表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭間   作者: Yuan Muan
6/21

未熟さゆえの虚勢

トレントが車のエンジンをかけると、後部座席の男の子たちが待ってましたとばかりに歓声を上げた。エミリーがやれやれと視線を天井に向けると、隣のローレンが彼女に満面の笑みで両手の親指を立てて見せた。


「それで、みんなはどこに行きたいんだ?」ヘイデンは誰に言うでもなく、車内に問いかけた。


「映画館」エミリーは考えるよりも先に口にしていた。会話の時間など生まれないように、そして、間違っても高級レストランなどには絶対に向かわないように、先手を打ったのだ。


「どんな映画が観たいんだい?」ヘイデンは興味をそそられた様子で尋ねた。


エミリーは頭の中で、甘ったるい感傷に浸ることのない、それでいてロマンチックな映画はないかと必死に記憶を探った。


いくつかの候補を吟味した末、彼女はついに口を開いた。「『ポゼッション』」


「うわ、ありえない!女が邪悪な悪魔に取り憑かれるような映画なんて、絶対に観るもんか!」トレントは全身で拒絶するように叫んだ。


その剣幕に、ローレンとエミリーは思わず笑ってしまった。もしトレントがエミリーの正体を知ったら、一体どんな反応をするだろうか。もし『闇の天使』という種族の存在が人類に知れ渡る時が来るなら、トレントにはこの自分の口から伝えたいと、エミリーは密かに思っていた。


「『愛、最後の砦』はどう?」ローレンが助け舟を出した。世界は拒絶ばかりじゃないわ、とでも言うように。しかし、エミリーが口を開く前に、男二人から同時に嘔吐くような声が上がった。


「俺からの提案は、『ニンジャ・モンキー4』だ」とトレントが言った。


「そんなくだらない映画を観なきゃいけないなら、今すぐ誰か私を撃ち殺して」エミリーは痛烈な皮肉を込めて言い放った。今夜を無事に乗り切りさえすれば、観る映画などどうでもいいというのが本音ではあったが、彼らの口論は映画館に到着するまで延々と続いた。


ローレンとエミリーが車から降りた一秒後、男たちも続いて降りてくる。その時、エミリーは彼らの服装に気がついた。ヘイデンは、臀部のラインをことさらに強調するわけではないごく普通のブルージーンズに、いつものオールドネイビーのグレイのスウェットシャツを合わせていた。彼女が密かに気に入っている、彼の定番スタイルだ。一方のトレントは、洒落たブラウンのジャケットの下にぱりっとした白いTシャツ、そしてブラウンのドレスパンツという出で立ちだった。もしこれがヘイデンと自分をくっつけるための策略なのだとしたら、なぜトレントがこれほど気合を入れてお洒落をする必要があるのだろうか、とエミリーは疑問に思った。


彼女はその考えを振り払い、皆と共に映画館の中へ入った。するとヘイデンが、壁に掲げられた上映中の映画のポスターを指差した。


「『ホラームービー』っていうのはどうかな?暴力、ロマンス、アクション、それに恐ろしいモンスターも出てくる。おまけに、これ、風刺映画なんだってさ!」ヘイデンは妥協案を探るように言った。ホラーという言葉にエミリーは眉をひそめたが、どうせロマンスはお粗末なものだろうし、モンスターの造形もせいぜい素人レベル、バイオレンスシーンも陳腐なスタントや決め台詞で台無しにされているに違いない。だが、『ポゼッション』を除けば、自分が心の底から軽蔑せずに済みそうな映画はこれしかないことも認めざるを得なかった。


満場一致で決定が下されると、彼らは飲み物とスナック、そしてチケットを購入した。映画の上映中、男の子たちが囁く冷やかしの言葉は、不思議なことに、映画そのものよりもずっと面白く、そしてタチの悪いものだった。映画館を出る頃には、四人全員が同じタイミングで笑い声を上げていた。


「あのシーン覚えてるか?主人公が『うわぁぁぁ!』って叫んで、ド派手に転んだところ!」トレントが、顔から地面に突っ込んだ登場人物の情けない声を真似ると、皆、映画の安っぽいシーンを思い出してさらに笑いがこみ上げた。暗い記憶に汚されることなく、これほど心の底から笑った経験が今までにあっただろうかと、エミリーは思い出せないでいた。その時、ローレンが突然、自分のドレスにソーダをこぼしてしまった。


「うわっ!」ローレンが悪態をつく。滅多に汚い言葉を使わない彼女に、エミリーは少し驚いた。


「ごめん、みんな。ちょっとシアターに戻らなきゃ」ローレンが申し訳なさそうに言った。


トレントが付き添うと申し出た。


ヘイデンと二人きりにされたくなかったエミリーは、全員で戻ろうと提案した。


「ううん、あなたとヘイデンは公園に行ってて!」ローレンは切迫した口調で言った。「私たち、すぐに追いつくから!」


「何度言ったら分かるんだ!みんな、彼のことはH.O.W.って呼んでるんだぞ!」トレントが叫んだ。


「でも、私は『みんな』じゃないもの!」ローレンは言い返す。その不毛な口論に、エミリーは思わず笑みを漏らした。


二人がその場を離れると、エミリーはヘイデンに向き直った。「これも、私とあなたを二人きりにさせるための策略なんでしょ?」


「ローレンは、うっかり飲み物をこぼしたんだと俺は思うけどな」ヘイデンは言葉を濁した。


エミリーは心の中で呆れながら、「どうだか」と素っ気なく返した。


「まあまあ。今夜は楽しかったってこと、否定はできないだろ?」彼はからかうように言った。


「そうね、認めざるを得ないわ。あなたの生意気さよりも、幼稚さの方がまだマシだってことは分かった」エミリーはくすくすと笑いながら言った。


「ありがとう。それは褒め言葉と受け取っていいのかな?」


「生意気な男は大嫌いだし、幼稚な悪ガキを弄ぶのは楽しいからね」エミリーは嘲るように言った。


「ひどいな。毎回、俺を侮辱しないと気が済まないのか?」彼がそう言ってからかうと、彼女はまた笑った。その後、二人は公園に着くまで無言で歩き続け、ベンチに腰を下ろした。憂鬱で、それでいてどこか心地よい静寂の中、遠くでコオロギの鳴く声が聞こえる。エミリーの天使としての鋭敏な聴覚は、茂みの中でウッドチャックがごそごそと動き回る音さえも捉えていた。


「こんなに笑ったのは…生まれて初めてかもしれない」エミリーは思わず呟いていた。


「本当に?どうして?」彼は心配そうに尋ねた。彼女は沈黙した。それが、彼が得られる唯一の答えだと悟らせるように。


「エミリー、そんなに俺を拒絶しないでくれ」彼が囁いた声はあまりに小さく、彼女に聞かせるつもりがあったのかさえ定かではなかった。


「あら?」彼女は皮肉たっぷりに問い返した。「たった一晩、私と一緒に過ごしたくらいで、私があなたに心を開くとでも思ったの?信じられない。私をそんなに安っぽい女だと思ってたなんて」


そう言い捨てて歩き出すと、ヘイデンが彼女の名前を呼びながら追いついてきた。


「ごめん、そういう意味じゃなかったんだ」彼は慌てて弁解した。「ただ、君がなぜ自分の命を絶とうとしたのか、その理由が知りたいだけなんだ」彼の顔には、偽りのない同情の色が浮かんでいた。


「残念だけど、あなたには失望してもらうしかないわね。ローレンにさえ話していないことを、あなたに話すわけがないでしょ」彼女は冷たく言い放った。


「せめて、理由だけでも教えてくれないか」彼は絶望的な声で懇願した。


「嫌よ」彼女の返事は、完全で絶対的な拒絶だった。「でも、一つだけ秘密を教えてあげる。あなたたちが来た時点で、もう飛び降りるつもりはなかったわ」


「本当かい?」彼はその知らせに、はっとしたように顔を上げた。


「ええ、本当よ」彼女は冷ややかな声で続けた。「あなたたちが来たから、やめたの。あなたの哀れな人生に、これ以上の機能不全をもたらさないであげようと思ってね」真実をあまりにも自動的に口にしてしまった自分を、彼女は一瞬呪った。


「哀れ?」彼は傷ついたように聞き返した。


「そうよ」彼女は吐き捨てるように言った。「人生なんて、哀れなものよ」


「どうして、そんな風に思うようになったんだ?」彼は尋ねた。


しばらくの沈黙の後、彼女はついに口を開いた。「ねえ、あなたの質問攻めには、もううんざりなんだけど」


「分かった。今夜はもう何も聞かない。だから、どうか俺にチャンスをくれないか」彼は懇願した。


「いいわ」彼女はぶっきらぼうに答えた。「言っておくけど、私は良い友人にはなれないわ。それでもいいなら、友達でいましょ」


「それは、君が俺に見えているものを見ていないからだよ」彼は真剣な声で言った。彼女が「それって、どういうこと?」と困惑した表情で尋ねる。


彼が口を開き、答えようとしたその瞬間、トレントのジープが道路脇に停まり、クラクションが鳴り響いた。二人はかなりの距離を走って車に駆け寄り、後部座席に乗り込んだ。


「ドレスのシミ、ちゃんと取れた?」最近、あまり良い友人ではなかったという自覚があったエミリーは、心からの気遣いを見せようとローレンに尋ねた。


「うん」ローレンはにっこりと笑い、簡潔に答えた。トレントとの間に一体何があれば、彼女はこれほど幸せそうな顔をするのだろう、とエミリーは不思議に思った。車は彼らを拾った角まで戻り、縁石に降ろして走り去っていった。


「またね」とヘイデンが言った。


「…バイバイ」エミリーはためらいがちに返事をした。彼女は車を降り、ローレンがすぐ後ろに続いているものと思っていた。だが、ふと振り返った彼女は、信じられない光景に目を奪われた。ローレンとトレントが、キスをしていたのだ。呆然と二人を見つめるエミリーの中で、彼らの関係性に対する見方が根底から覆された。二人のやり取りを、ただの仲の良い友人同士の、少し大げさなじゃれ合いだと思い込んでいた自分が馬鹿みたいだった。


ローレンはすぐに恋人との別れを済ませ、晴れやかな笑顔でエミリーのもとへ歩み寄ってきた。


「最高の夜だったわね!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ