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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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84話 フォガス、こっわ~

 ランサ森から帰ってきた翌日、薬草『ロキッソ』を提出するために冒険者ギルドに行く。


「お父さん、ありがとう」


 お兄ちゃんが、冒険者ギルドまで送ってくれたお父さんにお礼を言う。


「帰りはフォガスさんが送ってくれるんだったな?」


「うん。だから安心して」


「わかった。帰り道、気を付けてな」


 お父さんは少し心配そうに私たちを見ながら仕事場へ向かった。教会の仕事が終わり、今はバーガル子爵家だった建物を建て替えているらしい。


「おはようございます。依頼品を持って来ました」


 お兄ちゃんがカウンターに行き挨拶すると、女性の冒険者ギルド職員が私たちを見て小さく頭を下げた。


「おはようございます。依頼は薬草の採取でしたね。確認をいたしますので、しばらくお待ちください」


 ギルド職員がお兄ちゃんからロキッソの入ったマジックバッグを受け取ると、作業台に中身を出した。しばらくすると、一枚の紙を持って私たちのそばに来た。


「おつかれさまでした。ロキッソ四〇〇本で間違いないでしょうか?」


「「はい」」


 ギルド職員の言葉にお兄ちゃんと一緒に頷く。


「ありがとうございます。こちら依頼達成の書類となります。確認してサインをお願いします」


 お兄ちゃんがギルド職員から書類を受け取ると、内容を確認してサインした。


「リーナも」


「うん」


 お兄ちゃんから書類を受け取り、内容を読む。


「わからない言葉はある?」


「大丈夫」


 お兄ちゃんの問いに首を横に振ると、書類を最後まで読み終えサインした。


「ありがとうございます。依頼料はこちらになります」


 ギルド職員から依頼料を受け取ると、お兄ちゃんと一緒に首を傾げた。


「あの、お金が多くないですか?」


 お兄ちゃんがギルド職員に聞くと、彼女は少し不思議そうな表情をした。


「あっ、薬草採取の依頼は今回が初めてですか?」


「「はい」」


「すみません、依頼を受ける時に行う説明をし忘れていたみたいです。薬草採取の場合、『最低一〇〇本』と書いてある時は、一〇〇本までが依頼料の金額となり、それ以上は買取になるんです」


「そうなんですか」


 お兄ちゃんが受け取ったお金を見る。


「はい。ですので、今回は三〇〇本のロキッソが買取になり、その分の金額がプラスされてこの金額となります」


「わかりました。ありがとうございます」


 お兄ちゃんと私が頭を下げると、ギルド職員は優しげに微笑んだ。


「リーナ殿、アグス殿。おはようございます」


 フォガスさんの声に振り向くと、とても嬉しそうな笑顔で私たちのそばに来た。


「「おはようございます」」


 フォガスさんは私たちからギルド職員に視線を向けると、表情を険しくした。


「私は教会の護衛騎士をしているフォガス・ルーグです。ギルドマスターに話しがありますので時間を取っていただきたい」


 あれ? これはお願いというより命令に近い感じだな。


『いつものフォガスと違うな。鋭い感じがする』


 冒険者ギルドの掲示板で依頼票を見ていたユウが、そばに来て呟いた。


「申し訳ありません。今、ギルドマスターは不在です」


 フォガスさんの雰囲気にのまれたのか、ギルド職員は緊張した面持ちで頭を下げる。


「では、すぐに呼び出してください」


『うっわぁ~、いつものフォガスと違い過ぎる』


 ユウの言う通り、フォガスさんの雰囲気は、私の知っているフォガスさんと違う。


「えっ、呼び出しですか?」


「そうです。早急に確認を取らなければならない事があります。そして、その返答次第では罪となりますので、すぐに呼び出してください」


 罪? ここのギルドマスターが何かしたって事かな?


「はい。えっと」


「どうかしましたか?」


 ギルド職員が戸惑っていると、五十代くらいに見える男性のギルド職員がやって来た。フォガスさんは、彼に向かって少し睨みつけるような表情を見せる。


「あの先輩、こっちに」


 女性のギルド職員は私たちから少し距離を取ると、フォガスさんから聞いた事を男性のギルド職員に伝えた。

 

「失礼しました。すぐに呼んで来ます」


 男性のギルド職員は、冒険者ギルドの出入り口から飛び出すと、どこかへ走って行った。


「フォガスさん、何か問題でもあったんですか?」


 お兄ちゃんがそっとフォガスさんに聞くと、彼はふわっと笑みを見せた。その変わりように、ギルド職員の体がビクッと震えた。


「ラティ森の問題です」


 あっ、ランカ村とランサ森の間にラティ森という名前が付いていた事だ。


「なぜ、ランカ村に住む者たちがラティ森の事を知らないのか。これは、かなり問題です」


「失礼します」


 冒険者ギルドを飛び出した男性ギルド職員が、年配の男性を連れて来た。


「あなたが、ここのギルドマスターですか?」


 フォガスさんが、じろっと年配の男性を見る。


『フォガスって顔が整っている分、無表情だと、かなり冷たい印象になるな』


 今、気になるところはそこなの? まぁ、冷たい印象になるけど。


 ユウの呟きに、小さくため息を吐いてしまう。


「はい」


「ラティという名前に聞き覚えはありますか?」


 フォガスさんの問いに、ギルドマスターは真っ青になる。そしてチラッと、冒険者ギルドの出入り口のほうを見た。


「あっ」


 お兄ちゃんの小さな声に視線を向けると、冒険者ギルドの出入り口のほうを見ていた。

 

「お兄ちゃん、どうしたの? あっ」


 私は、お兄ちゃんに声を掛けながら冒険者ギルドの出入り口に視線を向け、小さく声を上げた。


 冒険者ギルドの出入り口には、いつの間にかキーフェさんがいた。キーフェさんは、私とお兄ちゃんを見て、嬉しそうに手を振る。それに手を振り返すと、「ひっ」という小さな悲鳴が聞こえた。ギルドマスターを見ると、さっきより顔色が悪い。


『すっごいなぁ。こんな真っ青になって。この反応だけで「何かまずい事があります」って言ってるよな』


 ユウは、ギルドマスターの周りを飛び回りながら呟く。私はユウの言葉に頷き、フォガスさんを見た。


「では、ギルドマスター。少しゆっくり話でもしましょうか」


 フォガスさんがギルドマスターに優しく声を掛けると、ギルドマスターは一歩、足を後ろに下げた。


「逃げ切れるといいですね」


 フォガスさんがギルドマスターに笑いかけると、ゾクッと寒気を感じた。


『こっわ~。フォガス、こっわ~。笑っているのが、余計に怖い!』


 ユウがフォガスさんから距離を取る。


「あの、話でしたら奥でお願いします」


 フォガスさんの雰囲気を怖がっていた男性のギルド職員が、フォガスさんとギルドマスターに声を掛けた。


「そうですね。ここでは周りに迷惑を掛けてしまいますので、奥で話しましょうか」


 フォガスさんが頷くと、ユウが呆れた表情を浮かべる。


『いまさらな気がする』


 私もそう思う。


「リーナ殿、アグス殿」


「「はい」」


 いつもの優しい微笑みで、私たちを見るフォガスさん。


「すみませんが、俺はしなければならない事がありますので、帰りはキーフェに変わります」


「わかりました」


 お兄ちゃんの返事に、フォガスさんは冒険者ギルドの出入り口にいるキーフェさんを見る。キーフェさんはフォガスさんの視線に気づくと、私たちのそばに来た。


「帰りはお願いしますね」


「わかりました」


 フォガスさんとギルドマスターが奥の部屋に向かう。


『まるで連行されるみたいに見えるな』


 うん、まさにそんな感じだね。


「帰りましょうか」


 キーフェさんが私たちを見る。


「「はい。お願いします」」


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