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第三部 闘争 6

「藤岡課長、アジトの入り口が確認できました」

 モニターに赤外線カメラの映像が映し出された。雑多に生い茂った木々の中に、シャッターが映し出されている。

「シャッターには監視カメラ三台が設置されており、前の道路は最近できたタイヤ痕が確認できます。

「他に進入口はないのか」

「現在調査中ですが、少なくとも車両が出入りできる場所は確認できません。夜明けを待ってドローンで調査をしましょうか」

 藤岡は質問に答えず腕を組み、目を閉じた。再び目を開くと、目の前にいる皆川から背後へ視線を移した。

「角田、歌舞伎町の状況を報告しろ」

「騒乱は更に広がりを見せ、新宿駅東口も危険な状態に陥っています。交番はすでに焼かれ、ショッピングモールへ多数の人が入って略奪を行っています。見てください」

 モニターに数ぐらいショッピングセンターの画像が映された。そこに懐中電灯を持った男女が現れた。画面に映っているだけでもその数は十人以上いた。ある者は鉄の棒らしきもので、ショーケースを破壊して中にあるものを鞄に詰め込んでいた。別の男は奇声を上げながら陳列棚に載っていた化粧品を棒でなぎ倒していた。

「透明症と健常者の対立だけでなく、単なる破壊活動や略奪が増えています」

 ショッピングセンターを破壊している人々の目は、興奮で爛々と輝いていた。

「木場、そのほかの地域について報告しろ」

「福岡では中州から天神及び博多駅方面まで騒乱が広がっています。大阪は心斎橋筋とあいりん地区から広がり、難波を飲み込もうとしています。いずれもいずれも無差別な店舗の破壊、略奪が確認されています」

「高藤梨奈の行方は掴めないのか」

「今のところ、防犯カメラに該当する人物は確認できておりません」

 梨奈が姿をくらましたのは、爆破テロ直後だった。パニックに陥った人々に紛れて監視員たちから逃走していた。梨奈が暴動を背後から煽動しているのは間違いないだろう。全透協関係者の行動をチェックしているが、今のところ梨奈との接点は確認できない。

 藍田を拘束できればいいのだが、周囲の取り巻きが警戒して、拉致できる状態ではなかった。

 藤岡は携帯電話を取りだし、電話をかけた。しかし繋がらず、眉間に皺を寄せて発信を止めた。次にキーボードを操作した。目の前のモニターにウエブカメラで撮影された部屋の画像が映し出された。唐突に慌てた様子の荒川が横切る。藤岡は再び電話をかける。

「蓮村先生と連絡が取れないのですが、先生はどうされていますか?」

「それが……現在ニュートリノマシンに入っているんです」

 荒川の声が聞こえてきた。

「ほう」藤岡は右眉をわずかに上げた。「我々には報告がありませんでしたか」

「申し訳ない。さっき先生が突然言い出しまして。課長に報告して止められたら手遅れになるとことでして」

「手遅れ? 蓮村先生は五次元の世界へ行っているのですね。何をしようとしているのですか」

「わかりません。蓮村先生自身もわかっていないようでした。玄から、こっちへ来いと言っているのが聞こえたそうです」

「それだけの理由ですか。五次元の世界はまだわからないことが多いので、進入は慎重に行うというのは、蓮村先生自身が決めたはずでしたが」

「確かに私もそう聞いています。しかし玄の言葉は切迫していたということでした」

「はたして玄自身は信頼が置けるのですか? 梨奈さんを悪に導いたのは玄だとわかっています。玄の声が罠だったとしたら」

「その点は議論しましたが、玄自身はフラットな性質ではないかと考えています。我々個人が善の性質を持っていれば善として現れ、悪の性質を持っていれば悪として現れる」

「過去が事例がそうであっても、これからも同じであるとは限らない」

「わかっています。しかし私は玄を信じたい。それにもう蓮村先生は五次元へ行ってしまっている」

「蓮村先生を今すぐこの世界に戻してください。これは施設を管理する者としての命令です」

「ところが透明度が百ポイントになってしまった。こうなるとマシンで元に戻すことはできません」

 藤岡は小さくため息をついた。「馬鹿げたことをしてくれましたね」

「しかし既に事実は変えようがありません」

「わかっています」藤岡は顔をしかめた。「蓮村先生の件に関しては、現実として受け入れましょう。そのうえで、荒川先生にはこの映像を見ていただきたい」

 画面が切り替わり、ショッピングセンターが破壊されている防犯カメラの映像が映し出された。

「新宿駅で撮影された十分程前の映像です。すでに透明症との対立を逸脱して、こうした破壊、略奪行為が全国に広がっています。これについて私は宮本君たちの現状が関わっていると考えますが、いかがでしょうか」

「伸也たちに何らかの危害が加えられており、それによって善の力が弱まっていると」

「そう考えております」

「伸也の無事は確認できないのですか」

「現状ではなにもわかっていません。見解をいただきまして、ありがとうございます」

 藤岡はまだ話したそうな表情をしている荒川を無視して、一方的に通信を切った。唐突に立ち上がり、ドアに向かって歩き出した。

「藤岡課長、どちらへ向かわれますか」

「気分転換でこの辺りを散歩する。全員このまま情報収集に努めろ」

 呆気にとられている部下を無視して、藤岡は司令室を出て行った。

 廊下に出た藤岡は、散歩と言うにはほど遠い、ほとんど走るような歩速で廊下を進んだ。一つ目の交差点を右に曲がり、ドアの前に立った。壁に取り付けられているパネルにパスワードを入力し、更に虹彩認証でドアが開いた。そこは機械も調度品もないがらんとした白い部屋だった。藤岡はドアが閉まると奥の壁に行き、手で触れながら壁を探った。右上の場所で手が止まり、強く押すと壁が陥没した。割れた壁の欠片を剥がしていくと、中からコードが出てきた。スーツのポケットから携帯電話を取りだし、コードに繋げた。画面をタップして、耳に携帯電話を押しつける。呼び出し音が鳴り続けていたが相手はなかなか出ようとしなかった。

「藤岡課長、どうしましたか」

 ようやく通話が繋がり、少々荒い息をしながら電話に出たのは竹井だった。

「ご苦労。私がこの回線を使用する意味がわかるかな」

 壊れた壁の横に寄りかかりながら、藤岡は落ち着いた声で話し始める。

「さて……私にはわかりかねますが」

 竹井が地雷原を歩く男のように、一語一語慎重に発音すると、藤岡はクククと押し殺した笑い声を上げた。

「私には、すべて承知しているようにしか思えないがな。まあいい。これから上猿払のグロウのアジトを襲撃しろ、決行は午前四時。これは私からの命令だ」

「しかし……まだ上猿払の施設がグロウのアジトだと確認された訳ではありません。仮にグロウのアジトだとしても、施設の図面もありませんし、敵がどれだけいるか、どれだけの武器を所持しているかもわかりません。一言で言えば無謀です」

「お前の言うことは充分承知している。グロウが宮本たちに何らかの危害を加えていることは間違いない。手遅れになる前に彼らを奪還しなければならない」

「状況は承知していますが、失敗した場合――」

「失敗してもしなくても、すべての責任は私が負うことになる。すでに私は重大な職務規程違反を犯しているんだ。

 事態は急を要している。作戦は知る者が多ければ多いほど相手に情報が漏れる可能性が高くなる。しかも迅速にことが進まない。この方法が最善だ」

 電話からため息が漏れた。「承知しました。早急に襲撃計画をまとめてご報告します」

 通話をきると、藤岡は一人ニタリと笑みを浮かべた。このオン・ジ・エッジなヒリヒリする感覚、たまらない。


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