92 二人が出会った日
俺と明里は中学時代、同じ塾に通っていた。
地元では毎年、それなりの進学校に進学する生徒がそれなりに多いとされる、いわゆる中堅クラスだ。
「じゃあ、ここを〜……秋山、答えてみろ」
「は、はい!」
いつも授業では生徒に答えさせる、警戒レベルの高いとされる教師。その日は、その教師の授業だった。
「え、えっと……」
そこで、教師に当てられて答えがわからずに戸惑っている隣の女を見た。
「三番だ」
答えが分かっていたせいか、つい余計なおせっかいを焼いてしまった。
いつもなら、絶対こんなことしないのに。それが女なら尚更に。
「さ、三番です!」
「よし、正解だ。じゃあ、今から解説してくからな」
教師がそう喋り出すと、さっきまで隣の女に注目の視線を向けていた生徒たちは、教師がチョークでカタカタと音を鳴らしている黒板に目を向けた。
「あ、ありがと……」
「おう」
手助けをしてもらった隣の席の女が俺に礼を言い、それに俺が反応をする。ごく普通の流れだった。
その後も授業は進み、やがて授業の終わりを告げるチャイムがなる。
「おーし、じゃあ今日はここまで。各自、復習はしっかりとやっておくように」
多くの生徒が教師の言葉に返事をして、荷物をまとめて教室を出始める。
「あ、あの……」
だが、俺の隣の女は一向に動こうとはしなかった。
それどころか、またしても俺に声をかけてきた。
「……どうした?」
自然と声に力がこもる。いやな予感がしたから。
この時には既に後悔し始めていた。
「さ、さっきはありがとう……何かお礼したいなって……」
うつむき気味にそう言う女を見て、確信した。
あぁ、やっぱりか……ほんと、余計なことしたな。
「いや、そうゆうのはいい」
キッパリと断った。もう、作業になっていた。
こういったことは、よくあることだった。
こんなことを言えば、鼻につくだとか、自慢うざい、だとか思われるだろうが、俺は昔から顔が良い。
そんなものは、親の遺伝だろうし、俺の努力によるものではないから、全く誇れるものではないと思うが、そんなことを言うと反感を買うから、いちいち言葉にはしない。
「で、でも……」
「いいって。じゃあ、俺はもう行くから」
引き下がろうとしない女に俺は一言告げ、荷物を持ってその場を立ち去った。
教室を出て、廊下を歩きながら、考えても仕方のない、くだらないことに頭を巡らせる。
いちいち考えたくはないが、こうゆうことがあるとつい考えちまう。
まただ……ほんと、めんどくせぇ。
唇を軽く噛み、苛立ちを周囲に悟られないよう、堪える。
なまじ顔がいいと、さっきみたいに声をかけられることはよくある。
俺はそれが、何よりもいやだった。好きでもない女に、毎回毎回声をかけられ、好意をあらわにされる。
それの一体、なにが嬉しいというんだろう? その度断って、俺が申し訳ない気持ちになる。
俺は何もしていないのに。相手が勝手に変な感情を抱いて、俺がそれに応えられない。それで、どうして俺がこんな思いをしなきゃならない?
だから最近では、今みたいに、ことが大きくなる前に突き放すようにしている。きっかけを、作りたくなかった。
もちろん、声をかけてくる女がみんな好みじゃないとか、そうゆう問題ではない。
客観的に見ても顔立ちの整った女に好意を寄せられたこともある。
でもそれは、俺の外見に惹かれただけ。俺の中身なんて、何にも見ちゃいない。
それが無性に腹立った。上辺だけで人を見る、そんな奴とは一緒にいたくないと思った。
「……」
……まぁ、さっきの女は可愛くもなかったけどな。
そんな毒を吐きながら、玄関を出て、帰路に着いた。
うっすら思い浮かべていた描きたかった話を書き始めました。
『本日のおねだりタイム』
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