジの石がはめ込まれている指輪。


「魔力の強い魔石、クロノスクリスタルを加工したものだ。時空間転移魔法を作り出した魔石でもある」


「なら、これジルが持ってた方が!」


 向こうに帰って役に立つはずだ。けど、私の言葉を否定するようにジルは首を振る。


「それが戦争の火種になるのは目に見えてる。この世界でお前が持ってる方が安心だろ」


 優しく笑うジルはそれにと言葉を続ける。


「証という意味としてもつけてろ」


 証という意味がわかった瞬間に顔が火照る。あぁ、なんだろう。さっきまでまるで絶望のような気分だったのに、今は凄く幸せなんだ。そんな単純な自分に笑が溢れるのがわかる。


「で?何の覚悟を決めようとしてんだ?」


「んー、おばあちゃんになるまでジルを待つ覚悟かなぁー」


 そう、それくらいの覚悟じゃなきゃこの異世界人とはきっと付き合えない。冷めたホットミルクをグッと飲み干し月を見る。うん、覚悟は出来た。明日はもう大丈夫な気がする。


「大丈夫そうだな。なら寝るぞ」


「何、笑ってるのよ?」


 さっきとは打って変わっていたずらっ子のような無邪気な笑にどうした?とビックリする。


「いや、おばあちゃんになるまで俺を待ってくれるんだなぁってな」


「なっ!………、おばあちゃんになる前に迎えに来てよね」


 早く迎えに来てという願いを込めて口にする。ジルは私の返答に以外だったのか驚いた顔をすると今度は真剣な顔になる。


「すぐに迎えに来る。だから、待ってろ」


「うん」


(待とう。その時が来るまでいつまでも。この指輪とともに)


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