28話
みんなが寮に帰宅したりする中、人気のない教室でせっせと役員の仕事に励む。
ようやくこの役員の仕事も終わる。二年連続は流石にきつかったなあ。来年はもういちばん先輩になるのか…。
そんなことを考えながら、相方のアルビーと一緒に仕事を片付けていた。
「ねえ、恋と友情の違いってなんだと思う?」
作業が終わり、不意に彼がそんなことを聞いてきた。
「なんですか、藪から棒に」
「ちょっとした雑談だよ、雑談」
恋と友情の違いか……。好きな人ができたらこんなことしてみたい!とかは考えたことあったけれど、恋と友情の違いなんて今まであんまり考えたことなかったな。そもそも恋をしたことがないのに違いなんてよくわからないし。
「そうですね…うーん…ふとした時に相手のことを考えているかいないか、とか」
とりあえず、巷でよく聞くような当たり障りない答えを言っておく。
「それもあるよね。よく言われるのは『キスできるかできないか』らしいよ。勿論口に、だけど」
「『キス』ですか……。恋か友情か判断するためにとは言え、仲の良い人の口にキスできるかなんて、普段中々考えないですよね…」
キス……キス、か。
1年生の時のオーウェンとの事故チューが一瞬フラッシュバックしたが、慌てて脳内からかき消した。ちがう、あれはそんなんじゃないってば。
「…君となら『キス』できるよ、オレ」
「……え?」
いま、なんて。
突然の言葉に、驚きのあまり固まってしまう。
「もうこの際、はっきり言わせてもらうね」
「君が好き。一人の人間としてもだし、恋愛対象としても君のことが好きだよ」
「もしオレを選んでくれるのなら、オレと恋仲になってください」
私が状況を飲み込めずにいる中、目の前のアルビーは真剣な顔をして私のことを真っ直ぐな瞳で見つめていた。
●○●○
寮に帰る途中、廊下にハンカチが落ちているのに気がついた。
モナルダの花が刺繍されたハンカチ。モナルダの別名は…ベルガモット、だったか。
「あれ、それ確かカミラさんのじゃない?」
横にいたノアがそう言う。
「そうなのか?」
「うん。だいぶ前だけどそれ買ってるとこ見た事あるよ」
俺と同じ名前をもつ花……偶然、だろうか。もしかしたらと勘違いしそうになる。…流石にそれは考えすぎか。
「あいつって役員だし、まだ教室にいるよな」
「そうだろうけど…」
今から渡しに行ったら、ちょっとくらいは会話出来るかもしれない。些細なことでもいいから少しでも関わりたいと思うのは、はたから見たら気持ち悪いと思われるかもしれないけど。
「今から届けに行ってくる」
そう一言だけ言ってその場を後にする。
はやる気持ちを抑え、少し駆け足気味になりながらも俺は教室に向かった。
・・・
いつもの教室が見えてきた。中に人のいる気配がする。2人分の声。ひとつはカミラので、もうひとつは多分同じ役員のアルビーのだろう。
教室を覗こうとして、扉の近くに差し掛かった時だった。
「…君となら『キス』できるよ、オレ」
……は?
思わず足を止める。どうやら自分は、最悪のタイミングで訪れてしまったらしい。
どう考えても入っていけそうにない雰囲気。引き返そうかと思ったが、事の顛末が気になってしまい、足がその場に縫い付けられたみたいに動かない。
「君が好き。一人の人間としてもだし、恋愛対象としても君のことが好きだよ」
「もしオレを選んでくれるのなら、オレと恋仲になってください」
嫌だ。やめろ。聞きたくない。
聞きたくないのに、身動きが取れない。冷や汗が出てきて、自分にとって嫌な想像ばかりが頭に浮かぶ。そんな未来なんて来るなと、最低で自分勝手な願いが頭の中を埋め尽くす。神様なんて信じてないくせに、必死に何かに縋るように祈ってしまう。
お願いだから、それ以上はやめてくれ。他のものなら何でもいくらでもやるから、そいつだけは。
「ありがとうございます」
頼む、それだけはどうか。
「私の事を好きになってくれて」
断って。
「あなたのその気持ち、とっても嬉しい」




