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4話

天井から吊るされた、何億と値段のするであろうシャンデリアが光を受けて眩く光る。バイキング形式の豪華な料理が小綺麗な長机に並び、高価なドレスやタキシードに身を包んだ、若々しい年齢層の貴族様方が周りで会話を楽しんでいる。

かくいう私も、まあまあ丈の長い青色のドレスを着させられているのだが、これが本当に動きづらくて仕方ない。来たばかりだがもう既に帰りたくなってきた。


三拍子の優雅なテンポが、会場に鳴り響く。

ファーストダンスの相手は勿論、


「おい、ぼけっとしてないで踊るぞ」


私の婚約者(仮)、オーウェン・ベルガモット。


どんな小言を言われるか気が気じゃないが、せっかくこの舞踏会のために苦手なダンスを練習したんだ。気合い入れろ、私。


手と手を組むと、彼の手から冷たさがじんわりと感じられた。

足元をチラチラと見ながら彼のステップに必死に合わせる。他のところを見る余裕も考える余裕もない。


「お前は大層下を見るのが好きなんだな」


下ばかり見ていると、早速頭上からからかうような声が降ってくる。

こちとら足を踏んで文句を言われないように必死にこなしているというのに、随分余裕そうだ。


「誰が好きなもんですか。今、他を見る余裕がないんです」


彼の顔を見ないで遠回しに、集中出来ないから今は話しかけないでくれと小声で反論した。が、彼はそんなことはまるで意に介さず、この前の仕返しだろうか、私の意識を逸らしてやろうとダンスの最中に度々ちょっかいをかけてくる。

こいつ、私を玩具にして、邪魔するのを楽しんでやがるな……。

さすがの私もイラついてきて、ついムキになってしまった。


「ちょっと、ちょっかいを出すのはおやめになってください……!」


そう言って前を見ると、青い瞳と目がかち合った。にい、と面白いものでも見つけたかのように、彼の目元が歪む。


「もう、足元は見なくていいのか?」


その言葉に「あっ」と思わず呟いて、慌てて視線を戻そうとする。その時に、私の滑稽な様子がツボに入ったのか、我慢しきれずくつくつと笑い出す彼が目に入った。

本当に腹立つやつだなこいつ。

私もちょっとした意趣返しで、組んでいる彼の手をありったけの力を込めて握りしめてやった。


「いっ……!?お前、この……っ」


「ふふ、ああすいません。緊張で手が滑ってしまいました」


ふん、してやったりだ。

彼がやり返そうとしたところで、ちょうど音楽の区切りが良くなったらしい。彼は誘ってきた別のご令嬢達に連れられていった。いやあ、人気者は大変そうですね(笑)

あのやり返せなくて悔しそうな顔が、面白くて仕方ない。


そういえば、いつの間にか前を見て踊れるようになっていたけれど、もしかして彼はそのために……?

いや、あのひねくれ君に限ってそれはないか。


「そこのお嬢さん、オレと踊りません?」


気がつくと、灰色の瞳をした金髪の男の子が私の傍に来ていた。まいったな。踊りは苦手だから、さっきので終わらせて壁の花にでもなっていようと思っていたんだけど。


「お誘いありがとうございます。だけど私、少し疲れてしまって……」


「そっか……それじゃあ、ちょっと立ち話でもどう?」


「それくらいなら」と了承すれば、人懐こそうな笑みを浮かべて、彼は話しかけてくる。


「オレはアルビー・ステルンベルギア。一応侯爵子息だよ」


なんと。上の位の人だったのか。まったく気がつかなかった。


「私はカミラ・セントポーリアと申します」


よそ行きの愛想笑いを貼り付けて、恭しくドレスの裾を少し上げお辞儀をする。


「そんな、堅苦しいし、敬語なんてなくていいよ〜。なんなら呼び捨てでも……」


「う〜ん、それはちょっと……アルビーさんとかで良ければ」


「まあいっか」と少し残念そうにしながらも彼は受け入れた。「あ、そうそう」と彼はまた話を続ける。


「オレ、実は君のこと知ってるんだ。オーウェン経由でね」


「知り合いだったんですか?」と聞くと、「まあ、一応友人みたいなもんかな」と返ってくる。

あの人に友人なんていたんだ...と、彼に知られでもしたらキレられそうなことが頭をよぎった。


「どんな子かなって気になって話しかけてみたんだけど、とっても可愛くて素敵なお嬢さんだね!」


「なんであいつが不満そうなのかわかんないよ〜」と彼は口を尖らせながらそう言う。

なんというか、口説きなれていそうな雰囲気はするが、彼よりかはずっと好青年っぽい。


「貴方のような素晴らしいお方に、お世辞でもそう言って頂けて嬉しいです」


「オレ、女の子に嘘はつかないよ。あ、これホントだからね?」


うさんくさ……おっといけない、口が滑るところだった。


「これからも会うことがあるだろうし、よろしく!カミラちゃん」


「ええ、よろしくお願いします。アルビーさん」


そんなこんなで、ちょっとした出会いもありながら、私は無事初めての舞踏会を終えることが出来たのだった。

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