杏の解
私には双子の姉がいる。
綺麗な黒い髪に、ぱっちりとした大きな目。スタイルも良くて街を歩けばモデルにスカウトされるほどだった。
「姉はあんなにたおやかなのに、なんでお前はそんなに粗野なんだろうね」
母は私が何か問題を起こすたびにそう言ってため息を吐く。
母は姉と同じでどちらかというと物静かな人だ。私とは似ても似つかない。
私だって皆に憧れられる姉のようになりたい。喧嘩なんてしない姉のように。
でも私は誰かに何か嫌なことを言われて、微笑みでごまかすなんて高等なことできなかった。
やられたらやり返してしまう喧嘩っ早い性分だ。
「それは俺に似たんだろうなぁ」
父は私が何かしても困ったように笑うだけだった。
お前には譲れないものがあって、しかも曲がったことはしないから怒るにも怒れない、と。ただ暴力は良くない、と私を優しい手で撫でながらたしなめられた。
私はそんな父が好きだった。
父も私と同じように、正義感が強く気も強い人でしょっちゅう誰かを庇ったり喧嘩したりで家族の気を揉ませていた。それでもまっすぐな父が、誠実で真面目なところが私は好きだった。
私は帰宅して、一番に仏壇に線香をあげ手を合わせる。父は去年の暮れに、家の階段から落ちて亡くなってしまった。
皆は残念だと、めげないでと慰めてくれる。
一番大変だったのは母だ。まだ中学生だった私たちに、泣く姿を見せたのは葬式の時だけだった。それもしっかり地を踏み、まっすぐに父を見て私たちを守ると誓った。気丈な人だ。
入学式の日。高校生になった私たちを、嬉しそうに見守ってくれていた母も、今は父と共に静かに眠っている。過労死だったそうだ。
今は親戚の家で暮らしている。とても温かい良い人たちばかりだ。
杏子。貴方も幸せでしょう。
けど貴女には清算していない罪があるでしょう。
健康について口論になった私の父と姉。
あの時あの場所にいることができたのは、あなただけ。
私は知っているよ。
あの日、あなたは学校を休んでいた。ずる休みだった。
でもそれについて問われた貴女は、病院へ行くことを拒んだそうじゃない。
文武両道、才色兼備な完璧な人間。
たおやかで麗しい私の姉。
杏子も喜んでくれるでしょう。
家族の罪は家族で背負おう。
大丈夫。私も一緒に行くよ。
恵子と京子。二人で一人。
あなたの罪は私の罪。
あなたの娘、杏子も。
親の罪が清算されることを願うでしょう。
ねえ。恵子姉さん。
私も一緒にいってあげるから。
大丈夫よ。