異世界人の隠し事
最近サブタイトルに困ってます(笑)
今回は短いですがおつきあいお願いします。
暖かい。ジルが優しく包んでくれる体は、まるで失っていた体温を取り戻すかのようにポカポカ暖かくなる。そして同時に安心する。いつの間に、ジルという存在は私の中に入り込んでしまったのだろうか。ナイフを突きつけられたあの頃がまるで昔のように懐かしい。
まるで壊れ物を扱うみたいに丁寧に私の顔に伝う涙を拭うジルの手は優しくて、その手の優しさに逆に涙がこぼれ落ちる。
泣くなと言う困り気味の声色に、出るんだから仕方ないでしょと言うと、まるで子供をあやすような動作で今度は頭を撫でられる。
(気持ちい……)
頭を撫でられると子供じみたそれがとても気持ち良くて気づけば涙は止まっていた。お前は子供かというジルの発言に答えられずに俯くと、上で笑っているのがわかった。その笑顔が見たくて顔を上げようとすると逆にギュッと抱きしめられてしまう。その温もりが暖かくて素直に甘えるとまたしても笑われてしまった。
(甘い匂い……)
涙も止まり、少しずつ落ち着きを取り戻した頃、ジルから少し体を離そうとした瞬間。ジルからフワリと甘い匂いがした。そして、その匂いにドキッとする。それは、私が嫌いなあの人の匂い。それを頭で理解した瞬間、温まっていた体温が途端に熱を失う。そして、思い出すあの言葉。
“あの人私に頂戴?”
「ゃ…だ…」
「どうした?」
突然狼狽えだした私を変に思ったのか、ジルは訝しげな顔をする。けれど、私はその表情を気にしている場合じゃない。
「…何で?何で、ジルから梓の匂いがするの?」
せっかく止まっていた涙が頬を伝う。嘘だと言って。いつも通り、お前馬鹿だろ?って、呆れた顔して?
そう、切に願うけれど、ジルが見せたのは苦虫を潰したような表情で。そう言えば、どこかに出かけていたことを思い出す。もしかしたらそこで会ったのかもしれない。会っただけ、それだけならまだ救われる。けれど、匂いが移っている段階でそれは違うだろうとどこかで冷静な私が告げてくる。だから、ますます嫌な予感しかしない。
「悪い」
その言葉に今度こそジルから離れて立ち上がる。嫌だ、その先の言葉を聞きたくないと全身が拒否反応を示しだす。
“彼を取ったらあなたまた独りになるかしらぁ?”
頭に流れるその言葉はまるで呪いのようで、目の前が真っ暗になりそうになる。会っただけ。それだけとまるで唱えるように願う。けれどジルから零れ落ちたのは聞きたくなったその言葉。
「悪い、全部聞いた」
「っつ!?」
気づけば放り出していた鞄を手に我も忘れて走り出す。今ジルの顔を見ることができない。もしかしたら、あの頃の皆のような目で見られるかもしれない。もしかしたら、ジルの口から罵声が出るかもしれない。そう思うと、怖かった。
「ミコト!?待て!!」
後ろから聞こえるその声を振り切るようにエレベーターに乗り込む。足の速いジルに追いつかれないように一階ボタンを連打する。いつもは遅いその扉も今日はスムーズに閉まっていく。
「どうしよう……」
聞かれたくなかったあの話。梓のことだ、ろくな伝え方をしていないに決まっている。そう、あの頃のように。
いったいジルはどう思っただろうか。信頼を獲得するのは大変だけど、失うのは一瞬。自分が思った言葉にゾクッと体が震える。あの優しさを失ってしまうことは今の私にとって耐えられないことだ。
止まりそうになる体を無理やり奮い立たせ、車へ乗りこむ。アクセルを踏み込み車を走らせる。どこで歯車が狂ったのだろうか。梓に会った数日前?それとも、事が起こった三年前?それとも…。
取り留めもないことを思いながらフラフラある場所の前まで来てそこへ座りこむ。
「愛華……」
(ねぇ、私はどうしたら良いの?)
ありがとうございました。甘い空気になったと思えば何か起こるこの二人。次は美琴の過去編にいこうと思います。お付き合いお願いします。