第三部 闘争 23
本編ではAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」がキーポイントとなっています。
しかしながら「小説家になろう」さんのガイドラインにより、歌詞記載が禁止されていますので、
youtubeを見ながらお楽しみください。
https://www.youtube.com/watch?v=dFf4AgBNR1E
「さあ、答えろよ」
貴斗が一歩踏み出し、伸也に手を伸ばした時だった。
二人の間にぱっと物体が現れ、地面に落ちた。
「北村さん」
「いたたた」
地面に倒れ、顔をしかめて腰をさすり始めた北村を、伸也は呆気にとられて見下ろしていた。
「いったいどうしちゃったんですか」
「それはわたくしがお聞きしたいです」北村は辺りをキョロキョロと見回していた。「どうしてこんなになってしまったのですか。難しい顔をしていないで、早く火を消さなければ」
「なんだよお前。俺たちが喋ってんだよ。邪魔だから死んでくれ」
貴斗が周囲の男たちに目を向けた。びくついた顔の男たちが、北村に銃口を向けた。
「あややや、これは本物の銃ですか?」
「そうさ」貴斗は暗く冷たい目をしていた。
「やれ」
伸也の背後で、研究所の壁が炎で崩れ落ちた。室内が露わになったとき、中から青い光が放たれ始めた。
奈緒が眠っているパーティションの間から、光が放たれ始めた。オーロラのように揺らめきながら、赤、青、緑、ピンクと変化していく。
突然起きた事態に職員たちが動揺し始めた。
「高藤の時のように燃え始めるのでしょうか」
緊張で顔をこわばらせている竹井の問いかけを無視し、藤岡は冷たい三角眼で光を見つめていた。
パーティションが開き、奈緒が現れた。
奈緒の周囲で渦巻くように輝きが放たれている。
戦闘班がライフルを向けた。
「よせ」
藤岡が鋭く叫び、奈緒へ近づいて行った。熱は感じられない。浮遊感のある緩やかな歩き方で、ぼんやりした澄んだ目を前に向けている。
「ドローンを、止めてください」
奈緒は前を向いたまま、独り言のようにつぶやいた。
「我々の作戦を聞いていたのですね。残念ながら、宮本たちを犠牲にする以外、我々が助かる道はない」
「私が戦います。ドローンを止めてください」
奈緒は藤岡に目を向けることなく壁へ向かって歩き出した。
「動かないでください」
横にいた竹井が奈緒の腕を掴もうと手を伸ばした。
「うっ……」
竹井が呻き、弾かれるようにして手を引っ込めた。
「強い熱を感じました」
奈緒は燃えて熱を放っている壁に向かって歩いて行く。
壁が崩れ、外の風景が露わになる。
「ドローンを止めろ」
藤岡の叫びで、パソコンに向かっていた男が慌ててキーボードを叩き始めた。
奈緒が光を放ちながら建物から現れた。
「奈緒、どうしてそんなに光っているんだ」
「私は歌います」
「宮本先生、このピコピコした音を止めて、『恋するフォーチュンクッキー』のカラオケをかけてください」
「はあ? 何なんだよそれ」
「なんと、宮本先生はあの国民的大ヒット曲をご存じないのですか」
「知ってるよ。俺が言いたいのは、何で今『恋するフォーチュンクッキー』なんだってことだよ」
「奈緒さんが歌って世界を救うのです」
「ますます意味がわかんなくなってきたよ」
「北村は何を言っているんでしょうか」
モニターを見ていた竹井が訝しげに藤岡を見る。腕を組んでいた藤岡が、引き結んでいた口を開いた。
「曲を変えろ。北村の言うとおり『恋するフォーチュンクッキー』をかけるんだ。
伸也のプレイリストの曲が止まり、ミディアムテンポの華やかなディスコソングが流れ始めた
「宮本先生、踊ってください」
「わ、わかった」
北村の真剣な勢いに気圧されて伸也は頷いた。
「曲は『恋するフォーチュンクッキー』奈緒さん、張り切って歌ってください」
歌い出すと、奈緒の輝きがまるで煙のように広がっていく。伸也も踊りながらその輝きに包まれていった。
戦いでダメージを受けた部分の痛みが消えていく。麻衣子への不安や貴斗への怒りも消え、暖かく、高揚した気分になっていく。
「ああ、素晴らしい」
隣でよたよたと体を揺するようにして踊っていた北村が、感極まったように涙を流し始めた。
輝きは貴斗とライフルを持った男たちも包み込んだ。
貴斗は大きく目を見開き、崩れるようにして尻餅をついた。男たちも、我に返ったようにライフルを取り落とした。
自由になった麻衣子が駆け出し、歌う奈緒の隣で踊り始めた。
音楽が流れ、赤、青、緑、ピンクと色を替え煌めく世界は、まるで巨大なダンスホールだ。
奈緒の歌声は伸びやかで透き通っていた。全身から、生き生きとしたオーラが溢れかえっている。
藍田は思わず暗視鏡を取り落とし、唖然として輝きを見つめていた。逃げなければと心の暗い部分が叫んでいたが、体は動かなかった。
輝きが藍田を包み込んでいく。
「うああぁぁ……」
暗く歪んだ身体場が揺らいでいく。力が入らずその場に崩れ落ちた。
「藍田を発見しました」
奈緒を映していたモニターが切り替わり、まだ燃えていない草むらを映し出した。光が照らしていく中、仰向けに倒れている藍田がはっきりと映し出された。藍田はふらつきながら立ち上がり、煙の中に逃げようとしている。
「狙撃手をセッティングしろ」藤岡が戦闘班に叫ぶ。「ますは藍田、次に小野を撃て」
曲が終わると同時に輝きが消えた。奈緒はその場へ、スローモーションのようなゆっくりした動きで地面に倒れ込んだ。
「ああっ、奈緒さん」
オロオロしながら奈緒を見ていた北村を、突き飛ばすようにして麻衣子が間へ入り、彼女を抱え上げた。
「奈緒、大丈夫?」
奈緒はぐったりと麻衣子に体を預け、放心したようにぼんやりした目をしていたが、麻衣子の問いかけに頷いた。
麻衣子を拘束していた男たちも放心した表情で、何が起きたのか理解できていないようなのか周囲を見回していた。
唐突に銃声が響いた。奥の暗がりで、弾かれるようにして人が倒れた。
はっとした男たちが蜘蛛の子を散らすように暗がりへ逃げていく中、貴斗が北村の襟首を掴んで引き寄せた。北村の体を建物に向けて盾にするつもりだ。
「あわわわわ、やめてください」
「今撃たれたのは藍田だろ。次は俺だ」
「貴斗、よせ」
伸也が近づこうとしたとき、イヤホンから藤岡の声が聞こえた。
「小野に近づくな、お前も巻き込まれる」
「止めろ、貴斗を撃つな」
伸也は藤岡の警告に反して貴斗の前に立った。
「お前を殺そうとした男だぞ。なぜかばう」
「貴斗は幼なじみなんだ。目の前で殺されるのを見ているなんてあり得ない」
「伸也、止めてよ」
麻衣子が伸也に抱きつき、引っ張ろうとした。
「麻衣子、お前は逃げろ。巻き込まれるぞ」
「馬鹿な奴らだ」藤岡はため息をつきながらモニターを見ていた。「撃て。他の奴らに当たっても仕方がない」
二階の狙撃手は既に弾丸を装填済みだ。照準を合わせ、引き金に力を込めた。
「なんだ」
地面が揺れ始めた。据わりの悪い机がガタガタと音を立て始めた。
「地震だ」
発砲音が響く。しかしモニターでは誰も倒れる様子はない。
「揺れで照準が合いません」
「タイミングが悪すぎる」
吐き捨てるようにつぶやいた後、藤岡は違和感を覚え、眉根を寄せた。
「この揺れは妙に長すぎないか」
揺れは激しさを増して行く。
面白いと思った方。
共感していただいた方。
よろしかったら評価とブックマークをお願いします❗




