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20話

「カーミーラちゃん」


海のすぐ側にあるお土産屋の店内で5人それぞれ棚を見ていれば、アルビーが彼女の肩をぽんと叩き、後ろから覗き込んでいた。


「どうしたんです、アルビーさん」


「あのね、さっき…」


そこから先は、周りが賑わっているせいであまり聞こえなかった。


…なんか前より、距離近くなってないか?前までそんなんじゃなかっただろ。いや、普通にただ仲良くなっただけ?

アルビーが彼女に耳打ちして、それを聞いた彼女がクスッと笑ったのが視界に映った。頬をつんつんしたりしちゃってまあ、随分と楽しそうなことで。


自身の胸に感じた違和感。あえて形容するなら、それは『もや』っとしている。『もや』っとするたび、何か得体の知れないものが湧いてでてくる。嫌悪感ともちょっと違う気がするし、不快感とも言い難い。


というか今までなんとも思ってなかったけど、「カミラちゃん」と「アルビーさん」って何だ。俺よりよっぽど婚約者みたいじゃないか。


一度俺の胸に植え付けられたその『もや』っとしたものは、そのままなかなか消えてくれなかった。


・・・


それぞれ買い物が済んで店から出て浜辺までくると、同じ学園の生徒が集まっているのが見えた。

海に面していないところに住んでいるやつらにとっては、この景色が珍しいのだろう。俺も海自体はあまり馴染みは無い。海に面している辺りに住んでいるカミラにとっては見慣れたものだろうと思っていたが、自分のとこで見るのとはまた違うらしい。


ノアやアルビーに誰がいちばん綺麗な城を作れるか、なんて妙な勝負を持ちかけられて、渋々砂をいじる。カミラとスターチス嬢はその光景を微笑ましそうに見つめている。…スターチス嬢はどちらかと言うと主にノアを見つめているようだが。


「あ、カミラさん!」


急に別のグループの男がやってきてそう呼ぶのが聞こえてきた。「あら、ジョン様。ご機嫌よう」と彼女は挨拶を返す。


確かええと…伯爵家んとこの次男だっけか。そいつはカミラを見つけると、浮かれたような締まらない顔をして、なんとも嬉しそうに話しかけにきた。どうやら今年の役員を通して仲良くなったようだ。


一言二言だけ交わして去るのかと思ったら、思ったより結構長い間話している。そいつのその目はまだ一緒にいたいと雄弁に語っていた。


なんだこいつ。すぐ近くに婚約者がいる令嬢に対して、そんな下心を丸出しにして話しかけるなんて礼儀がなってな……いやいや、なんで俺がこんなこと気にしなくちゃならないんだ。婚約者といったって所詮はかりそめで、最終的には解消する予定なのに。


「…それで、このアイスがとても美味しくてね」


そいつは手元のアイスを見せる。


「そうでしたか。…あら、頬に少しついていますよ」


そう言って彼女は懐から白いハンカチを取り出して、そいつの頬をそっと拭った。そいつの顔は途端に赤くなって、照れくさそうに頭を搔く。そうこうしているとグループのメンバーに呼ばれたのか「じゃあね」と名残惜しそうに去って行った。


さっきまでは『もや』っとしていたのに、今度は『ずき』っと鈍い痛みのようなものが走った。


そんな近い距離、誰にでも許すのかよ。あの数ヶ月ちょっと関わった次男坊と、俺は同じ扱いか。

今まで気にならなかったようなことが気になって仕方がない。

もう、なんなんだよ。なんでこんなに……。


それは次第にいらいらへと変わっていく。

いらいらするのは暑いせいか、それとも。


「お城の調子はどうです?オーウェン様」


こちらの心情なんて知りもしない彼女が、また能天気そうな笑みで問いかけてくる。

なんでこんなタイミングに限って、おまえは話しかけてくるんだ。

ずきずき、いらいら。感情の整理ができない。


「オーウェン様?」


「……」


「どうしたんです、なんで急に……」


今更俺の様子がおかしいことに気づいたのか、眉を下げて顔をのぞきこんできた。

やめろ、俺の中に入ってくんな。俺は、振り回されたくないんだよ。


「…別に?」


「ただ一応婚約者がいるていで他の男に愛想を振りまくのは、俺はどうかと思うがな」


つとめて冷静に話そうとしたのに、つい余計なことまで口走ってしまう。

なんの事かわからなかったのか、「はい?」と彼女は聞き返す。それすらもいらいらを助長させた。


「聞こえなかったか?そんな風に色んなやつに色目使ってると、セントポーリア家のご令嬢は男を手玉にとって弄ぶ尻軽女だと言われても仕方ないと言ったんだ」


「尻軽って...」


「全く、近寄ってくる相手も相手でどうかしてる」


「なっ、はあ!?ただ仲良くしてくれてるだけじゃないですか!」


「さあ、どうだか。お前も本当は満更でもないんだろ?良かったじゃないか、他の嫁ぎ先候補ができて」


「そんな言い方…!」


そこまで言って、しまった言い過ぎたとようやく正気に戻ったが、もう遅かった。


「…っもういいです。あなたが私のことをどう思っているのか、改めてよく分かりました」


「あなたなんて知りません。顔も見たくない」


ただそう言われただけなのに、頭をがつんと殴られたような衝撃。

自業自得だ。だって、あんなに侮辱したんだから。


「……ああ、そうかよ」


自分が思ったより弱々しい声が出る。

……顔も見たくないのなら、こんなとこにいたって仕方ない。

俺は後ろを振り返らずに浜辺から立ち去った。


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