6話
オレには、ずっと前から気になってる子がいる。
気になってる、と言うよりかは、興味を持っているとかのほうが言葉的には合ってるかも。
あれは舞踏会の日だったか。
婚約者を特に決めていないオレは、オレの顔が大変好みらしいお嬢さんたちにリップサービスしていた。ありきたりな褒め言葉ひとつでこんなに喜ぶんだから、人ってほんと単純だなと思う。
ふと、最近婚約者の出来た腐れ縁の彼は上手くやっているだろうかと気になって、何気なく彼の様子を伺った。
そこでオレは信じられないものを見た。
なんと、あのめったに笑顔なんて見せない、(見せるとしたら人を小馬鹿にしたような笑いくらいの)可愛げのない性格の彼が、裏表のない顔で笑っていたのだ。しかも、女の子と談笑している。
たしか、あの子は彼の婚約者のカミラ・セントポーリアだったはず。あの彼を笑わせるなんて、どんな人なんだろう。
彼女が気になり始めたのはそこからだった。
初めて会話をしたときの印象は、どこにでも居そうな見た目の子。でも、他のお嬢さん方よりちゃんと警戒心があるあたり、しっかりした子なんだろう。一応侯爵子息のオレのことを知らなかったっぽいのは、ちょっと予想外だったけど。
褒めてもおごることなく、オレの褒め言葉をさらりと受け止めてこちらを立ててくれる。完全にオレの主観だけど、当時14歳の令嬢にしては出来た方だと思う。婚約者が居ないからそこのとこはあまり詳しく知らないが、仮にも侯爵家に嫁がされるくらいの令嬢だからそれが当たり前なのかもしれない。
後から、あの時の彼のは、本人いわく嫁いびりならぬ婚約者いびりの一環だったのも驚いたし、物怖じせずに言い返す彼女にも目を見張った。そんなことできる子は、多分この貴族社会では珍しい部類だ。変わり種とも言える。
そんな彼女をみて、俺は「面白い子だなあ」とより興味が湧いたのだ。
・・・
「カミラちゃんとオーウェンって、この学園を卒業したら婚約を解消する予定なんだよね?」
いつの日だったか、彼から「この婚約は仮初で、親には言っていないが家を継げる年になったら互いに婚約解消する予定だ」とかいう旨を告げられたのを、ふと思い出した。
「……それが、何か?」
訝しげに、オーウェンがそう聞き返してくる。オレが何か企んでいるんじゃないかと思ってるっぽい。実際間違いではないけど。
「やだなあ、ただ聞いてみただけだよ」
そう、”これは“ただの確認。
「はあ…お前が言うと全部怪しく聞こえんだよ、アルビー」
呆れたように彼は言う。
「それは心外だなあ」
ただ、あの子の色んな表情が知りたいだけ。……例えば、恋する乙女みたいに惚れ込んだ表情とか、ね。
これは、ちょっとしたお遊びだ。オレの好奇心を満たすだけの、単純な遊び。君には決して引き出せない表情を、オレが引き出してみせようじゃない。
あの子のことを何とも思ってない君にとって、大した問題はないから安心してよね、オーウェン。
そう心の中で呟いた。