91 --希望--
「味が濃くて美味い」
「感想が雑すぎる……」
俺たちは無事に焼きそばを確保して、近くの開けたスペースで二人並んで食べていた。
「よしじゃあ、食レポスタートだ。明里さん、この焼きそばはどういったお味で?」
箸をトレーの上に置き、空いた方の手でマイクの形を作る。
「えっ!? 私?」
驚いたようにあたふたし出す。
やがて考えるそぶりを見せ、何かを思いついたように口を開く。
「あ、あったかくて美味しい!」
「ひどすぎる。却下」
俺は考えまでもなく言葉を飛ばす。いやそりゃこうなるわ。
「えぇ!?」
「いやそりゃ焼きそばなんだから熱いだろ。俺の感想よりも語彙が乏しいぞ」
「まじか……」
「まじだ」
ガクッと肩を落とす明里に死の宣告を伝える。
「国語の勉強する。絶対する」
「そんなに悔しいのかよ……」
握り拳を作って決意をあらわにする明里。それはなんか複雑だな。
てか国語か……それなら雄二が得意だったな。
「じゃあ……いや……なんでもねぇ」
言いかけてやめた。これをいうのは、なんだか意地が悪い気がしたから。
「? なに? 言っちゃいなって〜」
「気になるでしょ?」と真っ直ぐ俺の瞳を覗き込むようにしている明里。
「いや、本当になんもないって。よく考えたら的外れすぎたから」
「そう? まぁ、ならいいんだけど」
「そういや、あいつらとはいつ合流する?」
誤魔化すように口を開いたから、訊かなくていいことを訊いちまった。
「あ、そうだよ! 早く合流しないと!」
「……だよな」
「もう一時間近く雄二が奏ちゃんと二人……? どうしよう……」
スマホの画面で顔を照らしながら、不安げに明里はそう呟く。
「……雄二には、告白とかしないのか?」
気がついたら、またいらないことを訊いちまっていた。
「急がないと……え?」
忙しなく箸を動かしていた明里が、動きを止めてこちらを見る。
「告白、しないの?」
俺の言葉に反応したのを確認して、言葉を続ける。もう引き返すことはできない。
今更誤魔化しても、今度こそ追求されるだろう。
「えっ、えっと……告白……っていうのは……?」
「雄二のこと、好きなんだろ? 分かってるよ」
分かってる。ずっと前から、そんなことは分かっている。
あれだけ分かりやすけりゃ誰だって分かるってもんだ。ずっと近くにいた俺なら尚更だ。
緊張感を隠すように、焼きそばを一口口に運び、明里の反応を待つ。
「そうだったんだ……」
明里は、箸を焼きそばに絡めながら、自分の中でその意味を消化させるようにそう確認する。
「たしかに、優也には言っておいた方がいいよね。もうずっと、一緒にいるんだから」
「……」
そういやそうだった。奏ちゃんと出会う前よりも、雄二と出会う前よりも……さらにその前から、こいつとは出会っていた。
「私……もう、告白したんだ」
「……!! そう……だったのか……」
いつの間に……? 雄二からは聞いていなかったが……
いや、それよりも結果は……?
「結果は、多分振られてる」
「多分……?」
「うん。返事はいいって言ったの。優也は知ってると思うけど、雄二って奏ちゃんのこと好きでしょ?」
「……そうだな」
ここまで分かっているなら、誤魔化しても仕方ないだろう。
告白したってことは、雄二から直接聞いている可能性が高い。
「ん? 返事はいいって……告白する前から、あいつが奏ちゃんのことを好きだってことは知ってたのか?」
「まぁね。分かりやすすぎるから」
あはは……と軽く笑うその横顔からは、不思議とマイナスのイメージが湧いてこない。
どこか、希望を持っているような……
「でもじゃあ、なんで告白なんて……」
そんなことを考えてしまったからだろうか。そんな意地の悪いことを口走っちまった。
「それでも……諦めたくなかったんだよねー」
「……」
明里の唇がわずかに震え、その横顔が月明かりに照らされる。
「告白すれば、意識してもらえるかなーって」
「安直かな?」と言って笑う姿を見て、今はっきりと分かった。
――希望の理由が――
――希望の、意味が――
「……いや、いいと思うぞ」
「そう? ありがとっ」
「……でも、それだと俺にとっては困るかもな」
――その希望を作るには、どうするべきか――
「え? どうゆう意味……」
――ここが勝負どころだ――
「俺は、お前のことが好きだってことだよ」
「……え……?」
「これで少しは意識してもらえるようになるかもな? 俺のこと」
「……っ!!」
月明かりのせいか……夜空に煌めく無数の星のせいか……明里の顔が紅く染まっているのが分かった。
その瞬間、自然と頬が緩む。
――ようやく、この時が来たんだなって――
いい感じの雰囲気をかけていたらいいなぁ、と思います。ではまた次回!!




