婚約破棄ですって!?ありがとうございます!では、私は女騎士を目指させていただきますわ!
「アメリア・ハルデンベルク、今日をもってお前との婚約を破棄する!理由はここに書いてある通り、エレオノーラ嬢に対する陰湿で悪質な行為を繰り返したことによる!そして、本日より、このエレオノーラ嬢は私の婚約者となる。つまり、アメリア、お前は未来の王妃に歯向かったことになる」
せっかくの卒業パーティー。パートナーとの入場ができなかった私、アメリア・ハルデンベルクは、せめて静かに美味しいお料理を嗜みたかったのに……。あっという間に注目の的。
私は宰相の一人娘として生を受け、物心ついた時にはすでに王妃としての教育を受けていた。私より少し先に生まれたこの国の王子、エーミール・ランメルツとの婚約は私が生まれた時点でほぼ確定しており、私はそういうものだとその運命を受け入れてきた。
幼い頃はやんちゃな王子に連れられて楽しく過ごしていたように思う。かわいかった頃もあったのになぁ。
目の前には、険しい顔をした王子とその腕に自分の腕を絡め、目を潤ませている女、エレオノーラ嬢がいる。エレオノーラは半年前に学園に転入してきて、周囲の婚約者持ちの男性を誘惑しては、婚約を破棄させて自分のものにしていた。そして、その番が王子に回ってきたのだ。
ただただ呆れるしかない。愛情ってこんなにも一気に冷めるものなのね。いや、もうとっくに冷めていたのかも。
階段から突き落とされただの、ハサミを振り翳して襲っただの、面と向かって酷いことを言われただの、王子が突き出してきた紙には「陰湿で悪質な行為」が記載されていたが、もちろん、どれも身に覚えがない。
「私、これらのことをやったことはございませんわ。そもそも私、エレオノーラ嬢とお話ししたこと、一度しかございませんもの」
「その時に酷いことを言ったのではないか?」
バカな王子だ。エレオノーラが私を貶めようとして適当な罪状を作り上げたのなんかすぐにわかるのに。こんな女に騙されるだなんて、この国は将来どうなってしまうのかしら。
「その時は私、『婚約者持ちの男性にむやみやたらに話しかけるのはマナー違反です』と声をかけたのでしてよ。これのどこが酷いのか、教えて欲しいくらいですわ」
「言い方が悪かったのだろう」
「まあ!」
徐々に自分が劣勢であることに気づき始めたのだろうか、王子はなんとか私を悪者にしたいようだ。
「エーミール様!私はアメリア嬢にいじめられていたのです。一度しかお話ししたことがないだなんて嘘ですわ。何度も私はやめてと申し上げましたのに……」
エレオノーラはさらに目を潤ませて、今にも泣き出しそうな顔で王子に擦り寄る。見ていて吐き気がするほどの甘えっぷりだ。
「皆もこのエレオノーラの様子を見れば、アメリアがいかに悪質な行為を重ねてきたか、一目瞭然であろう!」
王子は皆の同意を得ようとするが、会場はザワザワしているだけで誰も賛同しようとはしない。
「またエレオノーラ嬢が問題を起こしているわ」
「ついに王子にも手を出したのね」
そんな声すら聞こえてくる。それなのに、王子は一向に気づく気配がない。なんて愚かな人間なのだろう……。
奥の壇上には国王夫妻がいらっしゃる。そして、その隣には宰相である私の父もいる。そちらの様子を窺うと、国王が呆れたように右手を目の上に当てていらした。王妃もため息をついていらっしゃるようだ。父は怒りで目が見開かれている。
「きっと、私が何を言っても、わかっていただけないのでしょうね。婚約破棄以外に何か罰はございませんの?」
「ふてぶてしいな!いっそ国外追放でもしてやろうか!」
その瞬間、威厳のある声が会場に響き渡る。
「そこまでにせよ、エーミール。証拠のない罪に罰は要らぬ。婚約破棄で十分であろう」
「ですが、父上!アメリアは未来の王妃であるエレオノーラに——」
「そなたとエレオノーラ嬢の婚約、この場にいる誰が認めたと言うのか」
エーミールの顔から血の気が引いていく。ざまあみろですわ。いや、言い過ぎか。
「エーミール様。婚約破棄について、承知いたしました。ありがとうございました」
ゆっくりと礼をする。王子にくっついているエレオノーラが勝ち誇った笑みを浮かべたのが見えた。
私はゆっくりと歩みを進め、国王夫妻の前に最上級の礼をする。
「陛下、このアメリア・ハルデンベルク、この度の一件に関しまして、一つお聞きしたいことがございます」
「言うてみよ」
「私、アメリア・ハルデンベルクは本日より王妃候補から外れましたので、王立騎士団に所属を移させていただきたく存じます。よろしいでしょうか」
会場のざわめきが大きくなる。
「よろしい。もともと騎士団に籍こそ置いていなかったが、そなたにはこれまで魔物の討伐に多大な貢献をしてもらっていたからな。今日付で騎士団に籍を移すことを認めよう」
「大変ありがたく存じます」
何を隠そう、私は騎士団所属ではなかったが、騎士団上層部と肩を並べるほどの剣の腕前なのである。この国では、婚約が決まっている女性は騎士団に籍を置くことはできないため、私はこれまで騎士団所属と名乗ることができなかった。が、婚約破棄をされたからには堂々と騎士団に籍を移せる上、王妃教育もなくなり、学園は卒業。ほとんどの時間を騎士としての鍛錬と魔物討伐に当てることができる!こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。
剣は裏切らない。鍛錬を積めば積むほど、着実に動きが良くなっていく。ふるえばふるうほど、剣は私に応えてくれる。何より、魔物を切った時の爽快感と言ったら!私は社交をこなし、政務を手伝う王妃より、国を動き回り、敵を蹴散らす方がよほど向いている。
やっと、解放されて自分のやりたいことをやることができる。進みたい道に進むことができる!ああ、今日はなんて幸せな日だろうか!
王子とエレオノーラは口を開けたままフリーズしている。それもそうだ。王子は何も知らなかったのだから。
「王立騎士団……だと?」
「ええ、エーミール様がご存知ないのは無理もございませんわ。私が魔物討伐に出かけている間も、遊び呆け、最近ではエレオノーラ嬢とご一緒していたのですものね。それに、エーミール様は女が男の前に出るなど許せないとおっしゃっていましたから、鍛錬に励んでいることも剣の腕前も、これまで隠し通しておりましたの。失礼いたしましたわ」
王子は愕然としている。
「ま、待ってくれ……そんな男ばかりの場所で生活するなど——」
「何か問題がございますか?婚約者のいない女性は王立騎士団に入ることが許可されていますわ。それに、先ほど陛下に直接許可もいただいたではございませんか」
「元王妃候補がそのようなことをして恥ずかしくないのか!婚約破棄は撤回する!私の元で暮らせ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ!私はどうなるのですか!」
わけがわからない。勝手に婚約破棄してさらにそれを撤回?エレオノーラも困惑するだろう。1ミリくらい同情してしまう。この王子、ここまでクズだったのか。
ドンッ
大きな音がして、その方向を見遣ると、国王が椅子の肘掛けに拳を叩きつけていた。怒り心頭といった様子である。
「先ほど、そこまでにせよと言ったはずだ。エーミール、そなたは身勝手に動きすぎた。これまで目を瞑ってきたが、今回の件は見過ごすことはできない。エーミール、そなたの王位継承権を剥奪する」
「ち、父上!いくらなんでもそれは酷すぎです!」
「立場をわきまえず、社交の場を台無しにし、自らの感情を優先して周囲を振り回す。この行動のどこが国王に向いているというのだ。学園卒業の歳というのに、全く成長が見られない。よって、これは決定事項だ」
国王の言葉にやっと事の大きさを悟ったのか悟っていないのか、王子は項垂れた。王子には謹慎処分が下り、エレオノーラは複数の男性を誘惑し、国内の貴族の関係を乱した罪で国外追放となった。
断罪パーティーは終わった。私はこれから、騎士団団員として鍛錬に励もう。
「アメリア!今日から正式な団員になるんだって?災難だったね」
「僕がもらってあげるよ〜」
「いや、アメリアをもらうのはこの俺だ!」
「学園も卒業したし、これからは長い時間一緒だね!楽しくなりそうだ」
こうして、騎士団上層部に可愛がられるのは、また別のお話。
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代表作、『揺蕩う音符とシンデレラ 〜無能力者の私がなぜか貴族トップの家の次期当主に溺愛される〜』の方もぜひ読んでみてください。よろしくお願いします✨