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人生は「自分なり」を身につけていく旅である。

作者: ムクダム
掲載日:2026/10/07

 またも悪質なキャッチコピーに騙されてしまった。ギターを弾けるようになろうと、夜な夜な参考書を読みながら練習したが、一通りのレッスンを終えても依然として成果は出ていない。

 誰でもできる、楽譜が読めなくても大丈夫という文句に吸い寄せられて手に取った参考書だったが、きっと大事な一文が抜け落ちていたのだろう(「ただし、音感の優れた人間に限る」とか、「ただし、毎日10時間以上練習すれば」とか、あるいは「もしもあなたが高名な音楽家なら」とか言った一文である)。

 人生で何度目かわからない挫折に心が重くなる一方で、練習のために購入したギター代で懐具合は軽くなってしまった。逆であったらどれだけ良かったか。

 

 思えば、音楽とは相性の悪い人生だった。吹奏楽の授業では楽譜の読み方が分からず楽器が嫌いになり、合唱の授業では恥ずかしさから人前で大きな声を出すことができず、音楽の成績はいつも惨憺たるものだった。

 高校に入り音楽の授業は選択制になったが、今度は友人たちと行くカラオケで恥をかくことになった。選曲のチョイスがマニアックすぎて場を白けさせてしまい、その後、疎遠になったクラスメイトも何人かいる。

 大学〜社会人になってからは、合コンの二次会でカラオケに行くことが多かったが、カラオケにおける男女の機微が分からず、これまた場の空気を冷やしてしまった。

 音楽が私の人生の落とした影の大きさは計り知れない。音楽とうまく付き合うことができていたら、今よりも華やかな人生を謳歌していたに違いない。そう考えて、焦ってギターに飛びついたのは当然の帰結である。


 溺れるものは藁にも縋ると言うが、現代人の頭上にはなんと多くの藁がぶら下がってることか。書店には各種ハウツー本が溢れ、ネットには自己啓発系のブログや動画が飛び交っている。もはやこの世に不可能はないと錯覚しそうになる。

 だが、それらが示すのはその当人がどうやって上手くいったかということであり、同じ方法で他人が成功することはほとんどない。

 もちろん、何事も手習いから始めるのは間違いではないが、他人の真似をしながら、段々と自分なりのやり方を身につけていくことが肝要であり、どこかに正解が落ちていると勘違いをしてはいけない。落ちているのは他人の方法論であり、それをそのまま使って自分にフィットするということはないのである。

 色々と試しては失敗し、何が悪かったのか考え、軌道修正を行う。その繰り返しにより自分なりの方法論が身についていくのである。

 正直言って、労力はかかるし、すぐにリターンがあるものでもないから、他人の方法論に乗っかりたいという気持ちには大いに共感するところである。

 しかし、自分を真の意味で理解することができるのは他ならぬ自分自身である。

 例えば、体調管理で最も大切なのは、どんな場合に体調が悪くなるか、どうすれば体調を崩さずに過ごすことができるかを自分で理解することである。他人から、これを食べれば大丈夫とかこの薬が効くと言われても、どうしても相性というものがあり、相性の判断ができるのは自分だけだ。

 さらに言えば、どんな場合に幸せになるかということを知ることができれば、その人の人生はより充実したものとなるはずだ。そのためにも時間をかけて「自分なり」を探究し、少しづつでも良いからそれらを身につけていくことこそ、真の意味で自分の人生を生きるということになるのではないだろうか。

 そこで安易な近道を探そうとすると、却って行き先を見失い、人生という旅路を彷徨うことになりかねない。迷子を楽しむ気持ちも大事だが、自分なりの道標、指針を持つように心がける必要がある。


 以上のことを考えながら、再びギターの練習に戻ったが、いまだに活路は見いだせない。誰か、私のために簡単にギターが上達する道を作ってくれないものだろうか。終わり

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