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ミナカメシノと茜ちゃん

「人間ではない?」


「はい。私も茜ちゃんも人間ではありません」顔色ひとつ変えずに言った。


「ど、どういうことですか?」


「言葉の通り、私と茜ちゃんは人間ではないということです」

まるで、すんなり理解できない僕が悪いかのような言い方だ。僕の反応はおかしくないと思うのだが、それ以上、質問すると気を悪くするのではないかと思い、少し黙っていた。


「納得していないような顔をされていますね。でも、これからは同じ職場の仲間ですので、納得して下さい。人間ではないからといって兼人くんの害になることはないので安心して下さい。ちゃんとお給料も現金でお支払いします」

いや、お給料の心配などしていない・・・。


「兼人は納得していないのか?馬鹿なのか?」茜ちゃんという名の人外の者が僕を睨み付けながら馬鹿にしている。


「いえ、あの・・・給料の心配とか、馬鹿とかではなく、人間でなかったら、何者なのですか?人の姿で人の言葉も話していますし、人間じゃないと嫌だとか、そういうことでも無いです。ただ、頭がついて行かなくて・・・」


「嫌では無いのですね」水亀先生が明るい声で言った。


「はい。嫌では無いですし、一緒にお仕事をしたいという気持ちに変わりはありません」

 給料を貰えて、カウンセラーになるトレーニングをしてくれるなんてチャンスを逃す訳には行かない。


「それならよかったです。大したことではないと思うのですが、何故か気になる方も多いようで、皆辞めてしまうのです。本当に大したことではないのに」

 辞めるのが当たり前の反応だと思うが、この先生には全く理解ができないらしい。


「嫌では無いのですが、人間では無かったら何者なのですか?」


「見て分からないのか?私は猫又だよ」

 茜ちゃんが言っていることがさっぱり分からなかった。


「ねこまた?なんですか、それは?」


「兼人は猫又も知らないのか?そんなんでカウンセラーになれるのか?」

 カウンセラーと猫又の関係がさらにさっぱり分からなかったが、そのまま黙っていた。


「この国は長く生きていると妖怪化したりするんだよ。よく言えば、神様に近づくと言ってもいいのかもしれない。九十九神くらい聞いたことあると思うけど、物でも百年近く経つと魂を持つって言われているからね。猫も長生きすると尻尾が二つになって人の言葉を話したり、人間のような姿になれたりするんだよ。あ、狐は尻尾は九本まで増えたりするのが有名だね」

 なんか、誰もが知っている常識のように話すけど、全然、納得がいかない。


「茜さんは、猫又だとして、何年くらい生きているのですか?」


「私は二百年くらい生きてる。この辺りに長くいたから、黒船も見たことあるよ。人の姿になったのは最近だけどね」


「僕よりだいぶ先輩なのですね・・・」

 先生が、年齢は同じように見えると言ったのは、見た目だけは同じように見えるという意味だったのか。


「茜ちゃんと出会ったのは、廃仏毀釈の時期だったので、百五十年くらい前ですかね。その時でも五十年以上は生きているのだから、とても健康な猫と言えますね」

健康でも猫は五十年生きないと思う。いや、むしろ健全でないと思う。


「廃仏毀釈と先生と茜さんとの出会いは何か関係があるのですか?」


「ええ、廃仏毀釈で私が祀られていたお寺が破壊されてしまったのです。茜ちゃんはそのお寺を根城としていて、ご住職にも可愛がられていました。お寺が無くなり、ご住職と茜ちゃんは息子さん夫婦の住まいに移られたのですが、息子さんのお嫁さんが猫が好きでなかったために追い出されてしまって、残骸しかないお寺に戻ってきてしまったのです。私も茜ちゃんと同じようにホームレスになったので、境遇も一緒で話しも合い、行動を共にしました。」


「そうすると、先生も狐狸の類いなのですか?」


「いえ、私は神です」

 耳を疑うようなことを平然とした顔で言った。


「神様ですか・・・?」


「はい。皆がそう呼びます。私自身で自分が何者かを定義したことは無いのですが、神様や仏様と呼ばれていたので、そのようにしています。しかし、お寺が壊されてしまって仏様ではなくなってしまったのと、現代では、皆さんの悩みを聞くにはカウンセラーという立場が都合がよいので、人の名前を名乗っていたりします。元々の名は、アメノミナカヌシです。ミナカメシノは現代の名前っぽく文字をピックアップしたものです」

 さっぱり意味が理解できなくて、言われていることをそのまま受け入れるしかない気持ちになる。


「アメノミナカヌシ?」


「お寺では妙見菩薩と言われていました」


「みょうけんぼさつ?」

 僕が非常識なのか、全く聞いたことが無い神様と仏様の名前だった。


「すみません。神様仏様どちらのお名前も聞いたことがなくて、お話しお伺いできますか」


「私は造化三神の一柱です。神様は柱と数えます。古事記や日本書紀などに出て来ますが、登場回数は一度だけなので、印象は薄いかもしれませんね。しかし、天地開闢の時、つまり、世界が始まったとされる時に現れた神様なので、名前くらい覚えておいて下さい」


「はい・・・」


「歴史学者のトインビーは滅亡する民族の共通点の1つとして、自国の歴史を忘れた民族は滅びると言っています。さらには、十二、三歳くらいまでに民族の神話を学ばなかった民族は例外なく滅んでいるとさえ、言っています。つまり、『古事記』や『日本書紀』を日本人が読まなくなったら滅びるということですね。兼人くんのような若者が自国の神話を知ることは大切なことだと思います」


「よ、読んでおきます」

 学校の先生に久しぶりにお説教された気分だ。


「また、このカウンセリングルームには色々なもの達がやってきます。読書はたくさんしておいて下さい。カウンセラーに必要な共感力を鍛えるためにも読書は効果的です」


「色々なもの達・・・ですか?人たちではなくて?」


「はい。様々なもの達がクライアントとして来ます。茜ちゃんのような猫又や妖怪化した狐狸狢。天狗や鬼も来ますよ。天狗や鬼、神様の類は神社やお寺からの紹介が多いですが」

とんでもないカウンセリングルームに来てしまった。カウンセラーのアルバイトはしたいが、自分なんぞに務まる仕事ではないように思う。


「そんなクライアントの話しを僕が聞けるようになりますか?」


「大丈夫です。まずは勉強からですが、基本的には兼人くんは人間のクライアントの担当です。猫又や狐狸狢、九十九神は茜ちゃんの担当です。神様や鬼、天狗、伝説に出てくるようなクライアントは私が担当します。それぞれが得意分野を活かすチームワークが大切です」

 先生が言っていることは非常に常識的で、理想の上司のようなことを言っているのだが、あまりにも特殊な状況であるために、素直に感動ができない。


「分かりました。僕は人間担当で頑張ります。」


「まずはトレーニングからなので、焦らずに勉強して下さいね。期待しています」


「はい。では、また明日よろしくお願いします。」

 一刻も早くこの部屋から出たかった。嫌だからという訳では無いのだが、非現実的な話しと間違いなく目の前にある現実の間で脳みそがバグってしまっているような感じがした。とにかく、ここから早く離れて気持ちを落ち着かせたい。


「明日も絶対来てね〜」

 茜ちゃんの無邪気な明るい声を後ろに聞きながら、足早に部屋を出て、小走りで建物の外を目指した。


 建物を出た時には、いつの間にか黄昏時と言っていい時間になっていた。黄昏時というのは、現実世界と異世界が最も繋がりやすい時間だと言われているようだが、僕も異世界から現実に戻って来たのだろうか?今にも沈みそうになっている夕陽を見ながら、そんなことを思った。


 アルバイトが決まった。本当だろうか?という疑念から、水亀カウンセリングルームを検索すると、なんの不思議も無い、これと言った特徴の無いホームページが出てくる。スマフォでホームページを見ながら最寄り駅まで歩みを進めていたが、ホームページの水亀のプロフィール写真と先ほどの人物は同じであるのに、違うようにも感じる。流石に神様は無いと思うが、普通の人とは思えない雰囲気の人であるのは間違いなかった。


 駅について、姉さんにアルバイトが決まった報告の電話をした。


「姉さん、カウンセリングルーム行って来たよ。」


「へ〜、どうだった?会えた?」

 会えた?何か変な応答だ。


「水亀さんに会えたよ。明日からアルバイトすることになった。」


「え、アルバイトも決まったの?すごいじゃん、あんた、才能あるんだよ!頑張ってね。」


「うん、ありがとう。頑張るよ。」

 才能?また何か変だけど、姉も忙しいのか、電話を切りたそうな感じだし、何も言わず、電話を切った。



 電話が切れると、基子は頼りなげな弟を思い浮かべながら呟いた。

「ウチは元々憑き物落としの家系だったみたいだけど、その才能は兼人が受け継いだのかな?あの名刺も母さんの知り合いって人からもらって、私も行ったけど、誰にも会えなかったからね。あんたは憑き物落としの才能があったんだね。面白半分で渡した名刺だから、真実は黙っておこう・・・」


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