第1話
「ヴァン、起きなよ!孤児院に帰る時間だよ、こんなところで寝ていたら外星人に攫われて解体されるよ!」
聞きなれた可愛らしい声と同時に風を切るようなビンタが俺の頬に当たって数メートル飛んだ後に驚いて目が覚めた。
痛ってえなぁ、せっかく寝ていたのに…そもそもこんなところまでに外星人が来るわけないだろうに。ていうか、解体されるってサラッと怖いこと言うな、こいつ。だが、マリアを心配させるわけにもいかないし気絶するんじゃなく起き上がらなければ…
「はいはい、今起きたよ。つーか、もう帰らなきゃいけない時間なのかー。もうちょっとこの景色見ていきたかったけど、戻らないとアリス先生うるさいしあと誰かさんの馬鹿力で腫れた俺の頬冷やしてもらわないと」
マリアは呆れた顔でヴァンの顔をジーっと見つめて
「ヴァン、そもそも景色なんて見てなかったでしょ。どうせ横になった瞬間に寝たでしょう?いっつも授業中始まった瞬間に寝るから、アリス先生も呆れていたよ」
「いや、困ったことに授業受ける思いはあるけど勝手にいつも寝るんだよな。なんでマリアは起こしてくれねぇの?気づいてるなら、その力で突いて起こしてくれよー!」
「それはお前が毎日遅い時間まで起きてちゃんと夜寝ないからだろうが、お前夜起きてなんかしてるのバレてるからな?」
「え、最悪。ヴァン、あんた夜遅くに何してんのよ?」
「…それは男のプライド傷つけるからノーコメントでお願いしやす。」
「うわ、最悪聴くんじゃなかった!!ライナーも女の子の前で言わないでよ、そんな汚い事!」
「え、俺も悪いのかよ!絶対ヴァンが100%悪いだろ!」
こうして俺の男としての尊厳を容赦なく傷つけてきたのは、俺の義兄でもあるライナーだ。孤児院に来たのはかなり遅く、最初の頃はまるで荒んだ眼つきをしていたが今では大人しくとても頼りになる兄貴分だ。成績は優秀で誰よりも努力家で苦手なことは全くなく、喧嘩もめっぽう強かった。一度俺が調子に乗っていると感じてライナーに喧嘩を挑んだが、完膚なきまでに敗北した。それ以降は嫌な野郎だと思って、負けた事と喧嘩の時に折られた歯のことをずっと恨みに持っていた。でも、ライナーはそんなことを気にすることも無く問題児の俺と仲良くなろうと気持ち悪いくらい近づいてきた。
でも、最初は嫌だったけどそれ以降俺も仲良くなりたいと思い、今では義兄弟の誓いを結ぶほどまでに互いを信頼していた。
だから俺は他の児童と比べて孤児院ではかなりの問題を起こしているのに、この2人とアリス先生は俺のことを異端として見るんじゃなく同じ仲間意識といったものがあったからか最後までちゃんと気にかけてくれている。親のいない俺からすればとてもありがたいと心から感謝している。
そう色んなことを考えては心から思いつつ、不意に帰り道にライナーにどうしても聞きたかったことを聞いた
「そういやライナー、来年で孤児院出るんだよな?仕事先とかはもう見つけたの?」
「ん~、まぁ普通の職じゃこの世で絶対生きていけないだろうし軍人になろうと考えているんだ。特に能力者部隊には絶対入りたいんだ、アリス先生元々あそこにいた人だから色々教えてくれたし入るのに問題は無いと思う。それにあそこに入ってどうしてもやりたい事あるしな。」
ライナーは俺とマリアに遅れて孤児院に預けられたらしく、俺たちと違って親がどういうものなのかを知っていた。
最初は羨ましいと感じたけど、少し時が経ってから両親と故郷は外星人によって破壊されたと聞いてからはそんな嫉妬心は消えた。結局のところ、経験は違っているがお互い似ていることもあってすぐに仲良しになった。そして、いつも世界新聞にてガイラスの話を読むと憎しみの感情が溢れていた。だから、ライナーが能力者部隊に入りたいと言っても職員もアリス先生、俺も驚きはしなかった。
「アリス先生、まだ40代なのにあんなに若々しいのに彼氏がいないのなんか惜しいな。でも、多分315連隊に居た時になんか忘れられない人とかがいたのかな?」
とマリアはロマンティックな考えをしていた。しかし…
(アリス先生が若いだと?確かに若いしキレイであるけど、あの人いつも酒癖悪いし整理整頓があまり出来ない人だぞ!)
と心の中でマリアの言ったアリス先生のイメージを突っ込んだ。なぜならライナーと俺はアリス先生の悪い側面を見て以降彼女を美しい人だと見るような機会が減った。それはある日俺とライナーがアリス先生と談笑をしている時に間違えてアルコールを飲んだ時、俺たちは忘れることは無い恐ろしい体験を目にしたからだ。そう思い出してライナーの方を見ると一瞬どうしても思い出したくないという表情がうっすら見えてしまった…………
そうして二人の男子が勝手にどんよりしたがったが、ライナーが話を戻した。
「いや、見た目はいくら若く見えていても中身はババアに変わりはないだろ?それに俺はアリス先生が元軍人であの英雄の部隊の一人だったとはちょっと信じられないわ。幼い頃から教えられていたとはいえ、いまだに信じられないよ。」
実はアリス先生が英雄部隊と尊敬されている315連隊に所属していたというのは地域中のみんなから知られていた。町中の皆や孤児院に住んでいる子供たちもその部隊に入っていたということで、毎日当時の話を聞きたいと多くの人が訪ねてきた。
そのおかげで孤児院に献金しくれる人が多く、孤児が多いのにも関わらず運営できているらしい。
だが、本人はあまり当時のことを頑なに喋らなかった。ヴァンはアリス先生が町の老人と交流している時に315連隊が話題になるといつも暗く悲しい顔になっていたのを見た。
(あの表情は何だったんだろう?アリス先生は英雄になったのがうれしくないのかな?)
そう考えながら歩いていると、自分たちの家と呼べる孤児院が見えてきた。そろそろ大勢の孤児たちへの夕飯の準備を手伝わないといけないので、三人の幼馴染はさっきまで話していたことを途中で切り上げて誰が先に着くのかと一斉に走った。