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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
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6話 ユウの未練

「「いってらっしゃい」」


 お兄ちゃんと一緒にお母さんを見送る。いつもは妹も連れて行くみたいだけど、今日は私たちが家にいるので妹も一緒にお留守番が決まった。


「よし、リーナ」


 お兄ちゃんが私を見る。


「お母さんが帰って来るまでに掃除を終わらせようか」


 掃除か。私の苦手な家事の一つだね。


『掃除は苦手だったな。片付け始めるとマンガとかゲームとか目に付いて、なかなか進まないし』


 それは、マンガを読んだりゲームで遊んだから進まなかっただけでは?


「俺が拭き掃除をするから、リーナは箒を頼むね」


 あっそうか、この世界に掃除機はないんだ。箒は、久しぶりだな。


「はい」


「ありがとう」


 お兄ちゃんから箒を受け取り、二階の自分の部屋から始める。自分の部屋が終わったら、お兄ちゃんの部屋。


 お兄ちゃんの部屋に入るのは、少し迷った。だって、リーナの兄だけど私にとっては他人の部屋だからね。リーナの両親の部屋は、なんとなく申し訳なく感じた。

 

「スーナの部屋は起きてからでいいよ」


 お兄ちゃんを見て頷くと、一階に下りてキッチンから掃除する。次にダイニングとリビングを終わらせる。


「リーナ。トイレとお風呂の掃除は、お兄ちゃんがするからしなくていいよ」


 お兄ちゃんがリビングの床を拭きながら言う。


 お兄ちゃんは本当に妹思いだな。私、弟をこんなに気遣った事なかった。もう、会えないんだよね。


『お兄ちゃんは少しシスコンだな。顔は良いけど、シスコン過ぎるとマイナスになるから気を付けてやらないと』


 殴っていいかな?


『えっ、何?』


 私の視線に気づいたユウが、私から離れてなぜか両手を上げる。


「何それ?」


『いや、なんとなく。不穏な物を感じて』


「リーナ? 何か言った?」


「なんでもないよ、お兄ちゃん」


 つい、ユウに話しかけてしまった。これは気を付けない。独り言の多い不審者になってしまう。


『マンガだったら、心の中で会話ができたりするんだけど、できるかな?』


 心の中で会話? そんな事ができるなら、不審者にならないんだけど。


 ユウを見る。彼と心の中で?


『えっ、なんでそんなに嫌そうなんだ?』


「気のせいよ」


 私の心とユウの心が、繋がったイメージに戸惑っただけよ。そう、戸惑ってちょっと引いただけだから。


 とりあえず、挑戦してみようかな。これからのためにも必要そうだし。


『えっと、ユウ? 伝わっている?』


 ユウに向かって、心の中での会話に挑戦してみる。


『えっ、何? 俺の顔に何か付いているのか?』


 あっ、これはムリみたいね。


『リーナ? ため息なんて吐いて、どうしたんだ?』


 不思議そうな表情で私を見るユウ。

 

「なんでもないわ」


 心の中で会話ができない事は、あとで話そう。


「リーナ? 何?」


 あっ、またやってしまった。


「疲れたのか?」


「ちょっと。でも、あと少しだから掃除は終わらせちゃうね」

 

「ムリはするなよ。怪我で熱が出るかもしれないし」


「うん、わかった。ありがとう」

 

 玄関の掃除が終わる頃、スーナが起きてきた。


「にーたん、ねーたんだ!」


 リーナの妹、可愛い! お兄ちゃんと一緒でお父さん似だから、将来が凄く楽しみ。


「スーナ、おはよう」


 スーナがお兄ちゃんにギュッと抱き着き笑顔になる。


「はよ、にーたん」


「スーナ、おはよう」


 私が声を掛けると、ニコッと嬉しそうに笑うとお兄ちゃんから離れて私にギュッと抱き着いた。


「はよ、ねーたん」


 あぁ、可愛い。リーナの記憶によれば、スーナは三歳みたい。三歳児って、こんなに可愛かったっけ?


「にーたん。おかあたんは?」


「仕事で少し出掛けたよ。今日はお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に、遊んで待っていようね」


「うん」


 元気に片手を上げて返事をするスーナに、頬が緩む。


「リーナ。スーナに朝ごはんを食べさせるから、休憩していいよ」


 お兄ちゃんを見て首を傾げる。


「えっ? 私も手伝うよ?」


「リーナは、休憩した方がいい。疲れた表情をしているから」


 えっ?


『あっ、本当だ。疲れた表情をしてるし、顔色も少し悪いぞ』

 

 顔色まで悪いの? それは休憩した方がいいかな。


 自分の頬を両手で包み込む。

 

 あれ? 少し熱が出ているかもしれない。


「わかった。部屋でゆっくりするね」


 スーナに声を掛けてから部屋に戻る。ベッドに転がると、少し体が重く感じた。


『大丈夫か?』


「ちょっと熱っぽいかな」


 傷のせい? それとも、慣れない環境のせい?


『リーナ。俺はこれから、どうなるんだ?』


「えっ?」


 ユウに視線を向けると、少し不安げに私を見ている。


『俺みたいなユーレイは、これからどうなるんだ?』


「どうって、未練を解決すれば死神が迎えに来てくれたんだけど」


 どうしたんだろう? 急に不安になったの? それともずっと不安を抱えていたの?


『その未練がなんなのかわからないんだよ。それに、この世界にも死神はいるのか?』


 死神に付いては心配していない。呼び方が違ったとしても、同じように魂を導く存在はいるはずだから。そうでなければ、世界は行き先を見失った魂であふれかえってしまう。

 

 ただ、ユウの未練に関しては問題がある。普通、この世に留まってしまうほどの未練を忘れる事はない。ユウみたいにわからなくなる事は絶対にない。


「本当に何も思いつかないの? 死んだ時に強く『会いたかった』とか『したかった』とか『食べたかった』とか思わなかった?」


『乙女ゲーム』


「乙女ゲーム?」


 死んだ時に乙女ゲームの事を考えたの?


『そう。死んだ日は金曜日で、土曜から二日掛けて乙女ゲームを攻略する予定だったんだ。死んだ時も、ゲームをした後だったらと思った記憶がある』


「そうなの。ん~、つまりその乙女ゲームを攻略できたら、未練が解決したのかもしれないね」


 あれ? この世界にきてしまったなら、ユウの未練は絶対に解決しないのでは?


『未練がずっと解決しない場合は、どうなるんだ?』


 ユウも気づいたみたい。


「霊力が強くなっていって、見た目が変わっていくわ。同時にできる事も増えていく」


『それで』


 不安げに私を見るユウ。


「最後は完全体になるわ。完全体になっても、上手く世界に馴染めばそのまま」


『それって、ずっとユーレイのままって事?』


「うん」


『馴染めないと?』


 少し怯えた表情になるユウ。


「自我が薄れて狂っていくの。そして、問題行動を起こすと死神に刈られるわ」


『その刈られるって、どういう意味だ?』


「魂を消滅させるために、死神の武器で切られるみたい」


『切られたら、死ぬ?』


 死ぬ? えっと、死んだあとの話なんだけど。


 ユウを見ると、気づいたのが苦笑いした。


『ごめん。死んだあとの話だったな』


「うん」


『あ~、ここだと俺の未練は絶対に解決しないな』

 

「そうだね。でも、その乙女ゲームが本当に未練なの?」


 ユウを見ている限り、それが未練だと思えない。未練を残しているユーレイは、本当にその事ばかり考えてしまうものだから。


 ユーレイに見えると気づかれないようにするのは、ユーレイの「未練」のせいなのよね。だって寝ても覚めても、ずっと傍で未練を言い続けるのよ? 未練が解決するまでずっと。そう二十四時間、ずっと休みなく。


『どういう事? 俺の未練は別だって事?』


「ユーレイが未練を残して死ぬと、一日中その事で頭がいっぱいになるの。自分に気づいた者がいたら付きまとって、目的を果たさせるために言い続けるのが普通なの」


『えっ、その事で頭がいっぱい?』


「そう。時間が経てば経つほど悪化して、他の事がどうでも良くなってくるらしいの」


『死んだ翌日は、乙女ゲームができなかった悔しさで叫んだりしたけど。リーナが言うほどではないと思う。俺みたいな感じのユーレイはいないのか?』


 ユウみたいなユーレイもいる。でも、霊力レベル一ではいない。元完全体だったから? そもそも、完全体がどうして霊力一の姿になったのかもわかっていない。ユウの未練もわからない。


「わからない事ばかりね」


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