表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
6/51

4話 この世界は

 んっ、明るい? あぁ、朝だ。あれ、明るすぎない?


「やばい、寝過ごした! 今日も早く行かないとダメなのに……」


 あっ、違う。注文ミスの問題は昨日で解決したから、今日は休みを取ったんだった。


「はぁ。よしっ、寝直そう。んっ?」


 ベッドに倒れ込み、いつもと違う天井に首を傾げる。知らない場所、でも知っている?


「……あぁ、そうだ」


 昨日の夜の事を思い出し、ため息を吐く。

 

 なぜか、知らない世界の幼い少女に憑依したんだった。しかも、ユーレイと一緒に。


『おはよう、リーナ。考えてみたんだけど、もしかしたらここはラノベやアニメで見た、乙女ゲームの世界とか、勇者がいる物語の中かもしれない』


 元気だね。それと、朝からこれに付き合うの面倒くさいんだけど。


「……」


『リーナ? あれ? リーナ、俺の話し聞いてる?』


 これは相手をしないとダメなんだろうな。


「……はぁ。それで?」


『もしかしたらリーナは男爵家当主の娘かもしれないぞ。若い頃の当主とリーナの母親の格差を超えた愛。もう少ししたら、男爵家から迎えが来るかもしれない。ただリーナがヒロインだったら、あ~もう少し可愛いはずっていうか。リーナはモブかな?』


 失礼だな。リーナはすごく可愛いわけではないけど、可愛いよ。


「リーナの両親は、幼馴染で十八歳の時に結婚。それからずっと仲の良い夫婦としてこの辺りでは有名だからね。それとリーナには、三歳年上の兄と二歳年下の妹がいるからね」


『えっ、そうなのか?』


「うん。リーナの記憶だから間違いないと思うよ」


『乙女ゲームの中に入ってしまう物語では、定番の設定なのに違うのか。という事は勇者の方か? あっ、魔力を調べるとリーナには聖なる力があって、聖女と認定されるのかも』


 まだ続くの? それに魔力なんて、あれ? リーナの記憶に魔力の事がある。


「三歳になって調べた魔力検査で、私は一般的な平民と同じでちょっとだけ魔力があるみたい。でも、私の魔力量ではなんの役にも立たないみたいよ」


『魔力がある世界なのか?』


「そうみたい」


『でも、一般的な平民と同じ魔力? それだったら聖なる力は?』


「ないわね」


『本当にない?』


「ない。そもそも、憑依した人物が出てくる乙女ゲームや物語があるの?」


 私は、その辺りの物に詳しくないのよね。


『あっそうか、リーナは転生ではなく憑依だ』


「そうよ。それで、あるの?」

 

『…………ない。そんな』


 どうしてあなたがそんなに落ち込むのよ。


「ここがあなたの――」


『ユウだって』


 落ち込んでいるのに、そこは譲らないのね。


「ユウ。ここがアニメや物語と関係ない場所だと、理解できた?」


 唇を尖らせ、不満そうな表情で私を見るユウ。何も言わずユウを見ていると、大きく息を吐き出し諦めた様子で頷いた。


「それは良かった。ではユウ、あっちを向いて」


 壁の方を指すと、ユウが首を傾げる。


『なんで?』


「着替えるからよ。幼いとはいえ女の子。まさか……」


 訝しげな視線をユウに向けると、慌てた様子で首を横に振る。


『違う! 違う! ごゆっくりどうぞ!』


 叫びながら背を向けるユウの姿に、笑顔になる。


 ちょっと楽しい。


 リーナの記憶を頼りに服を着替え、髪をとかす。乾燥で、髪が少しパサパサしているけど、これがリーナの普通みたい。


 気になるけど、しょうがないよね。


「もういいわよ」

 

 ユウが私を見て、眉間に皺を寄せた。


『それ、大丈夫なのか?』


 ユウが言っているのは首の傷の事だろう。パジャマは首元まであったので気づかなかったけど、服を着替えるとばっちり見えた。首に付いた多数のひっかき傷が。ただ不思議な事に、首を絞められた跡はない。

 

「夜の間に、薬でも塗っておけば良かったよね」


 昨日はいろいろな事がありすぎて、首の傷にまで考えた及ばなかった。ここまで酷いとは思わなかったから、今日で大丈夫だと思ったし。


「これ、絶対に目立つよね?」


『間違いなく、目立つだろうな』


 首元が隠れる服を探したけどなかった。そうだ、首に何かを巻く? でも、いつもと違う姿だと家族は気にするよね。


 コンコンコン。


「誰?」


 ビックリした。


「リーナ? リーナ? 無事か?」


 焦った様子の若い男性の声に、なぜかホッとする。


「お兄ちゃん」


 お兄ちゃん? あぁ、そうか。リーナの兄だ。憑依する前は姉と弟だったから、違和感があるな。


「大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


 何をそんなに心配しているんだろう?


「首に傷は付いていないか?」


 えっ? どうして首が傷ついている事を知っているの?


『なんで知っているんだ?』


 ユウも不思議に思ったのか、小さく呟く。そして、私を見て扉を指した。


『話を聞こう。たぶん聞いた方がいいと思う』


 私もそれに賛成。情報は、大事だからね。


「お兄ちゃん。今、開けるね」


『リーナ、待った』


「何よ」


『話し方は、気を付けた方がいいと思う。五歳の少女の話し方になるように』


「あっ。確かにそうね」


 でも五歳の女の子の話し方なんて、できるかしら?


「リーナ?」


「ごめん、お兄ちゃん。今、開けるね」


 大丈夫みたい。リーナの記憶が助けてくれる。


 扉の鍵を開けると、勢いよく扉が開いた。


「うわっ」


「あっ、ごめん。やっぱり、リーナも同じか」


「えっ?」


 リーナも同じ? 部屋に入って来たお兄ちゃんの首元を見る。


「お兄ちゃんも傷が」


「うん。呪いに抵抗したからな」


 ……えっ?


『呪い? えっ、この世界には呪いがあるのか?』


「呪い?」


 あっ、リーナの記憶に呪いがある。えっ、この世界、誰かを呪う事が普通にあるの? しかも、呪いで人が死んでるし。


『リーナの兄の様子を見る限り、呪いは普通に受け入れられているみたいだな』


「リーナ、どうした?」


「誰が、私やお兄ちゃんに呪いを掛けたのかなって」


『えっ、呪いをあっさり受け入れた? あっ、リーナの記憶か!』


 ユウ、うるさい。


「たぶん、お父さんに一目ぼれした子爵家当主の妹だよ」


 お兄ちゃんの言葉で、お父さんの腕に手を添え、うっとりしていた着飾った女性の姿を思い出す。


『うわっ、好きになるのは勝手だけど、好きな男の子供を呪うのはダメだろう』


 うん、私もそう思う。まさか、私とお兄ちゃんが死んだら、お父さんが彼女を好きになると思ったとか?


「でも、呪いが未完成で良かったよな」


「未完成?」


「うん。完成していたら、きっと俺とリーナは死んでいたと思うから」


「そうだね」

 

 いや、あの呪いは未完成ではなかった。あれは、完成した呪い。そして、その呪いを私が切った。

 

 どうして切る事ができたんだろう? リーナの記憶から呪いに関する事を思い出したけど、私にあれが切れるはずない。だって、呪いに対応できるのは聖職者と聖女だけみたいだから。えっ、聖女? そうだ、この世界は聖女がいるんだった。ユウには……内緒でいいか。


『あれ、未完成だったか? 俺には、そうは見えなかったけど』


 ユウがお兄ちゃんの隣で首を傾げる。


「リーナも同じ状況かもしれないと思って、傷薬を持ってきたんだ、首に触ってもいい?」


「えっ?」


「塗ってあげるよ」


 いや、恥ずかしいからムリ。でも、今の私は五歳のリーナ。そして、お兄ちゃんが大好きで、甘えて……甘えていたな。それはもう、思いっきり。抱き着いたり、膝に乗ったり……。


「リーナ? やっぱり傷が痛いのか?」


「大丈夫。お願い」


 リーナのこれはいつも通り。そう、傷の手当てをしてもらうのも。だから、恥ずかしい事ではない!


 少し上を向き、お兄ちゃんに傷が見えやすいようにする。


「俺の傷より酷いな。もしかしたら、少し傷痕が残るかもしれない」


「大丈夫だよ。平民なんだから傷痕なんて気にしないよ」


 そんな事より、早く終わって。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ