異世界人の動揺
少し短いですが、おつきあいお願いします。
“ドガッ!!”
「くそっ!」
追いつけなかった。あっという間の出来事に一瞬足が遅れた。手を放してはいけない場面だったのにだ。車で走りさる所を見たから、行先は不明だ。だから、ますます苛立たしい。
「どうしたらいい?」
この世界で使える俺の地理情報何てたかが知れている。無意識に魔法を組み立てようとしている自分に気づき手を止める。
「落ち着け。冷静になれ」
いつもの冷静さをどこにやった?考えろ。俺にでもできる何かがあるはずだ。
「あの部屋」
数日前の事を思い出した俺は一つの部屋へと飛び込む。目指すはパソコン。ミコトがしていてた動作を思い出し操作する。そして羅列されている名前から一つの名前を見つける。どうやら、まだ運は残っていたらしい。即座に続きを準備すると、目の前の画面が変わる。
『これは珍しいね。どうしたんだい?』
「急いでる。手短に話すから答えが欲しい」
『……いや、それは必要ないさね』
キセルを吸い込みながら苦笑しているルイに眉根を寄せる。必要がないという意味がわからない。
『どうせ、その様子じゃあ、ミコトがいなくなったんだろう。仕方ない子だねぇ。ちょっと待ちな。榊いるだろ?車出しておくれよ』
『先生!困ります!外に出たいなら原稿出してからにしてください!後三時間しかないんですよ!』
『そんな物、一週間前に終わってるよ。いいから車出しな。急ぎだよ』
『そんなぁ!なら私は何を待ってたんですか!?』
『全く煩い子だねぇ。坊や、美琴に会いたかったら十五分後にマンションの下で待ちな。いいね』
言いたいこと言って切りやがった。それにしても、頭が回るのか、勘がいいのか凄いやつだ。戦場にいたらもっとも頼りになるだろう。
「って、こんなこと考えてる場合じゃねーな」
あと十分。財布とスマホを持って外に出る。そして、思い出すあいつの取り乱し方。鍵となるのはあの話だろう。
「まさか、ここまでとはな」
美琴には悪いが俺からしたら大した話じゃない。正直それより最悪な話は向こうではざらにあったから。けれど、ミコトにとっては最悪な出来事だったんだろう。次に会った時、どうするべきか。そんなことを黙々と考えていると、遠くの方から爆音を立てて何かがやってきた。
“キキーィ!!!”
「うわっ!?」
凄い勢いで車が突っ込んできたかと思った次の瞬間、俺の横に一回転して止まった。って、俺を殺す気か?目元を引き攣らせながらその車を見ていると中からルイが出てきた。
「すまんな。どうやら急ぎすぎだらしい。それより、乗りな。話はそこからだの」
「いや、殺す気だっただろ」
横にある車までの距離約1㎝。少し青ざめているとグダグダ言ってんじゃないよと車に連れ込まれてしまった。車に乗り込むと運転席には黒縁眼鏡でかなり挙動不審の女。おいおい、こいつに運転させてて大丈夫なのか?と思っているとグンッと体が座席に押し付けれ車が進み始めた。
「おいおい。大丈夫なのか?」
「安心しろ。事故ったことはギリギリないからの」
ギリギリはまずいだろ。運転手はすいません、すいませんと言いながらハンドルを切っている。謝るくらいなら今すぐ車を停めてほしい。
「さて、美琴がいなくなった原因だが」
急に真剣な顔になったルイの顔を見ながら俺は頷いた。きっとあの話をルイは知っているだろう。だから、全てを話そうと口を開く。
「そうか。やはりな」
アズサから聞いた全ての情報をルイに話すと難しい顔をして頷いていた。しかし、その表情はすぐに何か悪戯を思いついたような表情へと変化する。
「あの女狐がやりそうなことだねぇ。だけど、爪が甘いのも変わりないねぇ」
「どういうことだ?」
クツクツと小さく笑うルイはズルズルと座席に凭れかかりんながら俺の方を流し目で見てくる。
「いいかい坊や。その話には少しの嘘と、私しか知らない続きがあるんだよ」
「なんだと?」
「本当に、面白くなってきたじゃないかい」
(どっちが女狐だ)
次話くらいから暗い話から脱出しますので、お付き合いお願いします。