24話
舞台袖には私以外のこの場に出ることになった子達がスタンバイしていた。
この世界では珍しく着物っぽい衣装を着ている子がいる。和風の服なんて久しぶりというか、前世ぶりというか。もしかしたらこの世界にも日本みたいな場所があるのかもしれない。あ、あっちは中華風のドレスだ。ウエディング風のドレスを着ている子もいるみたい。流石貴族。お金がかかっているだけあってクオリティが高ぇ…。これ素材だけで一体何円するんだ…。
「次の方、ご準備をどうぞ」
とうとう来た。
幕をくぐると、スポットライトの眩しい光が目に入る。ざわざわと人が騒ぐ中、ランウェイを歩いてセンターまで行かなければならない。
人目が多くて怖気づいてしまいそうな時、ラピスラズリみたいな青い目と目がかちあった。
オーウェンだ。
彼が見ているんだ、中途半端なものでは大文句を言われるに違いない。そう思うと、彼が文句も言えないくらいにぎゃふんと言わせたくなって、つい先程まではビビっていたが気が引き締まった。
ふふ、今に見てなさい。そう笑みを浮かべて彼に目配せして、胸を張って歩きついにセンターについた。淑女らしくドレスのすそを少し上げてお辞儀をする。
何十にも重なった拍手の音が耳に届いた。
●○●○
スターチス嬢に「カミラがファッションショーに出るそうなので見に行きましょう!」とノアと共に誘われて、面白半分でやってきた。アルビーは役員の仕事やらで遅れてくるらしい。
周りはかなりの人で賑わっていて、舞台ではまとった服を主に女子生徒たちが1人ずつアピールしている。
そろそろ彼女の出番だ。
舞台袖から出てきたその顔は、少し緊張で強ばっている。大丈夫なのか、あいつ?何も無いところでずっこけやしないだろうな。
そんなことを思っていると、その瞳と視線が合った。その瞬間、さっきまでの愛想のない顔が嘘みたいにふわりと緩んで、彼女はにっと悪戯な笑みを浮かべた。
心臓をがしっと鷲掴まれたような感覚。視界がちかちかする。彼女の周りだけ星が煌めいているみたいだ。
他の生徒が彼女とすれ違ってランウェイを歩いている間も、彼女ばかりが目に映る。
あれだけ頑なに認めてこなかったけれど、ここまでくるともう認めざるを得なかった。
だって、この目はこんなにも彼女に、カミラに釘付けで、そらすことさえ叶わないのだから。きっとこの瞬間のことを、俺は一生忘れることは無いだろう。
ああ、これが『恋におちる』ってことなんだと、その時の俺は直感した。




