83 約束ですよ
図書館を出て、近くのコンビニへと向かう。笹森さんと足並みを揃えられるこの時間を噛み締めながら。
「やっぱり、八月ともなると日が長いですねー」
「だね。夕方でも全然明るい」
五時を回った今でも白い雲がくっきりと見える空を見上げる笹森さん。……を眺めながら俺は会話をする。
「あんまり時間が経ってないみたいです」
「そう考えると、勉強もあんまりしてないことに……?」
「……それは嫌ですね」
ホントに嫌そうな顔をするからかわいい。ちゃんとしてるようで案外、無邪気なとこもあるんだよな。
「……ふっ」
つい息がこぼれた。笹森さんの表情豊かな横顔を眺めていたから仕方ない。
「? どうしたんですか……急に笑い出して」
そして今度は冷ややかな目へと変わった。これもかわいいと思ってしまうのは重症だろうか。いやもう入院しないと。
「いや……表情豊かでかわいいなぁ、って」
「かっ、かわ……!?」
ほらまた変わった。今度は……
「ま、またすぐそういうこと言うんですから先輩はぁ!! セクハラですよ!? それ!」
怖かわいい表情だ。手のひらを俺の方に向け、ぶんぶん振ってる。
「はははっ、ごめんごめん……え? セクハラなの?」
軽く謝ろうとしたところで、なにか引っかかった。
最近は、セクハラとかパワハラとかそう言うのに厳しいし、もしかして俺のしていたことはセクハラになるのか……?
「そうですよ!!」
ガーン!!
金属バットで頭を打たれたらこんな衝撃なんだろう。
打たれたことはないし、そんな機会はない方がいいのだが、少なくともこの衝撃はそう感じさせるほどには凄まじかった。
俺は、知らずのうちに笹森さんとの距離を遠ざけていたのか? 近づけようとしてきたはずなのに……!!
「まったく……他の人にもこんな事、言ってるんですか?」
「言ってない!! そんな誰構わず言ったりはしてない! 笹森さんくらいだよ!!」
これ以上悪い印象を持たれるのはごめんとばかりに勢いよく否定する。
「そ、そうですか……なら……いいです」
「まぁ、でも気をつけるよ……たしかに、何回も言われるとわざとらしいし、嫌だよね」
「……いいですよ」
「え?」
いいって……かわいいと思う気持ちを言葉にしてもいいってことか……?
「私になら……その……そういう、こと」
「……」
笹森さんの目が俺の方から正面へ、正面から足元へ、そして足元からまた隣へと……至る所を写しているのが、歩きながらでも分かった。
ゆっくりと言葉を口にしていく彼女の姿を、じっと見つめる。
「い、言ってもいいんですよ!! い、嫌な思いはしたこと、ないですから!!」
頭から火が昇るんじゃないかと心配になるくらい顔を赤く染め、笹森さんは声を大にして言い放った。
「え? ……え!? いいの!? えっ……それは助かるけど……我慢するのも辛いと思ってたし……」
笹森さんの意外すぎる言動に、俺の頭もオーバーヒート寸前だ。テンパりすぎてうまく言葉にできてない気がする。
笹森さん、嫌ではないんだ……嫌いなやつからそんなこと言われたら普通、嫌がるだろうから。少なくとも嫌われてはないってことか……?
「ほ、他の人には言ったらダメですよ!? その……嫌われますから!!」
「嫌っ……!?」
そんな危ない橋を渡ってたの!? なにそれ怖いんだけど!?
「約束ですよ!?」
「う、うん。分かった」
肝に銘じておこう。俺は危なげなく生きたい。
「あっ、ほらコンビニ!」
「あっ……ほんとだ」
会話? が盛り上がっていたところで、視界に映ったコンビニを指差して笹森さんはテンション高めに駆け出した。
いや、テンションはずっと高かったか……? 声のトーンもボリュームもいつもよりワンランク高かった気がするし。
「先輩! 行きましょう!」
「あぁ、分かった分かった」
やっぱり、どこか無邪気なのかもしれないな、笹森さんは。
なんか、自分で言って恥ずかしくなったのを誤魔化してるような気もするけど……。いや……それはそれで無邪気か?
そんなことを思いながら、笹森さんに続いて駆け足でコンビニへと向かった。
日常回も増やしていこうと思い、今回はコンビニに向かうお話です! ……あれ? 話進まなすぎ……?
『本日のおねだりタイム』
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