エレベーター
SF好きなので、全てSFのつもりです。「センス・オブ・ワンダー』が合言葉!
センチメンタルでロマンチックで綺麗なSF小説を目指している。
僕たちは愛とか、友情とか、ロマンとか、そういうものを軽蔑してきたから。
でも、そんな事が本当は大切なのだと思いたい。
『希望』と『愛』と
『現在への批判』を忘れずにいたいのだ。
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エレベーターの中でその少女に会った。セーラー服の上からコートを羽織り、薄いピンクのルージュがグロスで輝いていた。
「何階ですか?」
吐息のような小さな声。彼女はエレベーターのボタンの前に立っていた。僕はその姿に見惚れてしまった。名前とか、お茶に誘っても、気味悪く思われるだけだろう。僕はなんせ五十歳の腹の出たおっさんだからだ。最近、頭も寂しくなってきた。
別にどうにかしたいと思っているわけではない。ただ、その姿に見惚れている。だからいつまでも見つめていたいと思っただけだ。
彼女は次に止まった7階で降りて行った。少しだけ、後をついてゆこうかと思ったが、それは流石に止めた。膝が痛くなければついて行ったかもしれない。
その後エレベーターには誰も乗ってこなかった。
上へ上へとエレベーターは上がってゆく。
高校の頃を思い出していた。なぜだろう、そうか、さっきセーラー服の子にあったからか。
公立中学校から県内では有数の進学校へ進んだ。男子は詰襟、女子はセーラーという古い県立学校にはありがちな制服だった。僕はその高校でテニス部のエースだった。進学校だったけどテニスと野球は強かった。県内の中学校のテニス部の子達はみんなこの高校のテニス部に入りたくて勉強をしていた。
いまでこそおっさんになってしまったが、その頃は日焼けしたテニスボーイだった。もちろん彼女もいた。
僕が通っていた高校にはなぜかは知らないが県内唯一の芸術コースがあった。定員は三十人。僕たちが通う特進クラスとは別の校舎で音楽と美術に分かれていた。
彼女はその音楽コースに通う一個下の子だった。
名前は「紗希ちゃん」
ちっちゃな子で、身体も腕も足もか細い。大きくて潤んだ瞳で僕を見つめてくれた。唇は桜の花のような白に近いピンクで初めてキスした時、お互いが震えていたのを覚えている。
紗希ちゃんのファーストキスだったのかな。そんなことは聞けなかった。
「ねえ、卒業したらどの大学へ行くの?」
僕が3年生になった春。彼女は聞いてきた。
「うん。先生は東京の大学はどうかと言っている。だから、東京へ行くかも」
「へえ、そうなんだ」
彼女は俯いた。
「紗希ちゃんはどうするの?」
「うん。ピアノ続けたいけど、この学校のピアノ科にも私より上手い子がいっぱいいるの。だから、ピアノはもう諦めようかと思っている」
才能の世界。10代の少女には酷な現実かもしれない。
「そうか。大丈夫?」
「うん」
手を繋いで一緒に校門をでた。青空が広がる気持ちのいい日だったけど、僕は少し暗い気持ちになった。
その後、僕は受験勉強で忙しくなった。部活に明け暮れていて勉強が疎かになっていた。塾に通って深夜まで勉強をする毎日。
あんなに好きだった紗希ちゃんとデートすることも少なくなった。
「もう少し成績上がれば、この大学に行けるぞ」
進路指導の先生にハッパをかけられ、勉強すればするほど成績は良くなった。だから頑張ろうと思った。学校でたまに紗希ちゃんにすれ違う。
「受験頑張って!」と笑顔で言ってくれる。そうするとまた勉強する。そんな繰り返しだった。
推薦で決めたかったけど、僕が目指している大学に推薦入学の制度がない。A .O試験も受けようと思ったけどテニスで県ベスト8くらいでは門前払いだと進路指導の先生に言われた。だから一般入試で目指した。
だけど、僕は大失敗をする二次試験の日。東京まで行ったのにインフルエンザになってしまった。やむなく後期日程に変更した。でも、後期試験の合格発表は三月の半ばになってしまう。受験をした後も遊ぶ余裕などなかった。
ようやく合格して、紗希ちゃんに真っ先に連絡した。
「ごめんなさい。急に引っ越すことになった」
そんな返事が来て、それきりになった。
四月に上京してアパートを決め、一緒に上京した両親と家財道具を揃えた。その日は入学式の前日で両親は揃って参加してその足で帰って行った。
僕は買ったばかりのテレビをつけた。
「え〜〜」
大声が出た。紗希ちゃんが歌っていた。
大人数のアイドルグループの一員。それも真ん中で歌っていた。
あまりの驚きに僕は硬直した。気がついた時にはグループ名も曲のタイトルも忘れていた。
翌日からオリエンテーションが始まり、僕はその合間に高校の同級生や、後輩に紗希のことを聞いたが、誰も「転校した」という情報以外は持っていなかった。テレビの音楽番組も芸能ニュースも見て、ネットで検索をしてみたりしてみたのだがまったく紗希ちゃんのことは調べられなかった。
連休前に冬はスノボ、夏はテニス、ダイビングというちゃいサークルに入った僕はいつしか紗希ちゃんのことを忘れ、大学を卒業して東京で就職し、大学時代に付き合い始めた女の子と結婚して、子供が一人いた。でもその子の妊娠中に新入社員の女の子と浮気をしているのがバレた。
しかも、まだ赤ん坊だった娘を乳母車に乗せた妻に目撃され、挙句、浮気相手の女の子がそのことを妻に告げていたらしい。
「この人と結婚するから、あなたは別れてほしい」と
僕にはそんな気はさらさらなかった。離婚をした後、その浮気相手の女の子にも別れを告げられた。
思えば高校生の頃が一番輝いていたかも。社内での不倫が原因で会社も主流派から外れて、地方への転勤辞任が出た。その足で繁華街へ出掛けて、酔って帰る途中だな。
確か、駅へ向かおうと交差点の横断歩道で待っていたのは覚えている。このまま死のうか。なんて。
不意に下への重力を感じた。エレベーターが静かに止まり、ドアが開いた。
セーラー服の上からおそらくは学校指定のコートを着た女の子が入ってきた。
「何階ですか?」
小さな声。まるで吐息みたいだ。
「七階」
俺の声はぶっきらぼうだった。それにしても可愛い子だな。しかも上品で俯いている顔から見える唇は桜色に輝いている。
俺には縁のない子だな。そんな気もないのに見入ってしまった。
小柄で胸もない。思えば俺はずっと胸の大きい女と付き合ってきたな。
中学の卒業式の翌日、田舎町へ出て東京へ向かった。スナック勤めの母親は俺が中学に入ってからはメシも作らず、毎日俺に千円札一枚を呉れた。そしてだらしなくテレビのある部屋に置かれたソファの上でテレビをつけっぱなしで寝る。そんな母親を横目で見つめて俺は東京に出てきた。
年齢を誤魔化して働かせてくれたのは赤羽の居酒屋、それからキャバクラのボーイをやり、風俗の客引きをした。ようはゴロつきにもヤクザにもなれない中途半端な男だったわけだ。
初めての女は居酒屋で働いている年上の女だった。やたら胸ばかり大きくて、いつも襟の大きく開いたシャツを着ているようなそんな女だった。
客に色目を使ったと居酒屋の店長からクビになった日に俺が居候をしている部屋に上がり込んできて、そうなった。女は二週間くらいその部屋にいたがその後はわからない。
二十歳の頃、働いていたキャバクラで、同じ地元の女がホステスとしてやってきた。地元が同じなだけで知っているわけじゃない。
でも、地元の商店街や、遊びに行ったカラオケ屋や、ゲーセンやら懐かしくもありいつの間にか一緒に暮らしていた。
女の名前は咲希だったような記憶がある。
でも、ホステスの手を出すのはボーイとしては御法度だ。その店を辞めて歌舞伎町で客引きをしていた。ああ、地回りとかちゃんと話はつけていたみたいだ。
警察から逃げるのも若かったせいか早かった。
咲希とはすぐに別れた。「結婚」なんて言い出したからだ。適当にナンパして適当に遊ぶ。半グレでも真面目でもない。中途半端なままだった。
そう、いきなり半グレのやつから殴られたこともあった。そいつが狙っていた女を俺が横取りしたと息巻いていた。近くにいた先輩の仲裁でなんとか収まったがとんだとばっちりだ。
どうせ無意味な人生だ。このまま殴り殺されるのもいいなと思っていた。
あれ、なんか違うぞ。その後もう一度その男にあったはず。奴は右手にナイフを持って。
あ、エレベーターが止まりそうだ。
ドアが開く。
「一緒に降りましょう」
さっきの女子高生が言う。そうか。一緒に降りるのか
俺は、僕は、女の子の後に続いてエレベーターを降りた。
そこは真っ白なモヤに包まれた明るい場所だった。
正面に受付台があり、無表情な中年の女性が座っていた。
「本日最後のお二人です」
少女は明るい声で中年の女性に向かって言った。相変わらず小さな声だ。女性は頷き、女の子に向かって「お疲れ様」と小さな声で答えた。
俺は、僕は、どこに到着したのかその時に分かった。
「あちらへどうぞ」
女性は無表情のまま、手元のタブレットをチラリと見て右手で指を刺した。
そこには大きな門があり、門扉が開いていた。
奥から巨大な鬼が二人、左手に棍棒のようなものを持ち、右手でおいでおいでをしていた。
いかがでしょうか。面白くても面白くなくても評価いただければと思います。
誹謗、中傷、なんでも来い!なんてね。




