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王都で婚約破棄された私、元婚約者に溺愛されて復讐する件

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/05/07


王都の薄明かりに、リリーナ・ヴェルデは独り立っていた。

冷たい石畳が、彼女の足元に影を落とす。婚約破棄の知らせが、まるで昨日のことのように胸に疼く。


「不貞の証拠は揃った。これで婚約破棄も致し方なし――セレナス様」


家令が告げたその言葉を、リリーナは氷の瞳で受け止めた。

不倫など、彼女の胸は知らぬ恋に満ちていたというのに。


彼女の婚約者、セレナス・アルドリア。王都でも名を馳せる俊英であり、冷徹なまでの才覚を持つ青年。

彼の微笑みが、一度も彼女に向けられたことなどなかったかのように、リリーナの世界は崩れ去った。


だが、リリーナはその夜、誓った。

「――必ず、真実を暴き、貴様に痛みを与えてみせる」


次の日、王都の貴族たちは噂に沸いていた。

「リリーナ嬢、婚約破棄だと? セレナス殿の不貞のせいだとか」

噂は、彼女の耳に、皮肉にも甘美に響いた。


王都を出て辺境の地へ向かう船の甲板で、リリーナは淡い決意を胸に抱く。

「ここからが、私の復讐の始まり」


辺境の地に到着したリリーナは、密かに自身の能力を磨き始める。

魔力の操り手として名を馳せる家系に生まれながら、王都では無力だった。しかし今、誰にも阻まれぬ力を身につける。


その頃、セレナスは城内で冷ややかに笑っていた。

「リリーナがあそこまで怒り狂うとは、思いもしなかった……」

だが、彼の胸の奥に、思いのほか大きな空洞があったことを、誰も知らない。


数か月後、リリーナは王都へ戻る。

その背には、魔力を帯びた黒衣、冷たい瞳、そして復讐を宿した決意。

彼女は、かつて婚約者に笑われた大広間に姿を現した。


「セレナス・アルドリア、覚えておきなさい。あなたにされたいくつもの裏切り、すべて返してもらう」

声は低く、確実に彼の心臓を打つ。


その瞬間、王都の貴族たちはざわめき、セレナスは微笑んだ。

「ふむ……やはり、君は美しい復讐者だ」


だがリリーナの目には、微塵の揺らぎもない。

敵役、シルヴィア・マーレンも現れた。

「リリーナ、あなたが戻るとは思わなかったわ」

シルヴィアの唇には嘲るような笑みが浮かぶ。王都でも評判の策士であり、セレナスの側近として彼女を陥れた張本人だ。


戦いは言葉から始まった。

策略、嘘、甘言――しかしリリーナはすべてを読み切る。

「あなたの不正を暴く。そして、セレナス様に私の真実を知ってもらう」


数日の対峙の末、ついにシルヴィアの手から証拠を奪ったリリーナ。

セレナスの目の前で、彼女は真実を提示する。

「不貞の濡れ衣は、彼女の策によるものでした」


セレナスは瞳を細め、やがて口元に笑みを浮かべた。

「なるほど……君は、私の想像以上に手強い」


そして、意外な言葉が続く。

「私の前で、もう二度と涙を流すな」

その瞬間、リリーナは気づく。

復讐だけではなく、彼もまた、自らの愛に気づき始めていたのだ。


数日後、王都の庭園で、二人は静かに向き合った。

「もう、私に嘘はつかない?」

「……つかない」

セレナスの手が、リリーナの小さな手を包む。冷たいようで、確かな温もりが伝わる。


そして、リリーナは微笑んだ。

「それなら、私はあなたにすべてを託す」


敵役シルヴィアも、悔しげにその姿を遠くから見つめる。

復讐は完了し、愛は再び育まれた。


王都の空に、初夏の光が差し込む。

リリーナ・ヴェルデは、かつての婚約破棄の痛みを胸に、しかし今は確かな幸福と力を得た令嬢として立っていた。


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