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30話

「あれ、おかしいな……」


寮の自室で使用人さんに手伝ってもらいながら、そこらじゅうを探し回る。お気に入りだった赤い花のハンカチ。確かにポケットに入れておいたはずなのに、全く見当たらない。


「もしかしたら、寮ではなく本校のどこかに落ちているのかもしれませんね」


探すのを手伝ってくれた使用人さんがそう言う。


「そっか……」


これだけ探しても出てこないのならしょうがない、とりあえず登校する準備をしないと。

使用人さんにお礼を述べ、少し落ち込んだ気分のまま、朝の支度を済ませた。


・・・


「おい」


少し低く落ち着いた声が耳に届く。ただ声を聞いただけなのに、不覚にも心臓が高鳴ってしまう。


「ノアから聞いたが、このハンカチお前のだろ?落としてたぞ」


彼が手渡してきたのは、まさしく私が探していた赤い花のハンカチそのものだった。

好きな人に話しかけられる上に失くしたものも見つかるなんて、今日はなんて運がいいんだろう。


「ありがとうございます!助かりました」


「このハンカチ、お気に入りなので失くして困ってたんです」


「よかったぁ……」と小さくほっと一息つく。

ふと、こちらを見るオーウェンの横髪が少し跳ねていることに気づいた。普段は自分で髪を整えているとは聞いたが、なおす時間がなかったのだろうか。本人は全く気づいて無さそうだ。


「オーウェン様、少し屈んでいただいても?」


●○●○


「オーウェン様、少し屈んでいただいても?」


「あ、ああ……」


何をされるんだろうか。言われた通りに屈んでやると彼女の手が伸びてくる。このくらい近いことなんてざらにあったのに、心臓の音が早くなっていく。


今まで、どうしていたんだっけ。どうすれば、このそわそわと落ち着かない気持ちが収まるんだっけ。一度この距離を意識してしまうと、恋をする以前の自分がどうしていたかなんてもう思い出せなかった。


「髪が少し乱れてましたよ。案外可愛らしいとこもあるんですね」


思わずごくりと生唾を飲み込む。あまりに綺麗に笑うものだから、つい見とれてしまった。


ああもう。なんでこんなにも近いのに、俺はおまえのいちばんじゃないんだ。


「っ……」


「あっ、ごめんなさい。私、勝手に……」


「いや、いい。なおしてくれただけなんだろ?なら別に、俺は構わない」


こんな、好きでもない男の傍にいたくないことなんて、嫌でもわかってる。駄目だってわかってるのに。

彼女を離したくない。そばにいて欲しい。あいつじゃなくて、俺を、好きになって欲しい。


…もう少し、あと少しだけ、知らないフリをしよう。ちゃんと、この気持ちを諦めきれるまで。

どうせ解消する予定だった関係だ。せめて良き友人として、今この時くらい共にいることをどうか許してくれ。


……勝手に好きになって、ごめん。


心の中で、そう呟いた。


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