32話
主演だからということで、演技の練習をするために以前よりもずっとふたりでいる時間が増えたのは嬉しい誤算だった。私を推薦してくれたクラスメイトには感謝しかない。
この劇のお話は前世ではまったく聞いたことがないけれど、今世のこの国では有名なロマンスらしい。前世で言うところのシンデレラみたいなものかな。
話の内容は確か、敵国の王子様とお姫様が不思議な森の花園で巡り会って恋に落ちるとかそういう王道っぽい話だったはず。なんとその王子様の見た目がオーウェンそっくりなんだそうで。まあ、彼自身は童話に出てくるような王子様なんて柄ではないと思うけれど、見た目だけで言えば確かにそういう風に見えなくもない。
空き教室で、台本を持ちながらセリフを読み上げる。王子様とお姫様が初めて出会うシーンだ。
「『あなたは?』」
「『僕はオリバー。君は?』」
「『私はローズといいます』」
「『ローズか。可愛らしい君にぴったりだ』」
「…っふふ」
台本のセリフの練習中、彼のセリフがあまりにも彼のイメージとかけ離れていて思わず吹き出してしまった。
「おい、何がおかしい」
彼が不服そうな顔をして告げる。
「いや、あまりにいつもと違いすぎてですね...」
「はああああ?俺はいつも紳士的だろ?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
そうおどけて言うと、彼が「っこのぉ...それを言ったら、お前だってそんなお淑やかな性格じゃないくせに」と言い返す。
「失礼な。立派な淑女ですー」
「淑女は自分で淑女って言わないと思うがな」
「そのセリフ、そっくりそのままお返しします」
そこまで言い合った所で、なんだかこの状況がおかしくなってふたりで吹き出した。
前と同じ距離に戻れた気がして嬉しくなる。
……この心地よい関係を壊したくないなと思ってしまった。
ふと彼の笑った顔が意外と可愛らしいことに気がついた。そんな小さなことでさえ、胸にきゅんときてしまう。恋心を自覚してから、今までどれほどの見つけた好きが積み重なっていっただろうか。
くだらない事でも楽しそうにくしゃっと笑う顔が好き。
私を呼ぶ、少し低いその声が好き。
不器用だけど、自分が悪いと思った時はちゃんと謝ってくれるところが好き。
軽口を言い合っている時の生き生きとした表情が好き。
お礼を言ったら照れて口数が減っちゃうところが好き。
たまにみせてくれるちょっとした優しさが好き。
それから……いや、挙げ始めたらキリがなくなりそうだ。つまりは、彼の全部が好きなんだ。今ではどんなところだって魅力的に感じてしまう。素直に言うのは照れくさいし気持ち悪がられたら立ち直れないから、彼に直接言うつもりは今のところないけど。
こうやって、日常の中で彼の新たな好きなところを見つけている間は、片想いでも恋って楽しいものだなと思えるのだ。
「……オーウェン様」
「ん、何だ?」
「最後の祭典、一緒に成功させましょうね」
「…ああ、そうだな」
少しでも、この祭典がいい思い出になりますように。
そんなことを願って、私たちはまた練習を再開させた。




