23話
祭典の準備は前年と比べて順調……なはずだった。
舞踏会や結婚式とかで着るような豪華なドレスを身にまとい、私は今舞台袖で待機している。
どうしてこんなことになったかって?
それは前日に遡る。
・・・
あらかた役員の祭典関連の作業も終わった頃。
急に手芸のクラブ活動をしているクラスメイトに部室に呼び出され「私の代わりに学園主催のファッションショーに出てください!お願いします!!」と勢いよく頭を下げられたのが始まり。
話を聞いてみれば、どうやら彼女は前の日に不幸なことに足を捻ってしまったらしい。一応何とか歩けないこともないが、見栄え的な意味でも大事をとってという意味でも、祭典の日に開催予定のファッションショーに出られなくなってしまった。しかし、せっかく必死に頑張って作ったドレスが日の目を浴びないとなると悔いが残る。そこで役員であり体型もさほど変わらない私が選ばれた、と。
え、ほんとにその選択あってる??間違えてない??
「私なんかでは、とても……」
「そこをなんとか……!!」
彼女は必死に頼み込んでいる。どうしよう、困ったな……。
ふと、部室の横に鎮座している彼女が作ったドレスに目が止まった。
パフスリーブのついた、ピンクに近い淡い赤と白でまとめられているエンパイアラインのドレス。私が普段着るような暗めのものとは違い、パステルカラーらしく柔らかい印象を受ける。
きっと、丹精込めてつくったんだろう。所々にこだわりが見受けられる。
確かに、このまま着られなかったらこのドレスがもったいない。
「………わかりました。あなたの作ったその素敵なドレス、私が着せていただいても?」
「…!もちろん!」
「助かりますありがとうございます!」なんて言って彼女は私の手を握りぶんぶんと振る。まさかそこまで喜んで貰えるとは。
ファッションショーに出るための微調整で、あらかた終わったとはいえ残りの仕事を全部、同じ役員のアルビーに任せることになってしまった。が、経緯を話すとアルビーは快く引き受けてくれた。
「同じ役員のよしみでしょ?あ、なんだったらついでにそのファッションショーも手伝うよ」
「本当にいいんですか?」
「うん!カミラちゃんには特別だよ」
「ありがとうございます、アルビーさん」
うう、優しさに思わず涙が出そうだ。ただただいい人……っ!最初胡散臭いとか思ってごめんよほんと。
そんなこんなで、私はファッションショーに出ることになったのだ。
・・・
そして今日、本番当日。
やはり学園主催とは言ってもファッションショーというだけあって、かなりの人が集まっている。どうやらオーウェンやリナリア、ノアも見に来ているらしい。公開処刑か??
こういう場はどうも苦手だ。人の目が気になってしまう。いやいや、引き受けたからにはちゃんとこなさなければ。
「大丈夫?」と舞台裏で一緒に待機してくれていたアルビーが声をかけてくれる。同じ役員だからとここまでついてきてくれた彼には頭が上がらない。
「私がここにいるなんて場違いじゃないかと思うと、不安になってしまって」
そう弱音を零すと、彼はいつもと違う真面目な顔をして、口を開いた。
「安心して、すっごくキレイだよ。……攫っちゃいたいくらいに」
「へっ?」
いつものお世辞……じゃ、ない?真意をはかりかねている間に順番が回ってきたようで、袖のほうに来てくれと係の人に呼ばれてしまった。
「いつも通りのカミラちゃんで大丈夫だよ!いってらっしゃい」
「っはい!」
彼にそう笑顔で送り出されて、何とかなりそうな気がしてきた。
あの子のためにもこのドレスのためにも、ファッションショーを成功させよう。
私は一歩踏み出した。




