84 コンビニ
タイトルをつけ忘れていました。申し訳ない。
頭を捻りに捻った結果、タイトルはコンビニになりました。IQ3です。
軽快なリズムの音と共に、自動ドアの向こうへ二人で足を踏み入れる。
外の生ぬるい空気が、冷たく気持ちのいい空気へと一瞬で変わる、この瞬間がたまらん。
夕方とはいえ、外はまだまだ暑い。しかもさっき走ったし。
ずっと入り口で立ち尽くしていたい衝動を抑え、歩みを進める。
「涼しい〜」
「これだけでもう満足だ……至福……」
「あはは……分かります。……でも、満足するにはまだ早いですよ」
目をきらりと光らせた笹森さんは、なぜか得意げな表情を浮かべている。
「そういえば、ここではなにを買うの?」
この表情になる謎が解けるかと思い、俺は問いかける。
その答えは……!!
「いちご大福です!!!!」
……実に笹森さんらしいものだった。
え? でも……え? コンビニで? え? なんでそんなドヤ顔なの? かわいいけども。
「……いちご大福?」
笹森さんの表情と言葉の理解がいまいち追いつかず、聞き返すような真似をしてしまった。
かなり間抜けな声が出たことだろうが、あまり気にしたくはないな。
笹森さんも気にした様子はなく、美しいまでのドヤ顔を崩そうとはしない。
そして、そのまま口だけを動かし、その顔同様に可愛らしい声が俺の耳に届くこととなる。
「新作です!!」
「新作……あっ! コンビニ限定みたいなこと?」
スイーツのカップにコンビニのロゴが入ったやつ。それなら知ってる。
「そうそう!! そんな感じです!!」
「笹森さん、ほんとにいちご好きだね〜」
「はい! 好きで……って! なんでそんな暖かそうな目でこっち見るんですか!!」
おっと気づかれたか。
はにかんだ笑顔の花を満開に咲かせ、楽しそうに話す後輩の姿は、もう我が子そのもの。
俺とて、そんな姿を目の当たりすれば、頬の一つや二つ、簡単に緩みきる。
そのせいか、笹森さんを見守る視線も必然的に優しいものとなる。
「だからこれは仕方ないんだ、笹森さん」
「仕方なくないですよ!!」
俺の真剣な推理には納得してもらえないご様子。
だが……
「そういえば、そのいちご大福ってどんな感じなの?」
「先輩も買いますか!? ここのはですね、中におっきないちごが丸ごと入っていて、あんこもコンビニとは思えないほどこだわったものを――」
ふっ……ちょろいな。そこがまたいいところでもあると思うが。というか悪いとこなんて見当たらないが。
「で、そのいちごを作っている農家は昔からある、伝統的な農家の人たちで――」
「……」
ん? まだ続く感じ?
「長男の方は、海外の大学でいちご作りの勉強をしていて――」
「…………」
なんでそこまで知って……いやというかまだ……
「これからの、いちご作りの発展へと繋がっていくんだと思うと――」
「……あの、笹森さん」
さすがに……これ以上は、ちょっと大変かもしれない……
命の危機を感じた俺は、笹森さんの話に割って入ることにした。
楽しそうに話しているのを止めるのは心が痛むが……このまま放っておくと、明日の朝まで話し続けそうだ。
このコンビニは二十四時間営業だし。現実味を帯びるには充分だ。
「それで……あっ……」
さらに話を続けようとして、笹森さんの表情は一変した。やっちゃった……みたいな、これまた子供らしい一面を見せる表情へと。
「す、すみません!! つい話しすぎて……」
「いいよ。笹森さん、楽しそうだったし」
「そうですか……」
「俺もそのいちご大福、買ってみようかな。なんか聞いてたら食べたくなった」
あれだけ美味しそうな話を聞くと、やっぱり気になる。
せっかくだし、二人で食べるのもありだよな。
「そうですか……!!」
少し落ち込んでいた笹森さんの顔は、再び輝きを取り戻す。
また同じ話をされるのはちょっと遠慮したいが……まぁ、この顔が見れたならいいか。
「じゃあ、早速見に行きましょう!!」
「はははっ……やっぱりちょろ……」
「え? なんですか?」
「なんでもない。今行くよ」
危ねぇ……余計すぎる一言を口走ってしまうとこだった……
いつもとは違う、激しく弾む胸の音を聞きながら、笹森さんの後を追う。
出番の少なかった奏ちゃんの出番を増やそうと、ここぞとばかりに"笹森さん回"を書く作者です。
作者の執筆スキルをレベルアップさせるため、他の作品を楽しみ……勉強してきます。ではまた次回!!




