カウントダウン5日前~異世界人の困難~
平和ボケをしていたと言ったら嘘になる。向こうの戦いばかりの毎日と違ってこっちはとてつもなく平和だ。だから、油断をしていた。
戦いに身を置いていた向こうなら、こんな見え見えのトラップになんて引っかからなかっただろう。あぁ、認めてやる。これは俺の落ち度だ。
「みっともねー」
こんな、トラップに引っかかったと知れた日には周りに馬鹿にされるのが目に見える。しかも、魔法が使えなくて、抜け出せないと悲惨な状態だ。
隣を見ると、ハラハラと心配げに辺りを見渡しているミコトがいる。どうしたものかと、ミコトの頭を撫でてみると半泣きの状態で見上げてきた。
「あー、本当、情けねー」
安心させてやることもできないのかと本当に情けなくなる。しがみついてくるミコトにどうにかしねーと、と考えを巡らせる。
この結界は人が通ることで反応するタイプの物だ。俺を狙ったものだと考えると犯人は絞られてくる。ここの従業員か、俺達の前を通ったあの二人のどちらか。
シホを除外したいが、ルイという前例があるから、除外できない。ミコトには悪いが、シホも犯人候補に挙げていいだろう。
後は、何故俺達をこの空間に閉じ込めたかが問題になってくる。結界を解かない限り出られない俺達が行き着くところは最終的には死だ。しかし、何か引っかかる。
「ミコト、ルイに連絡を取れないか?」
「姐さん?ちょっと待って」
首を傾げながらも、ごそごそと鞄を漁りながらスマホを探すミコトを確認するともう一度、魔宝玉を見る。無理やり壊す方法もあるが、ルイに知恵を借りた方がいいだろう。
「あー!!」
「どうした?」
「圏外だって…」
スマホをこっちに向けて見せてくるミコトに、そう言えば電波がないと繋がらないと言う説明を今更ながらに思い出す。便利そうで、不便な物だ。
「でも、何で姐さんに用事があったの?」
「変な知恵を持ってそうだからな」
「あー、なるほど」
不思議そうに聞いてくるミコトに適当な返事でごまかす。しかし、それで納得するミコトもどうかと思うがな。ルイに繋がらないとすれば無理やり壊すかだ。
「だが、問題はトラップが何かって話だ」
それこそ様々なトラップがある。本当は解析して慎重に解くべきなんだろうが、あいにく魔法が使えない今、何もできないのが現実だ。だとすれば、やることは一つだろ?
「ねぇ、ジル。何考えてるの??」
眼尻を引き攣らせながら嫌な予感しかしないと呟くミコトに笑みを浮かべる。まぁ、言いたくなるのも無理はないだろ。自分でも悪い顔をしている自信はある。
「ミコトちょっと俺から離れてろ」
「いやいやいや。何するか教えてよ」
教えてくれないと離れないと言うように一歩、俺に近づいてくる、ミコトに苦笑する。
「教えたら、止めるだろ?」
「止められるようなことはしないの!」
淡々と告げた俺を即答で叱ってくる。心配してもらえてるのは自惚れではないことくらい俺ににもわかる。だが、打開策がない今引き下がれないのも確かだ。
「ミコト、下がってろ」
先ほどより低い声で伝える。少し冷たい言い回しになってしまったが、仕方ない。ミコトを巻き込むよりはましだろう。
真剣な顔で、ミコトが離れるまで見つめていると、しばらくしてわかったと数歩俺から離れて行った。しかし、俺からしたら離れたとは言えない距離だ。
「ミコト」
もう少し離れてろと言う意味を込めて名前を呼ぶと、あろうことかミコトは耳を塞ぎその場に座り込んだ。
「お前な…」
そこから絶対に動かないという意思表示に頭を抱える。きっと、力ずくでもない限りそこから動かないだろう。
どこの子供だと、小さく溜息を付く。だが、さっきの距離よりもまだましかと思うことにして宝玉に向き直る。最悪の事態があれば命がけで守ればいい。
四隅のうち左下で光っている魔宝玉の上に足をかける。全体重をかければそれは形を失うと同時にトラップが発動するだろう。ツーッと嫌な汗が俺の頬をなでる。
ふぅっと息を吐き、心を落ち着かせ、自分の右足を踏み込んだ。
「ジル―!!!」
そして、俺が最後にみた光景は、光に包まれた自分と、驚いた瞳でこっちを見ながら俺の名前を呼ぶ、ミコトの姿だった。
(まぁ、あいつが無事なら良いか)
よろしければ引き続きお付き合いお願いします




