21話
ほんと…なにしてんのさ、オーウェン。
砂の城を作るのに熱中していたせいで、事態に気づくのが遅れてしまったオレもあれだけど。
砂をはたいて、彼女のそばに近づく。
「僕、オーウェンの所にいってくるよ」
「2人をよろしくね」とこの中でいちばん落ち着きのあるノアが、オーウェンを追いかけに行った。
「カミラ、大丈夫…?」
リナリアちゃんがおずおずとそう聞く。
「……うん」
そんな鼻声で言ったって、説得力なんてあるわけがないのに。
オレ、君には泣いている顔よりも笑顔でいて欲しいんだ。
「…だいじょーぶ。きっと仲直りできるよ」
好きな子なんてはじめてできたから、どう大切にすればいいかなんてわからない。けど、自分なりに精一杯考えて、レディに失礼にならない程度に背中をぽんぽんと擦りながら慰めることにした。
「そう、ですよね」
ぎこちないながらも、彼女は笑顔を作って見せる。うーん…これであってるのか分からないけど、ひとまずは大丈夫そう、かな…。
オーウェンはきっと自分でもわかってないんだ。彼女に惹かれはじめていることも、どうすればいいのかも。
ほんと、君以上に不器用なやつはいないよ。君が気づかないようなら、オレが彼女をとっちゃうんだからね。
オレ、悪いけどあの時と違って本気だから。
●○●○
ちょっと離れたら痛みもいらいらもおさまるだろうと思ったのに、ちっともよくならない。それどころか段々酷くなっていく。
階段をのぼって、近くのベンチに腰掛ける。
誰かの近づいてくる足音がして、顔を上げるとノアがそこに立っていた。
「何の用だ、ノア」
「ただのお節介だよ、オーウェン」
俺がいらついていても、彼は変わらず落ち着き払った態度で話しかけてきた。こういう時、彼は物怖じしない節がある。
「カミラさん、泣いてたよ」
「...は、泣いてた、だって?」
皮肉を言ったら倍で返してくる、あいつが?
「あれ、気づいてなかったんだ。君が足早に去った後、彼女傷ついた顔してた」
そのことが信じられなくて、思わず口を噤む。
「何で急にあんなこと言ったのさ」
「俺は、あいつの態度がご令嬢としてどうかと思って...」
「ふーん...僕には、嫉妬して彼女に八つ当たりしているようにしか見えなかったけど?」
建前をすぐ見抜かれて、途端に俺は何も言えなくなってしまった。
「君は本当に、昔から不器用だね」
「……俺だって、あんなこと言うつもりじゃなかった」
何とか絞り出した一言は言い訳じみていて、より一層自分が惨めになる。
「はあ…俺、カッコ悪……」
「…僕からひとことだけ言わせてもらうけど、早めに仲直りしたほうがきっと残りの修学旅行も楽しいよ」
そんなこと、俺だってわかってる。
わかってるけど、今更どの面下げて謝ればいいんだ。
「とりあえずさ、合流しよう?」
「……ああ」と一言だけ返して、俺は彼と一緒に合流しに戻った。
●○●○
喧嘩したばかりで正直オーウェンといるのは気まずい。別の場所に移動する際に、周りから少し距離を置きながらついて行く。
いつもの言い合いと違って、あの時の彼の言葉は普段よりも何だか刺々しかった。
何であんなに怒ってたんだろう。私が何かしたんだろうか。だめだ、考えても全然わからない。
俯きながら悶々と悩んでいたら、いつの間にか見覚えのないところまで来ていた。
知らない土地で、迷子だなんて。
周りは知らない人だらけで、世界から自分ひとりだけが取り残されたみたいだ。心細くて、不安が押し寄せてくる。
ウロウロしていると、急に後ろから誰かに手を掴まれた。
どうしよう。怖い。誰か、だれか。
「見つけた!……ッのバカ!何してたんだよ!」
「オーウェン様……?」
どうやら、私の手を掴んだのは彼だったようだ。
「どこほっつき歩いてんだ、全く。スターチス嬢もアルビーもノアも皆心配したんだぞ!!」
「ごめんなさ……」
安心やら困惑やらが混ざって、また泣きそうになる。そんな私をみて、オーウェンがあたふたした。
「……っ、悪かった」
「へ…?」
空耳だろうか。なんか意外なセリフが聞こえてきた気がするんだけれど。
ポカンとしていると、伝わってないのを察知したオーウェンがしどろもどろになりながらも口を開く。
「だから、悪かったな!その、さっき、キツく当たったから」
彼は俯きがちに視線をさまよわせている。
全然、空耳じゃなかった。
彼が素直に謝ったのが珍しくて、なんだかもういいかという気になってしまう。
「よくわかりませんが、あなたが元に戻ったみたいなのでもういいですよ」
「そういえば、どうして怒ってたんです?」と聞くと「それは言わない!」と強い口調で返された。
「でも、なんでか分からないとまた怒らせてしまいますし…」と吐露すると少し考えて彼は言った。
「じゃあ…あいつらのとこに戻るまで、とりあえず手はこうしとけ」
彼は私の手首を握るのをやめて、片方の掌で私のを優しく包み込んだ。何だか恋人が手を繋ぐみたいな感じだ。
「手、ですか?」
「まっ、また迷子になったら困るし…少しくらいこういうことしてないと、周りに怪しまれるだろ」
なるほど、迷子防止か。
つい先程迷子になってしまったのは事実だし、ここは受け入れておこう。
「ふふ、そうですね」
結局なんで不服そうだったのかよくわからないままだけど、まあいっか。
機嫌が戻ったらしい彼に連れられて、軽い足取りでみんなのもとに向かった。




