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佐木茂は知っている

作者: 幸京

「何だこれ?お前、漫画描いてんの?」

彼は笑いながら、私の描いた漫画のノートを取り上げ教室を走り回る。

「アハハハ、何々?、僕の名前?佐木茂だよ、アハハハ、佐木茂、佐木茂か~」

彼は終盤に主要人物の本当の名前が明かされるシーンを、大声で読み上げながら笑い続ける。

それをクラスの友人達と読もうとするも、その友人達の顔は引きつっていた。

それはノートに漫画を描いている私に対してというよりも、それを取り上げ教室を走り回る彼に対してのようだった。

その雰囲気に気づいたのか、彼はノートを私に投げつけ、必死に笑い続けながらクラスメイト達に言う。

「こいつ、やべーな。漫画描いてんよ。キモッ」


あれから20年が過ぎた。

彼はあの頃から漫画を描いていたのだろうか?

もしかしたら友達になれたかもしれない彼は、漫画家としてアニメ化した作品を持つようになった。

私は35歳で漫画家としての夢を諦め、今は医療事務の資格を取り働いている。

これまでに多くの漫画が発表され、もちろんなかにはよく似た作品もある。

今、彼が描いているアニメ化された漫画の登場人物の容姿、性格、世界観、時代描写、ストーリー。

物語の終盤、明かされた主要人物の本当の名前による伏線回収。

それは昔、私が彼に笑われキモイと言われた漫画と、ほぼ一緒であった。


私は受付で会計待ちをしている彼の名前を呼ぶ。

重い足取りの彼は明らかに顔色が悪かった。

そんな彼が掴んだ夢と未来。

私が受け入れた運命と実力。


仕事終わり、看護士達が更衣室で話している。

「デビュー作はすぐに打ち切りになったから、休むのが怖いみたい。精神科にも通院しているから」

「でもさ、あんな状態で休まないなんておかしいよ。先生も本気で怒っていたし」

「漫画家って大変なんだね~」

「僕だけの作品じゃないんです、あと少しで最終回だからって。ファンのためなのか何なのか知らないけど」

「アニメ化もしてるんだよね。面白いのかな?」

「さぁ?漫画読まないから」

着替えを終えた私は更衣室を出る。

今週号、明かされた主要人物の本当の名前は、私の名前とよく似ていた。


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