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27話

最近、オーウェンの様子がおかしい。

言動こそ一応以前と大差ないのだが、なんかこう例えば話していると時折愛玩動物を見るような顔でふっと柔らかく笑ったり、重い荷物を運んでいると何も言わずにさらっと持ってくれたり。

彼の態度が前よりも丸くなったような気がするのは、私の気のせいなんだろうか。それとも最近になって紳士的な振る舞いを身につけたとか?ハリボテの婚約者にそんなことしなくたって別に構わないだろうに。


私がそんなことを気にしても仕方がないのだけれど、そういう風に何気なく優しくされると心臓のあたりがむずむずしてしまう。

そうだ。もしかすると、彼には何か私にして欲しいことでもあるんじゃないか。さては、先に恩を売っとこうという作戦だな。


「ということで、何かひとつ何でも言う事を聞いてあげますよ」


「いや、何が『ということで』だ」


話が全くと言っていいほど呑み込めていないオーウェンがそう言う。


「ええと、ほら、最近はいろいろ助かっているので」


「はあ?俺は別に何も……」


「え、何もないんですか?『何でも』なんですよ?」


「『何でも』……」と彼は私の言葉を反復している。さあ、なんでもドンと来いだ。

彼は少しの間考えて、真面目な顔をして答えた。


「……じゃあ、今度の休みに買い物に付き合え」


「買い物ですか?」


「ああ」


意外と普通なお願いで少し驚く。

てっきり面倒な課題を押し付けられたり、今から面白い事しろとか、崇め奉れとか言われたりするものだとばかり……まてよ。わかった!荷物持ちか!それかひとりじゃ入りづらいお店だからとかか!

まあ、それくらいなら私でもできそうだし、やってやろうじゃないか。

無茶なお願いとかじゃなくてよかったと安心していると、オーウェンがまた口を開く。


「あと、その『何でも』って言うのは、他のやつにも言ってるのか?」


「…?オーウェン様だけしか言ってませんけど」


「っ…ああ、そう。そうか」


やっぱり様子のおかしいオーウェンを横目で見ながら、ふたりで今度の休みの予定を立てた。


これは余談だが、荷物持ちどころか私の荷物を代わりに持たれたし、なんなら彼より私の方が楽しんでしまったことをここに記しておく。


●○●○


以前は彼女に対してこんなことなんてなかったのに、あの日から、彼女のそばに居ると心がそわそわと落ち着かなくなってしまった。でも、そのそわそわも全然嫌じゃなくて。


その気持ちを顔に出さないようにしようと努めても、彼女の前だと勝手に頬が緩む。そんな腑抜けたカッコ悪い自分を見せないように、つい悪態をついてしまうのだ。まるで何も成長できていない。


今だってそうだ。

せっかく学園外でふたりきりになれたっていうのに俺ばっかり意識して、怒らせるような余計なことばっか言っている。彼女にどうにか意識させたいくせに、気持ちがバレるのが怖くて結局憎まれ口をたたいて誤魔化す。

どうやったら素直になれるんだ。こんなこと経験したことのない俺には完全にお手上げ状態だった。


「オーウェン様、次はどこに行くんです?」


カミラはそうにっこり笑って告げる。

この笑顔が見れただけでなんだか得をした気分になってしまう。


「あー…じゃあ、おまえのオススメのところで」


「いいんですか?」


「ああ。イマイチだったらおまえの責任な」


「ふん、そんなこと思えないくらい、いい場所に連れて行ってやりますとも」


彼女は鼻歌でも歌い出しそうなほどご機嫌だ。

……嫌なところだってあったはずなのに、後から思い返すと綺麗な思い出ばかりなのは、惚れた欲目ってやつなのかもな。


「ほら、こっちです」


鈍いおまえは、俺がおまえのことをどう思ってるかなんてきっと知らないだろう。


もしお前のことが好きだと言ったら、お前はどんな顔をするんだろうか。

俺のことをそんなふうに見たことがないって困惑する?

冗談はやめてくれと不満げな顔をする?

変なものでも食べたのかと心配する?

もしかしたら、本当にもしかしたら、「私もです」って微笑んで……...はあ、だめだ。どんなに考えたってやっぱりわからない。


ああもう…初対面であんなことを言った手前、「本物の婚約者にならないか」なんて言葉、どうやって切り出せばいいんだ。


「オーウェン様、楽しんでます?」


「……まあ、それなりにはな」


「もー、なんですかそれ」


なあ、おまえは今何を考えてる?


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