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14話

「イーサン・ベルガモット様より、2人部屋でのご予約となっておりますが」


「「え?」」


●○●○


なんで、どうしてこうなった。


今このひとときだけはあの面倒な家から逃れられると思っていたら、こいつと同室だって?

しかもランクの高い宿だから他の部屋も満室?

よくよく従業員の彼と話してみれば、両親の差し出口で2人部屋だと言うじゃないか。「結婚するんだから今同じ部屋でもどうせ変わらない」って…年頃の男女ふたりだぞ?そんな都合で俺を振り回すなよ…。冗談じゃない。というかそもそも俺たちは合意の上で数年後に婚約は解消予定だがな。


話が逸れたが、俺は1人でゆっくりと過ごしたい主義なのだ。自分の生活圏に、例えよく見知った人物と言えど人がいるというのは...。


「あ、私ソファで寝ますのでベッドはどうぞお使いくださいな」


「...はぁ?」


「だって、お互いこの状況は不本意だったわけですし、仕方ないのでベッドはお譲り致します。貸し1ですからね」


いやいやいやいや、なぜそうなる。


「いや、いい。お前がベッドで寝ろ。伯爵家のご令嬢をソファで寝かせたなんて噂が立ってみろ、面倒事が増えるだけだ」


「それでしたら私だって、侯爵家のご子息をソファで寝かせたなんて親に知られでもしたら大目玉を食らってしまいます」


いやいや、と互いに譲らない状況が続く。ほんと、変なところで頑固だよなこいつ。


「分かりました!じゃあもうベッドで背を向けて寝ましょう!」


「これならいいですよね」と半ば投げやりに彼女はそう言い放った。

確かにまだマシかもしれないが...。

とりあえず承諾したふりだけしようと思っていたら、そんなことはお見通しだったらしく、ベッドで横になるまで見張られてしまった。


・・・


明日もあるし、さっさと寝てしまおう。

ようやく瞼が重くなってきたときだった。

背中にとん、と何かが当たる。頭だろうか。もぞもぞと動き、ほんのりと温かみを感じる。


「ん......」


既に眠りに落ちた彼女が寝返りをうったようだ。

そこまではまだよかった。それくらいならまあ、ちょっと心臓が跳ねたくらいで、狼狽えるほどの大したことではなかった。

問題はその後だ。


あろうことか彼女は俺の足に自身の足を絡め、身体を密着させて、きゅっと服の裾を握って来たではないか。


流石に寝相が悪すぎやしないか。俺は抱き枕じゃないんだぞ。というかお前実は起きてるんじゃないだろうな。なんで俺はこんな……。

せっかくさっきまで穏やかだった己の頭の中が騒がしくなる。

彼女が背中にピッタリとくっついているから、振り返ろうにも振り返れない。それに背中に当たるこの柔らかいのは……。


…やめだ、やめ。これ以上は駄目だ。考えたら負けのやつだ、きっと。

俺はそんな目でこいつを見ているわけじゃない。こういう時はそう、素数を数えるんだ。


結局、朝日がのぼるような時間になっても眠れず、数えた素数は4桁を突破した。


●○●○


「大丈夫ですか?」


隈をつくったまま若干ぽわぽわしている彼が流石にちょっと心配になって思わずそう聞いた。


「…………ああ。そうだ、そすう...にせんにじゅういち...」


素数?唐突に何を言い出すんだ。どうしたんだこの人。


「え、なんで素数...?というか、2021は素数じゃありませんって」


「…………ああ、そうか」


「あの、その...すみません。人が近くにいるだけでそこまで眠れなくなるとは...」


以前確か、他に人がいる空間じゃあまり眠れないと愚痴っていたが、これは思ったよりもだな。

申し訳程度に謝罪すると彼は「いや、そうじゃ…………ん...?そう、なのか……?」と首を捻る。


「え、ええ...?いつもの威勢はどうしたんですか...」


思わず当惑した声が出る。なんか日頃からは考えられないくらい、すごいふにゃふにゃしてるんですけど……。


「とりあえず、今日は帰ったらすぐお休みした方がいいですよ」


「…ああ」と、彼はやけに素直に返事をした。


・・・


馬車での移動中、彼は睡眠不足のようでずっとうつらうつらと船を漕いでいる。やっぱり、人が近くにいる所で寝るのは合わなかったんだろうか。


そんなことを考えていると、肩に何かが乗っかった。視界に移るは真紅の髪。

どうやら、睡魔に負けてすっかり夢の世界に旅立ってしまったらしく、私の肩を勝手に使ってすうすうと寝息を立てている。人が近くにいると眠れなかったんじゃなかったんですか、貴方。


というか、今までこんなに近距離だったことあったっけ。

とくとくと鳴りはじめた心臓を不思議に思いながら、仕方ないから貸し1ですよと心の中で呟いた。


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