14話 女性のユーレイ
『リーナ、あれ! えっ?』
私を見て、私が睨んでいる事に気づいたユウが戸惑う。
『怒ってる? えっ、俺、何かしたっけ?』
小さくため息をつく。
『ねぇ、私が見えているの?』
『俺に言っているのか?』
『……』
女性のユーレイはユウの質問には答えず、おそらく私を見ている。だって、視線が合わないように背を向けているのに、彼女の視線を強く感じるから。
『リー。お前、ユーレイのくせに無視か。だったら俺も無視するからな!』
私の名前を呼ぼうとしたユウを睨む。今度は、私が何に怒っているのか気づいてくれて誤魔化した。かなり酷い誤魔化し方だけど。
少し考えてから、裏口を開け外履きを脱ぐ。
『あれ? えっ?』
私の行動に戸惑うユウ。チラッとユウに視線を向けたあと、裏口の扉を閉めた。
『待って! あの子達に会いたいの! お願い、あの子達に会わせて!』
女性のユーレイから悲痛な叫びが、扉を閉める瞬間聞こえた。それも全て無視して、外履きを手に持って部屋に戻る。
ユウは壁を通り抜け私の傍に来ると、私の様子を窺いながら付いて来る。
「はぁ、失敗した。まさか、こんな近くにユーレイがいるなんて思わなかった」
部屋に入り、扉に背を預ける。
『ごめん、俺がビックリして叫んだから彼女がリーナに気づいたんだよな?』
その通り。でも、私がユウの驚いた声に反応しなければ気づかれなかった。
「ユウだけのせいじゃないから気にしないで」
『ごめん。なんでだろう? 思った事をすぐに言ってしまうんだ。前はこんな事、なかったのに』
落ち込むユウを見る。
「それは仕方ないよ。ユーレイだから」
『えっ? ユーレイだから?』
不思議そうに私を見るユウ。
あれ? もしかして言っていなかったかな?
「ごめん、言い忘れていたみたい」
『何を?』
「ユーレイが世界から借りる器には、その世界の作ったルールを守らせるための制限が掛かっているの。理性がそれよ。まぁ、その制限を破る者もいるんだけどね。ユウが思った事を口にしてしまうのは、器がなくなったから。別にユウのせいではないよ」
ユウぐらいの状態は可愛いほうだし。
『そうなのか。なぁ、これ以上酷くなったりしないよな?』
ユウの言葉に、理性を完全に失い狂ってしまうユーレイがいる事を言うべきか迷う。
『酷くなる場合もあるんだな』
私の態度でバレてしまった。
「うん。言葉に囚われてどんどん時間が経つと、理性を全て失うユーレイがいる」
元の世界だったら、そうなる前に霊能者が彼らの心残りを解決していたけど、ここではどうなんだろう?
『理性を失う……』
不安そうなユウを見る。
『俺もそうなるかもしれないのか』
「ユウは、私が知っているユーレイとは違うからわからない」
『違う?』
「うん。今だって、理性を失うかもしれないと不安に思っているでしょう? でも私が出会ったユーレイは、それを気にする事はなかったわ」
『そうか。でも、変わっていく可能性はあるんだよな?』
ユウを見ると、沈んだ表情をしている。
「ユウみたいな存在は初めてで、私にもわからない。でも、気を付けていたらきっと大丈夫だよ」
『そうだよな。気を付ければいいんだ』
「うん、大丈夫」
ユウは何度か頷くと私を見る。
『さっきは本当に悪かった。気を付けるから』
「うん、お願いね」
ユウが変わりだしたら、ちゃんと言おう。
『それで、どうして家に戻ったんだ? あのユーレイと交渉したらダメだったのか?』
不思議そうに女性のユーレイがいるほうを見るユウ。
『あの子達に会えれば、いいだけみたいだったけど』
「確かにそうね。でも、そのあの子達はどこにいるの? 今は生きているの?」
『えっ?』
「少しの情報だけで交渉して契約すると、大変な目に合う事があるから気を付けないとダメなのよ」
『少しの情報?』
「そう、会いたいという心残りがある場合、どこにいるのか、今は生きているのか。何より、私の意見を聞ける状態なのか調べないと」
理性がどれくらい残っているのか。これが、かなり重要なのよね。
『そんなのどうやって調べるんだ?』
「ユーレイの様子を見ればわかるわ。話ができる状態なら、彼女は今考えているはず」
私が彼女を認識したのか、その場合どうやって話をしようかと。
『できない状態だったら?』
「ここに来ようと、あの場所で怒鳴り散らしながら暴れ回っているわ」
でもさっきの様子だと、こちらの話を聞く理性はありそうだったわ。
そう言えば、なぜ、あんな所にいるのかしら? 死んだ場所から移動できないはずだけど。
『もし、話ができない状態。つまり理性の効かないユーレイに、見える事がバレたらどうするんだ?』
「そうなのよね。その場合はどうしよう。今までは助けてくれる、あっ」
『どうした?』
私はユウに触れた。という事は、他のユーレイにも触れるのかしら? もし触れるなら、私の霊力を無理矢理に送り込んで話せる状態にする事ができる。でも、そこまで私の霊力がなかったら、触ろうとした事で見える事がバレる。
あ~、霊力レベルがどれくらいあるのかわかったら大胆に行動できるのに。調べてもらう相手がいないから、わからない。
『リーナ?』
「なんでもない」
余計な事は考えず、あのユーレイの様子を見てこよう。
「もう一度、あのユーレイに会おう。それで判断できると思うから」
『わかった。交渉ができそうだったらするんだな?』
「うん。会いたい相手が遠い場合は、すぐにはムリだという事。あと、既に亡くなっている場合もある事をしっかり話すわ」
緊張する。前までは、霊力レベルが弱かったからユーレイとは関わらない人生を選んだ。無理矢理関わって来たユーレイもいたけど、家族や親戚が解決してくれた。あ~、交渉が失敗したら? ダメ、考えない。考えない。
「ユウ、周辺に人がいるか見てくれる? そして結果を、小声で教えて」
『わかった』
静かに裏口に行き深呼吸すると扉を開ける。扉を少し開けてユーレイの様子など窺う、なんて事はしない。そんな事をしたら、見えていると完全にバレる。
『あっ』
私に気づいた女性のユーレイを視界の隅に捉えながら、外履きを履く。
『周りには誰もいないみたいだ』
女性のユーレイは、私を窺っているのかジッと見ている。彼女は考えている、私が見えるのか、見えないのか。そして見えないと判断したのか、落ち込んだ様子で下を向いた。
『……』
ユウはそんな女性のユーレイに悲しげな視線を送っている。そして何かを訴えるように私を見た。
「行こう」
パッと表情が明るくなるユウに、緊張が少しほぐれる。やっぱり、ユウがいて良かった。
女性のユーレイに近づくと、気づき顔を上げる。彼女は泣いていた。
同情してはダメ。霊能者として仕事をしている家族から教わった言葉を思い出す。「霊能者としてできる事は限られている。だから線引きをしっかりする事。だって、彼らを生き返らせる事は絶対にできないのだから」
「はじめまして、ユーレイさん」
『見えるの? 私を――』
「待って下さい。あなたの望みを叶える代わりに、私の望みを叶えて下さい」
『何でもするわ! あの子達に会えるなら。最後に、最後に会いたいの。会って、あの子達の元気な様子を見たいのよ』
女性のユーレイの叫び声を聞きながら、彼女の足元と言っても足は見えないけどあるだろう場所を見る。そこには、緑の宝石で花をイメージしたペンダントが落ちていた。
『それは、私の家に代々伝わる家宝よ。母から譲り受けた物だから大切にしていたのに、殺された時に失くしてしまったの』
『殺された? うわ、本当に?』
ユウをチラッと見ると気づいたのか、口を手で覆う。
『でも気づいたらペンダントの傍に立っていて、あの子達に会いに行こうとしても動けなくて。もう、どうしたらいいのかわからなくて。あの、そのペンダントをあの子達に渡してもらえませんか? 私から渡したかったけど……』
死んだ場所から移動できたのは、代々受け継がれてきた家宝の力と、それをあの子達に渡したかったという強い思いからね。ただ、ここに落ちた原因はわからないけど。
「私を殺したユーレイ」を読んで頂きありがとうございます。
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ほのぼのる500




