31話
あれから私たちは進級して3年生になった。
この思いを自覚したはいいものの、何も進展がないまま時間だけが経っていく。
前世でも大した恋愛経験なんてなかったのに、どうやってアピールしたらいいのかなんてわかるはずもなく。それに、なんだか彼と前よりも距離感が遠くなった気がしてならない。
もしや私の気持ちがバレて避けられ……いやいや、そんなまさか。…本当にそうだったらどうしよう。嫌われてしまっただろうか。
まあ、それもそうか。元々婚約解消する予定だったわけだし、今更私のことそんな目で見れるわけないよね。
ぐるぐるぐるぐると同じマイナスな考えの堂々巡りで何も解決しない。どうしたらいいのかさっぱりで、途方に暮れてしまう。
「カミラ、どうしたの?元気がないようだけれど……」
リナリアがそう心配そうに聞いてくる。彼女の後ろに後光がさしてるように見えてきた……。
ここは恋愛経験のある彼女に聞いてみた方が得策かもしれない。
「あのね、リナリア。その……好きな人にアピールするには、どうしたらいいのかな」
藁にもすがる思いでそう相談すると彼女な目をまん丸にして「カミラ、もしかして……!」と驚いたように言う。
「……うん。私、オーウェン様のことが…好きに、なってしまったみたいで。でも、なんだか前よりも距離ができた気がするし、嫌われてるかも……」
だんだんと声が小さくなっていく。
不安をこぼすと、彼女は慈愛のある微笑みを浮かべた。
「これは私の想像でしかないんだけど…カミラはオーウェン様にそこまで嫌われてないと思うわ」
「そう、だといいな」
「アドバイスにはなってないかもしれないけれど、そのままのあなたで充分素敵よ」
「どう思われてるか不安だからって、焦らないで。いつも通り、自然体でいいの。きっとうまくいくわ」
「リナリア……」
彼女のその言葉で勇気を貰える。ずっと、好きになってもらうためにはとにかく何かしなきゃって焦ってた。けど…そっか、いつも通りでもいいんだ。焦らなくてもいいんだ。
「ありがとう、リナリア」
リナリアが友達でよかった。
●○●○
時間が経てばちょっとはマシになるだろうと思っていたのに、むしろ諦めがつくどころか、気持ちは日に日に増していくばかり。なんなら前より悪化しているような気さえしてくる。
それじゃいけないから、彼女とは距離を置こうと思っていたのに。
黒板には『主役 オーウェン・ベルガモット、ヒロイン カミラ・セントポーリア』の文字。まさか、劇の主人公とヒロインに俺たちが選ばれるなんて。しかもこの国なら誰もが知ってる恋愛モノの話。
主人公とヒロインの役だけまだ決まっていなかったから、どの役にもなっていない人を集めてジャンケンで決めようとか言い出したのはどこのどいつだったか。不運なことにジャンケンで1人負けした俺は主役に抜擢されてしまった。
それで、クラスメイトのひとりが「だったらヒロインは婚約者のカミラさんでいいんじゃないか」とか言い出して、それでこんなことに……。
カミラは「せっかくですし一緒に頑張りましょうか」なんて呑気に言うし。おまえ、それでいいのかよ。恋愛モノだぞ、恋愛モノ。アルビーをちらっと見るが、特に不安そうな様子もない。
これが器の大きさってやつか?そうなのか?
……しょうがない、俺も腹を括るしかないみたいだ。どうせ俺の恋は叶わないのだし、つかの間の夢だと思おう。
こうして、人生最後の祭典の準備が始まった。




