表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/98

第三部 闘争 27

 奈緒が歩いて行った方向を全力で走って行く。角を曲がると、左手に駐車場が見えてきた。ポツリと灯った街灯の下、人影が見える。伸也と麻衣子は中へ入っていった。

「久しぶりだな」

 貴斗が口元にニタニタと笑みを浮かべ、暗い目を輝かせていた。

 足下には奈緒が倒れている。目を大きく見開き、叫んだまま固まったように口をぽっかりと開けている。体の下から真っ赤な鮮血が漏れ出し、コンクリートを濡らしていた。

「あんた、奈緒に何したのよ……」

「大丈夫、まだ息はしてるぜ」

 貴斗が手に持っていた携帯プレーヤーのスイッチを入れた。

 内蔵スピーカーから、グルーヴィーなベースラインと、正確無比且つクールなドラムが響き始め、続いてJBの金属的なシャウトが被さってくる。

「SOLU POWER」貴斗がトップダンサーだった頃、ステージで必ずかけていた曲だ。

 貴斗は携帯プレーヤを足下に落とし、伸也を睨んだ。

「俺と勝負しろ、逃げたらこつの命はない」

「貴斗……よせよ。何の意味があるんだ。あのときに勝負はついたんだ。もうすべて終わってる」

「まだ終わっちゃいねえ。お前らには借りがある。ちゃんと返してもらわなけりゃな」

 貴斗が左右に揺れる細かなステップを踏み始める。一見ラフに見えるが、極めて正確なリズムを刻んでいた。フロアに立っていた頃と同じレベルだ。

「確かに船でやった時は俺が負けた。だがな、藤岡から逃げた後、俺もトレーニングを積んだんだ。負けやしねえ」

 鳩尾の奥から、ひりひりとするような波動が響いてくる。

 伸也もステップを刻み始めた。足をクロスさせながら、軽く跳ねるような動きでリズムを刻む。

 貴斗が地面へダイブするように胸から倒れ込み、両手を地面に着けた。

 同時に左足を跳ね上げる。

 バネのように腕を反発させ、伸也に向かって回転する。

 跳ね上げた左足が波動を放った。

 真正面から来る波動をステップで躱す。

「あっ」

 麻衣子が弾かれるように飛ばされ、地面にたたきつけられた。

「麻衣子っ」

 伸也が視線を逸らしたところに、貴斗が起き上がる勢いを使って腕を振る。

 刃のような波動が首に切り込む。

 倒れ込みながら躱す。

 背中から落ちた瞬間足を振り、バックスピンをかけた。

 三百六十度波動が放たれた。貴斗が倒れ込んで避ける。

 腰を浮かし、反動を使って起き上がる。

 気がつくと首筋が妙に熱い。触ると、手のひらにべっとりと血が付着した。程なく熱さが激しい痛みに変わっていく。

 血管には達していないが、危ないところだった。麻衣子は倒れたまま、苦しげに呻いている。貴斗が飛び起きてステップを踏み始める。

「心配すんな、麻衣子が死ぬのはお前が死んでからだ」

 ループするファンキーなリズムが体の芯を震わせ、全身が勝手に動き出していく。

 いい感じだ。

 貴斗が肩を柔らかに動かしながら、弧を描くように腕を振り上げた。

 滑らかな動きがピタリと止まり、指先が伸也に向けられる。

 錐のような鋭い波動が放たれた。

 左にダイブして躱す。着地に続いて一回転し、起き上がる勢いで立ち上がった。

 ジャンプしながら、空中で回し蹴りするようにターンする。

 足先から渾身の波動が放たれ、五次元空間が揺れる。

 貴斗は動じない。ステップを踏み続けた。

 正面から波動が衝突した。衝撃で貴斗から光が放たれ、一瞬姿が見えなくなった。

 光の後から現れた貴斗は正確なステップのまま、余裕の笑みを浮かべていた。隙のないステップが伸也の攻撃をはねのけた。

「DROPトップダンサーの実力ってのはこんなもんかよ」

「短期間でそれだけ仕上げてくるとはな。お前は天才だ。ただな、今のお前はダンスの上手い素人だ」

「何だと」貴斗の顔色が変わった。「俺を怒らせるんじゃねえ」

 背中から倒れ込み、手を突いてシックスステップが始まる。足が弧を描きながら、きれいにウィップする。続いて弾けるようなCCを決め、軽やかなサルフットへ移行する。

 強い波動が伸也を襲い、思わず後ずさった。

 しかし伸也は落ち着いていた。貴斗とは十代からの親友だ。彼の強さは身にしみるほど知っているし、同時に弱さもわかっている。

 貴斗の弱さは怒りだ。

 怒れば怒るほどテンションは上がるが、同時にミスも増えてくる。

 ここで耐えていれば、奴は必ずミスってくるはずだ。

 間断なく襲ってくる波動をステップで躱し続ける。貴斗の目に、焦りの色が浮かんだ。

 正確だった動きにブレが生じ始める。

 指先の動きが雑になっていく。

 今だ。

 伸也はターンしながら波動の軌道から外れる。

 倒れ込むと同時にトーマスフレアで移転しながら波動を放つ。

 回転する勢いそのままで背中から倒れ込む。

 跳ね起きる勢いで、右手一本で体を支えながら、エアチェアを決めた。

 強い波動が放たれる。

 ステップで躱していた貴斗の動きが乱れる。

 波動をまともに受け、体が弾かれる。

 倒れる。

 思った瞬間、

 貴斗が右足を蹴りながらジャンプした。

 斜めに回転する。

 コークスクリューだ。

 強烈な波動が立ち上がった伸也を直撃した

 胸に衝撃を受け、目の前が真っ白になる。

 体が宙に浮く。

 辛うじて背中から受け身を取りながら着地した。

 気がついたとき、貴斗が気迫に満ちた目をして迫っていた。

 両足を蹴り、前宙する。

 着地と同時に飛び上がり、伸也に向かってダイブする。

 両手を突いた瞬間、チェアーでフリーズする。

 ため込んだエネルギーが放たれる。

 伸也は体を斜めに傾け、右に受け流す。

 勢いで左手を着地させ、足を蹴り上げた。

 開脚しながら腕二本で回転する。

 パワームーブ、エアートラックスだ。

 強い波動が放たれる。

 貴斗があっと叫びながら大きく飛んだ。

 背後にあった自動車のボンネットにたたきつけられた。貴斗は苦しげに呻きながら、地面へずり落ちていく。

「フリーズがぶれていたんだ。だから簡単に躱せた」伸也はステップを踏みながら貴斗を見つめた。「左肩が痛かったんだろ」

 貴斗は肩で息をしながら、伸也をじっと睨み付ける。

「コンディションが悪い中、お前は昔と同じダンスをした。だから最後は体が持たなかったんだ」

「わかったよ。俺の負けだ」

 吐き捨てるようにつぶやいた貴斗に軽く頷いた。振り返り、倒れている奈緒を見る。麻衣子が傍らでしゃがみ込んでいた。

「奈緒は大丈夫か」

「今のところは」麻衣子は奈緒を見つめながら、血の気が引いて真っ白になった手を握っていた。「奈緒、頑張って、もうすぐ救急車が来るわ」

 再び振り向いて貴斗を見る。

「どうして奈緒を巻き込んだ。俺との戦いなら、奈緒を傷つける必要は無かった」

 貴斗はバンパーにもたれ掛かり、右手で左肩を押さえながら、暗い目で伸也を見つめている。

「お前ら全員憎かった。お前らがいなけりゃこんなに隠れる必要なんか無かったんだ」

「違う、お前が悪の世界に踏み込んだから逃げるはめになったんだ」伸也は悲しげに貴斗を見下ろしていた。「貴斗、お前はグロウに加担したが、まだ人を殺しているわけじゃない。捕まってもそう長く刑務所にいることはないだろ。また一からやり直せるよ」

「そうかも知れないな」

 貴斗はわずかに微笑みながら立ち上がろうとして、足をふらつかせた。

 伸也が支えようと手を差し伸べた瞬間、

 貴斗が猛然と走り出した。

 視線は麻衣子だ。

「止めろっ」

 手を伸ばしたが、腕に触れただけ。横をすり抜けていく。

 貴斗が殺気を立ち上らせながら地面を蹴る。

 前宙した。

 麻衣子は恐怖で顔を引きつらせたまま動けない。

 伸也は右足をもつれさせながらも踏み出し、右腕をムチのように振り出す。

 貴斗の背中に向けて指を差し向けた。

 波動が放たれ、貴斗を貫通する。

「うえぇぇっ」

 貴斗が体をのけぞらせ、膝から崩れ落ちた。

 うつ伏せに倒れた。

 貴斗の背中から、鮮血が噴きだしていく。

 伸也は呆然とした表情で、貴斗に近づき、見下ろした。瞳孔が開ききった目は、何の感情も宿していなかった。

 救急車のサイレンが、遠くから響き始めていた。


面白いと思った方。

共感していただいた方。

よろしかったら評価とブックマークをお願いします❗

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ