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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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7話 寝込んだ二日間

「あれ?」


 目を開けると、見慣れない部屋。いや、ここはリーナの部屋だ。


「んっ?」


 体を起こすと何かが目の前に落ちた。それを手に取って首を傾げる。


「濡れタオル? もしかして熱がでて寝ていたのかな?」


 このタオルはお兄ちゃんが?


『良かったリーナ! 目が覚めたんだな』


 なぜかものすごく安堵した表情のユウが、目の前にくる。


「どうしたの?」


『気付いていないのか? リーナ、ニ日間も寝込んでいたんだよ』


 えっ、二日間も?


『俺と話していたらいきなり苦しみだして。兄のアグスがすぐに気付いてくれたんだけど、高熱がでて意識が戻らなくて。俺は何もできないし。リーナがどこかに行ってしまうかもしれないと思ったら、不安で不安で』


「ごめん。心配掛けたね」


 私を見て首を横に振るユウ。


『俺は何もできなかったから、謝る必要はないんだ。それより、リーナの家族が大変だった』


「大変? 何があったの?」


『うん。リーナとアグスを呪った奴の家族が、家に怒鳴り込んできたんだ』


 はっ?


『呪った奴が死にそうになっているらしくて、リーナとアグスのせいだって怒鳴ってた』


「何それ? そもそも呪いを掛けた方が悪いのに」


 貴族でも呪いに手を出したら罰があるみたいだけど。実際は違うの?


『そうだろう? 父親がそう言ったら、怒鳴り込んできた奴は呪った奴の母親みたいで「娘の思いに答えないお前が悪い」とか言い出して。頭がおかしいだろう』


 うん、イカレテいるね。


『しかも、頭のおかしい母親と一緒に来た奴が、「いったい、お嬢様に何をしたのですか?」ってアグスを怒鳴りつけてさ。すぐに父親がアグスをかばって、「神父なのに、呪いに手を出した者を放置するのか。こんな事が総教会にバレたら、ただではすまないぞ」って言ったら、そいつは真っ青になって慌てて騒いでいる母親を連れて出て行ったよ』


「まさか寝込んでいる間に、そんな事が起こっているなんて」


 しかも、お兄ちゃんを怒鳴った奴は神父だったの? もしかして貴族と教会って、ズブズブな関係? それって最悪なんだけど。

 

 あっでも、総教会というところにバレたらただではすまないんだ。つまり、この近くにある教会だけがダメなのかな?


『教会の奴は間違いなく、母親に買収されているな。呪いにも関わっているかもしれない』


「そうだね。それにしても、呪いに手を出した娘を怒るのではなく、被害者の家に怒鳴り込むなんて」


『この親にしてこの子ありを、見事に表現した親子だな』


 あぁ本当に、その通りだね。


「リーナ? 起きているの?」


 あっ、ユウと普通に話してた。声は大丈夫だったかな?


「お母さん、起きているよ」


 部屋の扉をそっと開けたお母さんは、心配そうに私を見る。その表情に、申し訳ない気持ちになる。


「良かった。あなた、二日間も意識がなかったのよ」


 傍に来たお母さんは、私の額に手を当てる。そして、ホッとした様子を見せた。


「熱は下がったわね。何か食べられそう?」


 いや、今はムリかな。


「お腹は空いていないから、今はいらないよ」


「そう? でも、少しだけでも食べられない?」


 すごく心配されているみたい。あまり、食べられそうにないけど。


「ちょっとだけなら」


「わかったわ。すぐに用意するわね」


 嬉しそうに部屋を出ていくお母さん。それに小さく息を吐き出す。

 

「心配掛けちゃったな」


『あ~、少し報告がある』


 ユウを見ると、気まずそうな表情をしている。


「どうしたの、そんな顔して?」


 不安になるんだけど。


『リーナの家族が、今のリーナの事を怪しんでいる』


「えっ、でもそうよね」


 リーナの家族はとっても仲がいい。だから、私がどんなにリーナのふりをしたって違和感があるはず。


『それで……』


 言葉を切るユウに視線を向ける。


 あれ? 口を手で覆っているから分かりづらいけど、嬉しそうに見える。


「何?」


 ものすごく嫌な予感がする。


『リーナが精霊の愛おし子なのではないかって話していたんだ』


「はっ?」


 あっ、声が大きかった。

 

 慌てて口を手で覆う。


「精霊の愛おし子なんて、どうしてそう考えたの?」


『俺とこうやって話しているのを、アグスは何回か見たらしい』

 

 気を付けていたけど、つい何度も話してしまったから。リーナに憑依してしまって、どうしていいかわからなかったから、事情を知っているユウと話すのは気が楽だったんだよね。でも、それがダメだったんだ。


『空中に話し掛けるリーナを見て、物語に出てきた精霊の愛おし子だと思ったみたいだ』


 まさか、この世界に精霊がいるなんて。


『でも父親は、精霊は物語に出てくるだけで実際にはいないんだって言ってたんだよな。母親の方はそう考えていないみたいで「いるわよ」と、言っていたけど』


「どういう事?」


『この世界には、精霊がいると信じている者と、信じていない者がいるみたいだ』


「そうなの」


信じる信じないは個人の勝手だからね。


『淡々としているな』


「えっ?」


『ユーレイが「いる」「いない」論争と似ているのに、気にしていないから」


「気にしても意味がないからよ。ユーレイの見える者が『いる』といっても、見えない者には『いない』が正しいんだから」

 

 見える者がどんなに言葉を重ねても、見えない者にとっては信じられるわけがない。見えない者でも信じる者はいる、それは見えないだけで感じている者だったり、見えない存在だっていると考える者だけ。


『で、精霊ってこの世界ではどんな存在なんだ』


 ユウを見ると、期待の籠った視線を向けてくる。

 

 はぁ、私にとってはものすごく面倒くさい表情だけど。

 

「精霊ね」


 精霊が出てくる物語は一冊だけね。


「小さい頃に、お母さんに読んでもらった本に登場するみたい。 話の内容は」

 

 「これは、村に住む元気で明るい少女の物語。

 ある日、少女のお母さんが病気になりました。

 少女は森に、お母さんのために薬草を取りに行きます。

 でも、森には危険がいっぱい。

 それでも少女は、恐怖に震えながらも薬草を探し続けます。

 そんな頑張る少女の前に「手伝ってあげる」と精霊が姿を見せた。

 少女は精霊にお礼を言って、一緒に薬草を探します。

 そしてついに薬草を見つけ出した少女は、急いでお母さんの下へ。

 少女はお母さんの病気が治ると、沢山のお菓子を持って精霊と出会った場所に行きました。」


「こんな感じの話だったわ」


 『んっ? つまり精霊は、何かを手伝ってくれる存在という事か?』


「……さぁ?」


 私の知っている物語では、精霊がどんな存在なのかわからないわね。

 

 コンコンコン。


「リーナ、お待たせ」


 お母さんがお盆を持って部屋に入って来ると、ミルクの優しい香りがした。


「ミルクスープよ。これなら食べられそう?」

 

「うん、ありがとう」


 ミルクの香りでお腹が空いたみたい。これなら食べられそう。


 お母さんがベッドの傍に椅子を置き、食べている私を見る。それにちょっと緊張する。

 

「ごちそうさまでした」


「おいしかった?」


「うん、ありがとう」


 お母さんを見ると、優しく微笑んでいる。でも、少し違和感がある。

 

 あぁそうか。微笑んでいるのに、目に悲しみが浮かんでいる。

 

 私がリーナではないと、わかったんだ。


 お母さんから視線を逸らす。


「……」


 こういう時には、何を言えばいいのだろう? 謝る? 謝ったあとは? 本物のリーナさんは、呪いで死んだと説明するの?

 

「リーナ」


 お母さんを見る。


「熱は引いたけど、暫くはゆっくり過ごした方がいいわ。今はまだ夜中だから、もう一度寝ましょう」

 

「うん。そうする」


 少し時間が欲しい。リーナの家族と向き合うために。

 

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