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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
第3章 番外編 王都と教会
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89話 二人の司教の動き

―教会の司教 アルテト・ルーグ視点―


 大きな問題が起こっても、通常の仕事がなくなるわけではなく、仕事量が増えるだけだと、執務机に置かれた書類の山を見て、ため息を吐いた。


 いつも通り、期日が近い書類から目を通していく。いい加減に処理すると、あとで問題になることもあるので手が抜けない。


 コンコンコン。


「フォンです。アテネと一緒です」


 フォンの声に扉へ視線を向ける。


「どうぞ」


 部屋に入ってきたフォンと、彼の後ろにいる年配の男性を見る。


「後ろにいる男性は、アテネですか?」


 フィンに聞くと、彼は笑って頷く。


「はい、アテネです」


 ここに来るときは変装を解いて来ることが多いので、彼女の姿に少し驚く。


「すみません。用意が終わったあとに呼ばれたため、この姿できてしまいました」


 急に呼び出してしまったせいですね。申し訳ないことをしました。それにしても、本当に年配の男性にしか見えません。


「見事ですね」


「ありがとうございます」


 アテネは嬉しそうに礼を言うと、執務机の前に立った。


「ユーフィン司教について話を聞きたいとのことですが、間違いないでしょうか?」


 アテネの質問に私は頷き、彼女を見る。


「わかりました。一月ほど前、ユーフィン司教はヴァルス女伯爵じょはくしゃくと会いました。彼女はチェスラ司教の派閥に入っている貴族です。会った場所は、会員制の店で、貴族たちがよく出入りしています。最初はお店で偶然会ったのかと思ったのですが、なぜか一週間に一回程度の頻度で会うようになりました」


「一週間に一回? それは多いですね」


 アテネの説明を聞いて、私はヴァルス女伯爵を思い出す。


 彼女は二十代前半で伯爵家を継ぎ、その手腕を振るっています。最初は若いという理由だけで甘く見られたこともあったようですが、領地が発展したことで実力が認められたのでしたね。


「はい、多いです。これまでのユーフィン司教は、どの貴族とも一定の距離を置いていたので、私は特に気になりました」


「頻繁に会う理由は調べたのですか?」


「もちろんです」


 私の質問に、アテネは力強く頷く。しかしなぜか、すぐには調べた結果を話さず、少し困った表情を浮かべた。


「どうかしましたか?」


「それがですね……ユーフィン司教とヴァルス女伯爵は男女の関係にあります」


「はっ?」


 アテネから思いもしなかった言葉が飛び出し、思わず間の抜けた声が漏れた。


「それは……本当ですか? あのユーフィン司教がですか?」


 ユーフィン司教とは同じ時期に司教補佐となったため、苦楽を共にした仲間でした。そんな彼の、恋愛事情など知りたくありませんでした。


 んっ? 少し、おかしいような気がします。女神さまに傾倒し過ぎているユーフィン司教が、異性に心惹かれたりするでしょうか? もちろん、気持ちというものは自分で自由に動かせるものではありません。ですから、ユーフィン司教が恋に落ちたと言われれば、否定することはできませんが……。



「二人は思い合った関係なのでしょうか?」


 二人が愛し合っているならいいのです。でも、どうしても不安が拭えません。


「私は違うと思います」


 アテネの答えに、私は目を細める。


「では、アテネは二人の関係をどう見ていますか?」


「ヴァルス女伯爵は、ユーフィン司教を心から愛していると思います。彼女の仕草や視線からそう判断しました。ですがユーフィン司教は、ヴァルス女伯爵を愛しているように見えますが、よく観察していると違うと判断できました。ユーフィン司教の行動は、ヴァルス女伯爵の様子を見ながら変化します。まるで彼女が求める人物を作り上げているような感じです」


 アテネの説明を聞きながら、眉間を抑える。


「チェスラ司教の派閥内において、ヴァルス女伯爵はどんな存在ですか?」


「かなり重要な存在です。『ヴァルス女伯爵がチェスラ司教を支持するなら、我々も支持する』と言って派閥に入った貴族家が多数あります」


「そうですか」


 ユーフィン司教は、チェスラ司教の派閥を内部から壊すつもりなのかもしれませんね。そのために、ヴァルス女伯爵に近づいた。なんとも、寂しい関係ですね。


「ユーフィン司教について、他に何かありますか?」


「ありません」


「わかりました。ユーフィン司教についてよく調べてくれました。ありがとうございます」


 私がアテネにお礼を言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「あの、チェスラ司教についても報告があります」


 ユーフィン司教のことだけでも頭が痛いのに、チェスラ司教の報告もあるのですか?


「なんでしょうか?」


「バーシュ公爵家の次期当主と頻繁に会うようになっています」


 バーシュ公爵家といえば、側妃殿のご実家ですね。現当主の次女が側妃に選ばれたため、貴族界でも力を得ました。そんな公爵家の次期当主とチェスラ司教が頻繁に会っている? 考えられる理由は……思いつきませんね。


「そういえば、バーシュ公爵家が王家に対して文句を言っていたと、フィンが教えてくれましたね」


 私はそばにいるフィンを見る。


「はい。『皇帝陛下が側妃様を蔑ろにしている』と、文句を言っているところに遭遇しましたので、報告いたしました」


「そうでしたね。そのあと、フォガスからも『皇后陛下が皇帝陛下と側妃様の時間を邪魔している。皇帝陛下は皇后陛下を優先し過ぎている』と言っていたのを聞いたと報告がきました」


 皇帝陛下が側妃より皇后陛下を優先するのは当たり前です。次女が側妃に選ばれた時に、それについては何度も説明を受けたはずなのですが……。


「フィン、バーシュ公爵家について調べてください。チェスラ司教と頻繁に会っている理由もお願いしていいですか?」


「わかりました。少し時間がかかると思いますが」


 私の指示を聞き、フィンが頷く。


「わかっています」


 公爵家ともなると、調べるのも大変ですからね。


「調査する者に伝言をお願いします」


「はい」


 フィンが私を見る。


「『危険だと判断したらすぐに手を引いて、身の安全を最優先にすること』と」


「わかりました」


 フィンからアテネに視線を移す。


「アテネ、重要な情報をありがとう。引き続きお願いします」


「はい、お任せください」


 アテネとフィンは小さく頷くと、部屋から出て行った。二人を見送ると、椅子に深く座り、天井を見上げてため息を吐く。


「ユーフィン司教もチェスラ司教も、どうして変わってしまったんでしょうね」


 ユーフィン司教とは同じ年に司教補佐に選ばれ、ケンカをしたこともありましたが、仲が良かったです。チェスラ司教は、私たちより二年後に司教補佐に選ばれたんでしたよね。勉強熱心で、とても素直な子でした。


 目を閉じると、仲が良かった頃の姿を思い出す。


「もう、あの頃のように笑い合うことはないのでしょうね」


 お願いですから、どうか、私にあなたたちを罰するような、そんな残酷な決断をさせないでくださいね。


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