カウントダウン7日前
よろしくお願いします。
ジルが目覚めて来ないことに気づいたのは、昼を過ぎたあたりから。疲れているのかと思い、午前中は起こさなかったのだけど、どうもおかしいことに気づく。
「ジル?」
寝室に行き声をかけてみても返ってくるのは規則正しい寝息だけ。試しに脈を測ってみるが、別段変わった感じはない。
「お昼ごはん食べないの?」
体を揺らしてみるも、何の反応も返ってこない。そのあたりから不安が込み上げてくる。怒られるのを承知で手の甲を抓って見るもピクリとも動かない体に嫌な予感しか浮かばない。
「血圧計あったっけ?」
確かどこかに納めたはずだと慌てて棚を漁る。出てきたそれを掴みマンシェットを腕に巻く。スタートボタンを押し起動し始める血圧計を見ながら、落ち着けと自分に言い聞かせる。観察点は知っている。落ち着かなければ何も始まらない。
「正常値?じゃあ、何で?体温も低くないし。本当に寝てるだけ?」
画面に出てきた値に首を傾げる。頭にしろ、心臓にしろ何か異常が出てもおかしくないはずだ。
「まさか、向こうに帰る前兆?」
そう思った瞬間、体の力が抜ける。そうだ、帰り方何てわからない。もしかしたらこのまま消えてしまうことだって考えられる。そう思うと、体が震え始める。
「ゃだ。起きて?」
こんな看取るような帰り方は嫌だ。服を掴み体を揺らす。お願いだから、まだ帰らないで!せめてあと少しだけ、一緒にいさせて。
「ねぇ!ジル!起きて!目、開けてよ!」
また、ギュって抱きしめて。私はその温もりで安心するから。せめて、大好きだよって最後に言わせて。
「ジル……ねぇってば!……ジル!起きて!ねぇ!」
「ど…した?」
ゆっくり開くその瞳に、その口から紡がれる低音ボイスに心の底から安堵する。まだ、大丈夫だった。その後、抱きしめられたその温もりに涙が零れる。けど、不意打ちの額のキスは予想外で柄にもなく照れてしまった私とガキ扱いするジルが喧嘩するまでそう時間はかからなかった。だけど、そのやり取りにどこか安心してしまう私がいるのも確かだったんだ。
「ねぇねぇ、今度花火大会行かない?」
遅めの昼ごはんを無事終わらせた私は、ジャンと回覧板で回ってきたチラシを見せる。仕事をしていた時は忙しくて行けなかったが今は余裕がある。
「花火って何だ?」
うん、どうやら、疑問はそこからだったらしい。私はこれとチラシに映る花火を指さすとほぉと興味深々に見てきた。
「夜の空に花が咲くの!屋台も出るし、行かない?」
「別にいいが、いつあるんだ?」
そう言えばいつだっただろうか。そこまで見てなかった気がする。えっと、とチラシを見ると、下の方に日にちが書かれていた。
「えっと、七日後かな。浴衣新調しちゃおうかなって、ジル?」
「いや、何でもない」
一瞬表情をこわばらせたように見えたのは気のせいだったのだろうか?まぁ、いいかと食後のコーヒーをジルに渡す。
「ジルも浴衣着ようね?きっとカッコいいこと間違いなしだから」
「お前、俺を着せ替え人形か何かと間違えてないか?」
そんなこと思ってるに決まってるじゃない。何を着させてもカッコいいんだから、間違いないに決まってる。
「そうと決まれば今から買い物行かない?」
前は急げ。祭りの前になると良い柄はなくなってしまうからせっかく買うなら早めが良いに決まってる。
「あー。まぁ、いいか」
「何?何かあるの?」
歯切れの悪い返事に首を傾げると、何でもないとジルは首を振る。変なジルと言いながら胸につかえる何かを飲み込んだ。けど、それが原因で、あんな思いをする何て思っても見なかったんだ。
(うわっ、やっぱり似合う!次これで!)
(勘弁してくれ)
読んでいただきありがとうございました。次話もぜひぜひよろしくお願いします。




