80 変わらない想い
「雄二は、さ……」
気づいたら、そう声をかけていた。
こんなこと、今訊くことじゃないのかもしれない。
それでも、雄二の顔を見ていると。奏ちゃんとのことを楽しそうに話す、その顔を見ていると、もう我慢できなかった。
「ん?」
雄二の、不思議そうに私を見つめる、その綺麗な瞳が目に映る。
雄二の、こんな姿を見るたびに思う。
――やっぱり、諦めたくない、って――
私は、更に言葉を重ねる。決定的にもなりうる、その言葉を。
「奏ちゃんのこと、どう思ってるの?」
聞きたかった。
雄二の口から、その答えを。
◆
「あははっ! 春美ちゃん、もしかしてちょっとドジ?」
「うるさーい! そんなことない!! 明里ほどではない!」
「え!? なんで!?」
「とにかく! そういうことだから!!」
何がそういうことなんだろう……?
少し疑問に思いながらも、初めてする春美ちゃんとの会話は盛り上がっていた。
そういえば、この教室結構広いなぁ。
ずっと俯いていたから分からなかった。そんな些細なことに気付けるだけの余裕が出てきたってことかな?
友達ができるかできないか、なんて考えても仕方がないことを一生懸命に考えながら俯いていたが嘘のようだよ。
こんなふうに、自分の生活が一変していくのに驚いていた時。
「あ……」
大きく変わったと思っていた私の生活を、さらに大きく変える人に出会う。
他の人よりも少し遅れて、彼は教室に入ってきた。
急に教室のドア付近を凝視して固まる私を見て、不思議そうに首を傾げる春美ちゃんの顔が視界の隅に映る。
でも、彼を目にしても、あの日抱いた気持ちは変わらない。夢中で彼を見つめていたけど、それだけは感じた。
「あの人……好きなの?」
と、私の前では楽しげな表情を浮かべながら私を見つめる春美ちゃんが。
「ちっ、ちがっ……!!」
まったく! さっきまで首を傾げてたくせに、今ではもう確信したような顔になってるんだから……
「えー? だってずっと見てるよ? 白状した方が楽になるぞー?」
ケラケラと楽しそうな笑い声が私の耳に響く。
「ま、前に見たことあるなー、と思って!」
「ふ〜ん?」
「もうっ! 春美ちゃん!」
出会ってまだ五分くらいだよね? 私、もうからかわれてるんだけど……
でも……あの人、やっぱりここにいたんだ……!! しかも、おんなじクラス……!!
が、頑張って話しかけてみようかな……
◆
「やっぱり……好き?」
聞くのが怖い……でも、はっきりさせておきたい。
……でもやっぱり、怖い……!!
震える足にグッと力を入れながら、雄二の目を見据える。
答えなんてとっくの昔にわかっているはずなのに。
でもやっぱり、こうゆう場面になると心臓の鼓動は加速していく。
手応えのあるテストの結果が返ってくる時みたい。
「……」
さっきまで困惑したような表情を浮かべていた雄二の顔は、いつの間にか真剣なものになっている。
――答えが、来る――
「俺は……」
◆
駐輪場に着いてからどれくらい経った? 急展開すぎてまったく時間が進んでないような気がする。
それくらい、この状況は異常だった。
笹森さんのことが好きか? って……まさか明里に訊かれるとは……
優也には話してあるんだから、明里に話すのも別に変な話じゃない。寧ろ、話しておくのが自然だろう。
それでも話そうとしなかったのには、理由がある。
もしかしたら明里は俺のことが……好きなのかもしれない、なんてことを考えてしまう時があったからだ。
笹森さんのことを好きだと言っておきながら情けない話だが、やっぱり女の子にそう思われるのは素直に嬉しい。
……でもそれ以上に、怖い。
もし本当にそうだとしたら、俺たちの関係はどう変わるんだろう? 俺は、明里にどう接したらいいんだろう? それが、分からなかった。今もそうだ。
「……」
……だが今、この質問には誠意を持って答えるべきだ。それは、明里の顔を見ていればはっきりと分かる。
そう思うと、自然と顔に力がこもっていくのを感じる。
「俺は……」
俺だって、鈍感なわけじゃない。明里がこんなことを訊くってことは、俺の感じていた気持ちは間違っていなかったのだと思う。
だとしたら……尚更、俺は誠意を持ってはっきりと答えてやるべきだ。
これからの関係……
明里の気持ち……
考えなきゃいけない、答えを出さなければならないことは山ほどある。
――でも今は……伝えよう――
「好きだよ。俺は、笹森さんのこと」
――春から変わらない、この想いを――
クライマックスっぽさをうまく書けてたらいいなぁ、なんて思ってます。




