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本当のクライアント

「兼人くん、苦しげな顔をしていますが、どうされましたか?」


「いえ、急に静かになってしまったもので、なんだかちょっと寂しくて、あと、まだ、魂の話しとか、頭が付いていかなくて・・・すみません。慣れていくように努力します」


「ゆっくり慣れていって下さい。当カウンセリングルームが向き合うクライアントは御霊ですから。」

 そういうと、先生は僕の顔をじっと見つめてから、にっこりと笑った。


「あと、すみません。質問なのですが、今日の茜ちゃんのカウンセリングはカウンセリングと言えるのでしょうか?」


「そうですね〜。感情もむき出しで、泣いたり笑ったり叫んだり、クライアントの話しを聞かずに自分の想いを話したり、カウンセリングとしては大失敗のようにも見えますね。しかし、私は今日のカウンセリングは成功だと思っています。なぜだか分かりますか?」

 先生は相変わらずニコニコと笑いながら、僕を試すように質問をした。


「それは、クライアントの小夜さんが満足されたからですか?」


「いいえ、違います。」


「茜ちゃんの成長に繋がる練習になったからですか?」


「違います。カウンセラーの練習などと言ったら、クライアントに失礼になってしまいます。では、ヒントです。今回のケースのクライアントは誰でしょうか?」


「え?小夜さんじゃ・・あ、円覚さん」


「そうです。小夜さんは、円覚さんの遺言のような手紙を見て、嫌々、このカウンセリングルームに来ただけで、本当のクライアントではありません。今回の案件の本当のクライアントは円覚さんです。兼人くん正解です」


「そういうことなんですね」


「はい。だから、茜ちゃんはカウンセラーとしてはダメなように見えたかもしれませんが、当カウンセリングルームのメンバーとして立派に活躍して役目を果たしてくれました」


「円覚さんの依頼は、小夜さんと茜ちゃんを繋いで、自分がいなくなった世界でも小夜さんが元気に生きてくれることですもんね」


「はい。だから、成功です。円覚さんの穢れた魂もすっかり清められて、綺麗になって流転したはずです」


 僕は何もしていないけど、なんだか嬉しかった。魂とか言うと、心理学とか心理カウンセリングとは関係の無い非科学な感じがして、もっと言うと、胡散臭い感じがしていたけど、目の前のクライアントの本当の悩みや望みを傾聴して、クライアントの人生が健やかで清らかなものになるのであれば、それは立派なカウンセリングだと思った。


「先生、僕、心理カウンセラーになれるよう頑張りたいと思います」


「心が定まった顔をしていますね。一緒に頑張っていきましょう」


「はい」僕は僕にしかなれないカウンセラーになりたいと心から思った。


「あ、先生は理想とするカウンセラー像はありますか?」


「ええ、ありますよ。理想のカウンセラー像とはちょっと違うかもしれませんが、このカウンセリングルームを『魂が正直になれる場所』にしたいと思っています」

 僕が理解できていないのを察知して、もう一言付け加えてくれた。

「私は、魂は天命に沿っている状態が正直な状態だと思っています」


「兼人くんも自身の理想のカウンセラーを目指して頑張って下さいね。期待していますよ」


「はい!」

 僕はこれからもこのカウンセリングルームで人外のとんでもないクライアントに出会うことになることもすっかり忘れて、とても前向きで明るい気持ちになっていた。


「誰にでも悩みはある。神様も、化物も、人間も。」を読んで頂き、誠に有難うございました。

 自身が現役のカウンセラーでもあるので、少しでもカウンセリングをより身近に楽しんでもらうにどうしたらいいかな?海外からの輸入物でもあるカウンセリングをより日本的にカスタマイズするにはどうしたら良いかな?という思いを持ち、小説を書くことに挑戦しました。

 しかし、驚いたことに、書いている内に、登場人物が勝手に頭の中で会話をし始めて、それまで日々の仕事や生活のことでいっぱいだった頭が、キャラクターたちの会話で彩られる隙間ができて、とても心地よい時間を得ることができました。まさに、書くことが私にとってのカウンセリングにもなっていたことに驚きました。

 また、読んで下さる方々いることが本当に嬉しくて、感謝の気持ちでいっぱいです。きっとこの自分を見てくれる人がいるということも心の健康にはとても大切なことなのだと改めて思いました。

 本当に読んで下さって有難うございました。引き続き、小説を書くことは続けていきたいと思います。今後ともよろしくお願い致します。

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