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11話

今日はとうとう祭典当日だ。

辺りは学園生やその家族、来賓の人達で賑わっている。見知った影を見つけて近づいてみると、予想通りの人物がそこにいた。


「リナリア、おはよう!」


「カミラ!ふふ、一緒にまわれて嬉しいわ」


守りたくなるような可愛らしい笑みを浮かべ、彼女はそう言う。


「なんだ、来てたのか。あまりにも背が小さいもんだから気がつかなかった」


私に気づいたオーウェンがお得意の軽口を叩いた。


「なっ、あなたが高すぎるだけでしょう!?」


怒っていますと意思表示すれば、何が面白かったのかくつくつと笑い出す。

中身はお子ちゃまのくせに、背が高いと言うだけで得意げになるんじゃない。心の中でそっと毒づく。

ふと、アルビーとオーウェンを含むいつものメンバーの中に、見慣れない大人びた男の子が目に入った。


「紹介するわ、こちらが私の婚約者のノア様よ」


紹介された、オレンジに近い茶色の髪に緑色の瞳の彼は、丁寧にお辞儀をして話し始める。


「はじめまして、僕はノア・フロックス」


「君がカミラさん?リナリアからよく話は伺ってるよ。よろしくね」


誠実な人という雰囲気で、リナリアととてもお似合いだ。フロックス家と言えば、ええと...確か私と同じ伯爵家だったはず。

何も言わないのも失礼なので、「よろしくお願いします」と返すと、彼はへにゃりと穏やかに笑う。


「挨拶も済んだことだし、さっそく近くの出店とか展示とか見てみようよ」


アルビーがそう提案して、私たちはまず周りのものを見ることにした。


●○●○


雑貨売り場できゃいきゃいしている彼らから少し距離を置いて、アメジストのような色の長い髪をした彼女の後ろ姿をちらりと盗み見る。

日頃と何ら変わり映えのない見た目。いつも通り生意気な口もきくし、煽り煽られ皮肉や軽口の言い合いだってする。


ほら、やっぱり前の時可愛く見えたのは気のせいだったんだよ。俺がこんな可愛げのないやつなんて好きになるはずがないんだから。

そう、だから、この前のはただの……。


「オーウェン?どうかした?」


突然アルビーが顔をのぞきこんできた。思わず変な声が出そうになるのをぐっと飲み込んで、なんでもないというような態度をとる。


「カミラちゃんを凝視してたから、なんかあったのかと思ったよ」と彼は小声で耳打ちする。

あるにはあったのだが、特別周りに言うほどでもないなと思い話題を変えた。


「そういえばお前、ほかのご令嬢方から山ほど誘いがきてたとか言ってたよな。大丈夫だったのか?」


彼は出くわした時大体女を連れている。ある時は茶髪のおさげをした子爵家のとこのご令嬢だったり、またある時はてっぺんで黒髪をひとまとめにしたキツめの香水の伯爵家のとこのご令嬢だったり。本人は「失礼だなあ、健全な交流だよー」と言っているが、実際はどうだか。


彼と彼が連れていたことのあるご令嬢同士が、鉢合わせてキャットファイトになりかけていたのに、彼が別のご令嬢に声をかけに行っているのを見かけた時は流石に正気を疑った。

もし彼と友人じゃなかったら、きっと彼と関わることはなかっただろう。

とまあ、そんな話は置いておいて。


「勿論、そこんとこはちゃーんと上手くやったさ」


上手く、ねえ...。

どれもこれも、なんて人間関係において面倒くさがりの自分に彼のまねは到底出来そうにない。元よりするつもりもないが。


「そういうオーウェンだって、一応カミラちゃんこそいるけど他の子から誘われてたの知ってるよ?どの誘いにも乗らなかったみたいだけど」


「別にいいだろ?正直ああいうのはあんまり柄じゃない」


彼の言う通り誘われはした。でも、卒業後婚約を解消する予定であっても一応婚約者がいるというていだし、何となく乗り気でもなくて全部断っていた。


「試しにでもしてみたりはしないんだ?」


彼の一言に思わず呆れる。今でも側室が云々とかの文化が残ってこそいるが、その発想が出てくるあたり彼らしいとしか言いようがない。


「試しってお前……。相手にもあれだし、それほど面識のないやつとずっと過ごすなんて俺は御免だね」


「それに、その……」


俺が言い淀むと、興味津々そうな目で彼は続きを急かしてくる。あまり言う気にはなれないが、言わないのもそれはそれで食い下がってきそうだと思い、仕方なく口を開いた。


「……よく言うだろ?なんか...世の中には、会ったらビビっとくる人がいるとかどう、とか…」


そこまで言うと、彼は面白いこと聞いたとでも言わんばかりににまーっと口角を上げ、目を細めた。完全にからかう表情だ。

くそ、こうなるだろうと思ってあんまり言いたくなかったのに。やっぱり言わない方がよかったかと思ったが、時すでに遅し。言ってしまったものはどうしようも無い。


「案外ロマンチストだよね、おまえ」


「うるさい」


「そんな照れなくても」


俺達がわちゃわちゃしているのに気づいたのか、残りの3人が近づいてくる。


「どうしたんです?何か面白いことでも?」


不思議そうにカミラがそう聞くと、にこやかな表情を浮かべながらアルビーが3人に向かって「えっとねー」と口を滑らせかける。


「あー!あー!やめろ!!面白くもなんともないから!!」


他の2人に知られるのもあれだが、特にカミラにそんなこと知られたら彼女の煽りのレパートリーを増やしかねないと、慌ててアルビーを黙らせて誤魔化す。

...二度とこいつにこの手の話はしないようにしよう。そう心に誓った。


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