表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
私を殺したユーレイと、一緒です。
1/46

1話 えっ、死んだ?

「ありがとうございました」


 コンビニ店員の言葉を聞きながら、お店を出る。

 

 手には、ビールと唐揚げ。俺が好きなのはピリッと辛さが口に広がる唐揚げ。ビールとの相性は最高だと思う。


「よし、これで準備万端」


 二日分の食料とお茶に水は用意済。あとは、家に戻ってダウンロードしたばかりの「乙女ゲーム:聖女の願い②」を楽しむだけだ。


「先輩?」


 げっ、後輩の飯塚君か。彼は、話がちょっと長かったりするんだよな。


「お疲れ様。仕事、終わったのか?」


「はい、今日は早めに終われました。先輩も終わっているなら、飲みに行きませんか? 同期や先輩達と、これから飲み屋で集合なんですよ」


「悪い。今日は用事があるんだよ。また次の機会に誘ってくれ」


「えぇ、前もそう言って断ったじゃないですか!」


 そうだっけ? あぁ、先週の話か。あの時は乙女ゲーム「花の聖女のときめき」を攻略中だったから断ったな。あれ? その前も確か断ったような……。


「よしっ、来週は一緒に飲もう」


 人付き合いも大切だからな。一番は、ゲームだけど。


「絶対ですよ!」


「もちろん」


「あっ、やばい。約束の時間が! 先輩、来週は絶対ですからね!」


「大丈夫、忘れないように頑張るから」


「先輩、頑張るって……。そうだ、忘れないように俺が毎日声を掛けますね。『今週末は飲み会ですよ』って」


「いや、それはいい」


「ダメです。先輩は忘れそうだから」


 諦めてくれそうにないな。


「わかった。頼むよ」


 実は忘れそうで不安だったし。


「了解です。では、月曜日から始めますね! また会社で」


「あぁ、会社でな。飲み過ぎるなよ」


 笑って手を振る飯塚君と別れて、駅に向かう。

 

「さて、家に帰ろう。そしてこの連休はゲーム三昧だ!」


 「乙女ゲーム:聖女の願い①」は悪役令嬢がいない王道的ストーリーだった。それはそれで面白かったけど、ちょっと物足りなかったんだよな。②では、悪役令嬢に悪役令息まで登場するらしい。イラストは①と同じ、レイレンさん。可愛くて綺麗なイラストに、心惹かれるんだよ。

 

 駅の階段を駆け上る。

 

 待っていろ、聖女の願い! あと少しで我が家だ!


 ズルッ。


「えっ?」


 なぜか体が宙に浮く。そして、体中に走る痛み。


 もしかして、階段から落ちた? えぇ~、乙女ゲームする予定が狂うじゃないか! この連休中にクリアを目指していたのに!


『くっそ~』


 あれ?

 

 足元を見る。

 

 なぜだ? 俺がもう一人いる。


『うっわ~、すごい出血だ。これ、大丈夫なのか?』


 ……いや、アウトだろ。だって、体から俺が出てるじゃん。

 

『えっ、これが魂?』


 全身を見る。ちょっとくたびれたスーツを着た俺だと思う。鏡がないので、顔の確認はできないけど。


 いや、幽体離脱という可能性も。出血が酷い俺の体に手を伸ばす。


 スカッ。


 触れない。


『ウソ、俺……死んだの?』


 本当に?

 

 『ウソだろ! あんなに楽しみにしていたゲームをせずに? こんな呆気ない終わり方? 死ぬなら、死ぬならゲームをし終わった後だろう! イヤ、死にたくないんですが

!』


 救急隊員が慌ただしく動き回る傍で、地面に拳を叩きつけて悔しがる。チラッと寝そべっている俺を見る。

 

 戻る気配なし。

 

『そうだ。スマホに触れたらゲームができるのでは?』


 近くに落ちていた自分のスマホに手を伸ばす。


 スカッ。


 スマホを通り抜けた手を見つめる。


 まぁ、そんな気はしていたけどさ。


『くっそ~! こんなの死にきれない!』


 救急隊員に運ばれていく俺を見送る。

 

『……あぁ、行っちゃったよ~』

 


 

 階段を駆け上がって行く少年に視線を向ける。

 

『あの子は昨日もこの時間に見たな。きっと部活だな。学校は始まる時間にしては早過ぎるし』

 

 俺が死んだ日から四日が経った。なぜか、死んだ場所から動けない状態になっている。


『こういうの、なんて言うんだっけ? 呪縛霊? いや、あれは造語だ。えっと、地縛霊! そうだ地縛霊だ。でも地縛霊は、死んだ事を受け入れられなかった者がなるんじゃなかったっけ?』


 死んだ事は、理解した。心残りはあるけど、ものすご~くあるけどこの四日で諦めもついた。いや、諦めきれないけど死んじゃったから仕方ない。そう、泣いていたって仕方ないんだ。


 ユーレイが泣ける事に驚いて、すぐに涙は引っ込んだけど。


『はぁ、暇だな』


 四日も、階段を行き来する者達だけ見ていると飽きる。スマホがないからゲームもできないし。いや、そもそも触れないし。


『うわぁ。彼女、すごい疲れた表情をしているな。化粧で目の下の隈が隠しきれていないよ』


 階段を上がって来るパンツスーツ姿の女性を見て呟く。


「えっ?」


『えっ!』


 疲れた表情の女性が俺を見た。そう「見た」。

 

『あれ?』


 女性はスッと視線を逸らすと、俺の傍を通って行く。ちょっと慌てているのがわかる。


『今、目が合ったよな……』


 階段を上る女性に視線を向ける。


『待って!』


 慌てて階段を駆け上がる。でも、女性を乗せた電車は発車してしまう。


『あぁぁぁぁ』


 頭を手で抱えて、電車の後ろ姿を見る。


『行ってしまった。もっと早く反応していれば、俺の状態について相談ができたのに! いや、待てよ。あの女性は昨日も見かけた。うん、確実に見た。つまり、この駅は彼女の最寄り駅だ。という事は、待っていればまた会える!』


 よしっ、帰りを待とう。そして俺がここから動ける方法を探してもらおう。あっ……俺の代わりに乙女ゲームをしてもらうのもありかな?




『まだかな?』


 電車が駅に到着するたび、不安と期待を込めて下りてくる者達を確かめる。女性は、黒のパンツスーツ。髪はショートで、とにかく疲れた表情をしていた。


『あっ! 見つけた』

 

 電車から下りて来た者達の中に、探していた女性を見つけた。朝より疲れた表情をしているけど、彼女で間違いなし。高まる気持ちを抑えられず、女性との距離を一気に詰める。


『こんばんは。朝、会ったよね?』


「うわっ」


 しまった! ここ階段の一番上だった!


 女性が階段から落ちていく。慌てて手を伸ばすが、俺の手は彼女の手を通り過ぎてしまう。


『待って! 待って!』


 階段下に一気に下りて、女性の様子を見る。


『大丈夫? ごめん、急に声を掛けたから。どうしよう』


「大丈夫ですか?」

 

 駅員が駆け寄って女性に声を掛けているが反応はない。


『俺の時みたいに、出血はないみたいだけど……』

 

 周りを見る。心配そうに女性を見る者、動画を取る者など様々な人がいる。数日前、見た景色と同じだ。


『俺のせい、ひっ!』


 女性の体からスーッと出てくる彼女が見えた。


『ダメ~、戻って!』


 彼女を体に押し戻そうと手で押す。

 

 ぐにゅ。


『あっ、触れる』


 生きている人は触れなかったけど、魂なら触れるんだ。

 あっ、触れるなら押し戻せるかもしれない。


 ぎゅぎゅっと彼女を体の中に押す。


『これが中に入ってくれれば死なないはず』


 いや、これが正しいかなんて知らない。でも俺が殺しちゃったんだから、なんとかしないと。


『戻れ~』


 力いっぱい叫ぶと、グイっと体が引っ張られた。


『何?』


 引っ張る力は強く、そのまま彼女の元から離されそうになる。


『なんだこれ~』


 引っ張られる恐怖に、彼女に抱きつく。


『えっ?』


 女性の驚いた声は、引っ張る力がどんどん強くなっていく恐怖に気づかない。

 

「何をしている! その女性を離せ!」


 聞き覚えのない声が聞こえたけど、離したら俺はどうなるんだ?


『ムリ~、イヤだ~』


 グイッ。


『うわっ!』


 すごい力で引っ張られ、俺を何処かに連れて行こうとする。恐怖と心細さに、腕の中にいる彼女をギュッと抱きしめる。


 怖い。なんだよこれ! 本当に怖いって! えっ、俺死ぬの?

 

『イヤだ、死にたくない!』


『もう、死んでいるから。というか、これはどういう状況? あれ? もしかして、私……死んだの?』


 腕の中から、声が聞こえた。でも、それを確かめる事はできなかった。目の前がパッと明るくなって……気づいたら、見た事のない部屋にいたから。


2025年4月21日より新作を始めます。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

ほのぼのる500

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
助けたいのか、助けられたいのかw めっちゃコントに見えて、笑いが堪えきれませんでした\(//∇//)\
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ